表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/48

翡翠

 クラブハウスは、比較的郊外にあったらしい。

 スタジアムから移動してきたときは、結構歩くものだと思ったが、改めて街に向かっていると遠く感じる。

 電車や自転車に慣れてると余計に。

 在来線で一駅、地下鉄で二駅ないし三駅ぶんくらいの距離がある。

 とはいえ、日が沈むと閉店らしいので急いで行くしかない。

 街を行き交う人たちは、やはり色々な種族が揃っていて、現実感を無くしそうになる。

 当たり前のようにケンタウロスがぱからぱからと歩いていて、ハーピィが空を飛んでいる。

 ヒトももちろんあちこちに居て走り回っている。

 その脇を、木で編んだ買い物かごを持って歩いていく。

「そういやさ、全然気づかれないな」

「ん? 何が?」

「ホームのサッカー選手なのに、誰もブルーに気付かないなーと」

「おー、それは簡単だよ後輩クン。人気がないからさ」

 胸を張るブルー。

 いや、その内容で張るなよ。

「そ、そうなのか」

 まぁ、日本でも代表クラスのスーパースターでも無ければサッカー選手が街を歩いていてもみんな気付かないだろう。

 サッカー選手だと気付かずに一般市民だと思ってTVで街頭インタビューしてたりとかもあるもんな。

 でも、サッカーが盛んなヨーロッパの都市に似たこの街は、なんとなく選手も人気なのかなと思ったのだ。

 よく考えてみれば、最初に飛ばされたスタジアムのホーム側の観客席はずいぶんガラガラだったよな。

「っていうか、デモンズコートはもう1チームあってね、そっちが人気なのよ」

「もう1チーム?」

「そ。魔族代表、グレーターデーモンズ」

「それって、めちゃくちゃ強いって言う……」

「強いよー。10年連続王者。優勝回数も最多なんだ」

「だとしても勝つしかないけどな」

「そだねー」

 軽っ。

 完全なる生返事。

 ブルーの頭の中は、晩御飯の事で一杯なのだろう。

「……っていうか、話してる場合じゃなかった。急がないと本格的に日が傾いてきた!」

「おー! 急ごー!」

 二人してダッシュ。

 デモンズコートは港町でもあり、商店街は海にほど近い位置にあった。

 慌てて駆けこんだ商店街の八百屋で、人参やじゃがいも、それからネギっぽい野菜を購入。

 それから魚屋で、アラを安く買ってきた。

 ついでに昆布ももらった。ちなみに昆布を買うのは人魚族くらいらしく、首を傾げられた。

 そうして帰路につこうとしていると、同じように買い物かごを下げた見知った人影が見えた。

「あー! 翡翠!」

 ブルーがぶんぶんと手を振る。

 その緑の髪は、間違いなく翡翠だった。

「あら。ブルーさんと……クロウさん。二人してどうしたの?」

「お買い物~。今日の晩御飯のおかずだよっ」

「ああ、なるほど」

「そっちも?」

「ええ。今日はキノコが安かったので助かりました……って、何ですかその顔は」

 翡翠が怪訝な表情で俺を見る。

 どうやら、俺の「えっ」みたいな感情が顔に出ていたらしい。

「い、いや。翡翠ってお嬢様っぽいから、意外だなって……」

「それは悪うございましたね。どうせ私は没落貴族ですよーだ」

 イーと口の両端を引っ張る翡翠。

「えっ? そうなのか?」

「……あら? てっきり嫌味かと」

 目を丸くする翡翠。

 嫌味も何も、初耳だ。

 でも、確かに決めつけは良くないよな。

「いや、俺の言い方が悪かったよ。すまん。……ただ上品な物腰と買い物のイメージが結びつかなくてな……」

「まぁ褒め言葉として受け取っておきましょうか」

 ……なんだろう。

 俺は、このコのバックボーンも、プレースタイルも、何一つ知らないのだ。

 上手く言葉に出来ないけど、なんだかもやもやする。

「あ、翡翠もうちきて食べる?」

「遠慮しておきます。父が待っていますので。それではごきげんよう」

「うん、また明日ね~!」

 痛めた足を少し引きずりながら、翡翠は雑踏に消えていった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ