マッサージ
この二人はなんてわかりやすいんだ。
「ただ代わりに、翡翠はストレッチとマッサージだな」
「へっ?」
今日は見学だけでは、という顔だ。
「運動は禁止だが、ストレッチはしないとな。怪我した右をかばって左足とか疲れてるはずだ。靴を脱げ」
「え、その、脱ぐのですか……?」
「当たり前だろ。足裏のストレッチからだ。……そうだな、汚れないようにそっちの草の上がいいな」
「ヘンな事はしませんよね?」
「……お前、そればっかだな。相当なムッツリスケベなんじゃないか?」
「……!」
殴られた。
ともあれ。
背の低い草むらの上に翡翠を座らせて、靴を脱がした左足を持つ。
「痛かったら言えよ」
足底の筋膜を押していく。
ここをケアしていると怪我しにくいのだ。
「あっ」
案の定、かなり張っている。
怪我した足をかばってるからだけじゃなく、普段からオーバーワーク気味っぽいな。
試合に出れず、レギュラーのマッサージを命じられたりした事が、こうやって今役に立っている。
正直、それでも当時の監督に感謝の気持ちはないけれど……人生何が役立つかわからないな。
「くっ」
「どうした? 痛むか?」
「い、いえ、痛くは、ないのですが……」
「よし、じゃあ、次はふくらはぎだ」
「えっ、えっ」
妙に戸惑っているように見えるが、ほっといてふくらはぎに向かう。
筋肉部分というより、骨に沿うようにマッサージしていく。
「あっ、くっ」
繊維をほぐすイメージで丁寧にマッサージ。
「あっ、あっ」
……。
「あっ、ふぅん、はぁん」
……。
「集中できねえよ! なんでそんな声出すんだよ!」
「な、何を言ってるんですか! 貴方が気持ち良くするから悪いんでしょう!」
ぽかぽか殴ってくる。
顔は真っ赤だ。
よほど恥ずかしいのだろう。
……と。
ここで気付いたのだが、いつの間にか周りにチームメイトたちが集まっていた。
ヒソヒソと話している。
「ねぇ、奥さん見ました? あれ凄いのとちゃいます?」
「ええ見ましたわ。ヴァイオラ奥様。若いわねえ」
何でヴァイオラとムギは井戸端会議口調なんだ。
全員の好奇の視線が、俺と翡翠に突き刺さる。
「あ、あの……ち、違います!」
「語るに落ちたっすね……がっかりっす翡翠センパイ。何かすら言ってないのに違うとは……」
渋い顔で首を振るアクア。
「ちょっと待ってくれ。何でこんな浮気がバレた人たちみたいな扱いになってんの?」
「ずーるーいー」
リスのように頬を膨らませてブルーがにじりよる。
「ボクの足もマッサージしろー!」
「ちょっ、待……」
「そうだそうだ! オレのマッサージもするべき!」
ブルーやミカンが飛び込んで来る。
「……」
一歩引いてるものだと思ったヤミが、どさくさにまぎれて飛び込んで来た。
もうなんかもみくちゃになって収拾がつかなくなり――
……結局全員のマッサージをする羽目になった。
おかげで俺の二の腕はパンパンで、親指も腱鞘炎だ。
「……誰か俺のマッサージを」
言ってはみたが、誰も応えてはくれなかった。




