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魔法

 そんなこんなで練習も終わった。

 みんなはシャワーを浴びに行ってるので、その間にリフティング。

 自分の練習があまり出来なかったから、ちょっとカバーしとかないとね。

 この世界のサッカーボールは、地球の昔のボールと同じで牛皮らしい。

 水を吸うから雨の日は重くなるが、普段使う分にはほとんど違和感はない。

 そうそう、シャワーと言っても、桶に貯めた水を使って体を拭いたり、頭からかぶるような形式だ。

 一応ここのシャワールームにも湯船はあるが、滅多に使わないという。

 昔のヨーロッパだとほとんど入浴の習慣が無かったらしいけど、ここでは普通に入浴習慣がある。

 気候がヨーロッパに近いから不思議だと思ったが、何でもリザードマンとかマーメイドのように肌が乾きやすい種族がいるので、真似して入浴するようになったのが入浴習慣の始まりらしい。

 あとやはり、犬並みの嗅覚を持つコボルド族がいる、というのも大きい。

 体臭に気を使う必要があるって事だな。

 デモンズコートは水も豊富だそうで、日本人みたいに浴槽につかるスタイルもやろうと思えばできるそうだ。

 ただ、水道ではなく井戸から水を引っ張るのが一般的なので、浴槽に水を貯めること自体が大変らしい。

 なんにせよ、当然ながら女性陣が出ない事にはシャワールームに入れないので、しばらくは個人練習だな。

 そうしてリフティングをしていると、いつの間にか風呂上がりのシルヴァがいた。

 銀の髪がしっとりと肌に吸いついて妙に色っぽい。

「あれ? どうした?」

「少し、お話が。お時間よろしいですか?」

「ああ、いいぞ」

 背中に乗せたボールを跳ね上げて、足でキャッチし地面に置く。

「翡翠の事です」

「……翡翠がどうした?」

 言ってはみたが、シルヴァの曇った表情から言いたい事は想像がついた。

「お気づきかとは思いますが……あの子の足、おそらく折れています」

「……やっぱりか」

「ええ。お風呂でもしきりに隠していましたが、ひどく腫れ上がっています。とても次の試合には……いえ、どう見積もってもひと月以上はかかります」

「……だよな」

 俺もマッサージをしている間、はっきりわかった。

 彼女の怪我はかなり重い。

 サッカー選手の骨折は、復帰に数カ月単位かかる事はザラだ。

 翡翠の怪我は……そのレベルだ。

「本人は……出たがるだろうが……」

「ええ……うちで一番上手いのは彼女です。練習試合とはいえ、強豪のケンタウロスのチームを彼女の得点で破ったこともあります。あのコを欠いては、とても優勝は不可能です」

 何より、と続けるシルヴァ。

「誰より頑張っていたのも彼女です。……なんとか……なんとかしてあげたい……」

「……」

「そこで相談なのですが……クロウさんのもと居た世界は、どうやらこちらより文化が発展しているご様子。……何かいい治療法はありませんか?」

 そういう……事か。

 確かに、それこそさっきの風呂の話じゃないが、話の中で地球じゃ水道が引かれてる、とかそういう話はした。

 異世界に興味津津な彼女たちに、宴会の際、根掘り葉掘り聞かれたものだ。

 それで彼女たちは地球の文化レベルを知り、衝撃を受けていた。

 だから、俺が翡翠を治せると考えても不思議じゃない。

「……残念ながら、地球でも骨折はすぐには治らないし、俺に医療の技術はないんだ」

「そう……ですよね」

 シルヴァも半分わかっていたのだろう。

 それでも望みを託さずにはいられなかったのだ。

 年長者として、なんとかしたかったのだ。

 ……でも、俺にはどうすることもできない。

「すまない。俺は普通の人間なんだよ。そんな魔法使いみたいに何でも治せたりはしないんだ……」

「魔法……そうですね。魔法だったら治るのに……」

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