フリーダム
「お、おい!」
「……おー、新聞のインタビューなら後にしてえ~……」
半覚醒状態でつぶやくブルー。
夢の中ではスーパースターか。
「何で俺の上に足乗っけてんだ、よ、と」
足を持ち上げてどかす。
それでやっと起きたらしく、むくれた顔を向けてきた。
「何で起こすのー! いいところだったのにー! MVPに選ばれたんだよ!」
夢でな。
「何でここにいる」
布団まで俺の横に持ち込んでいた。
それでいて壮絶な寝相で真横になっていたようだ。
「何でって、来たから」
寝転がったまま言う。
「その来た理由だ」
「……」
答えない。
急にしょんぼりと――あの明るさが嘘のように――俯いてしまった。
正直、俺に一目ぼれしてここまで乗り込んできた――というようには見えない。
というか、俺の事を男として見ているかも非常に怪しい。
だからこそ、なぜこんなに一緒に寝たがるのか、理解できない。
子どもじゃないんだから――
……?
……いや、待て。
そういう……ことなのか?
「……寂しい……のか?」
「……そんな事、ないもん」
絶対そんな事ある顔。
「……ここに他のメンバーが泊まる事は?」
「……ない。みんな家があるから……」
……なら、逆に言えば。
「……聞いていいか?」
「……なぁに?」
一旦、深呼吸。
「……家族は?」
「……いないよ」
「いつから?」
「ずっと」
……。
そうか。
「……ママはボクを産んだときに、亡くなったって。パパは三年前に鉱山の事故で……」
そうなんだ。
ここは日本じゃない。
天涯孤独という言葉は、日本じゃ滅多に見かけない言葉になった。
医療の進歩、危険な業務への規制、自動車のエアバッグに代表される安全対策、七〇年に渡る戦争のない平和……もちろん、両親を亡くした子はいくらでもいるだろう。
だれど、それが当たり前にどこにでもいる……そんな風な国では日本はない。
しかし、世界には溢れている。
戦争や貧困が、アフリカや中東をはじめとして、天涯孤独の子どもはいくらでもいる。
同様に、中世のようなこのア・ラバスターでも、その比重は変わるまい。
自分の考えの貧困さが、情けなく感じる。
「……」
気がつくと、俺はブルーの頭を撫でていた。
カッコつけたかったわけじゃない。
自然と、そうしていた。
「……子ども扱いしないでよ」
ぶつくさと言うブルー。
でも、その頬は緩んでいた。
「今日だけ」
「ほえ?」
「とりあえず、今日だけはここで寝ていい」
言うと、またもブルーはむくれた。
「……ケチ」
「……自信がないんだよ」
「え?」
「……何でもない」
こんな、可愛い女の子が隣で寝てて……。
理性を保てる自信なんてない。
でも、ここで襲うのは……違う。
弱みに付け込んでるみたいだ。
それに、異世界に放り出された俺を拾ってくれたみんなを裏切ることだ。
冷静に考えたら、ここまでよくしてくれるものだろうか。
逆の立場だったらどうするだろう?
見ず知らずの男が、急に別の世界から来たとして、俺ならどうする……?
きっと……無視するだろう。
助けないだろう。
仮に人数合わせで試合に出したとして、その場限りの助っ人で終わるだろう。
礼はもちろん言うだろうけど、住む場所まで手配するだろうか。
その恩義を感じなきゃ、俺は最低だ。
だから――
「……どうしたの? 難しい顔して」
「……だから何でもないってば」
「むぅ……いいもんね」
ぷい、と顔を背ける。
「そっちがその気ならこっちだって言う事聞かないもんね」
立ち上がるブルー。
「え?」
「ボクはボクが寝たい所で好きに寝るもーん」
彼女はスキップしつつ逃げ出した。
結局、まるで言う事を聞かないブルーを追いかけまわしているうちに、夕方になった。
あれだけ走り回っていたブルーがぱたりと止まったかと思うと、
「おなかすいた」
と呟いた。
ホントに子どもかお前は。
「んじゃ何か作るか」
「作れるの?」
目をキラキラさせて言うブルー。
「あ、ああ。まぁ簡単なものなら」
うちの両親は健在だったが、共働きであまり家に居なかった。
医師と弁護士で、出勤は早朝、帰りは夜遅く。
自分はサッカーで疲れて帰ってくるので、すぐ寝てしまい、普段ほとんど両親の顔を見た記憶がない。
超がつくほど真面目な二人で、別に子どもを愛してないわけではなかったと思う。
でも、責任感の強さから自分の家庭は後回し、そんな二人だった。
……そうだ。
だから子どもの頃、日も暮れ始めてみんなが帰りたがっても、サッカーを続けようって懇願してたな。
みんなが帰っても、親が帰ってくるまで公園でリフティング続けたり、自転車よけのポールでドリブル練習してた。
まぁ、それはさておき、たいていの事は自分で出来るようになった。
メシや弁当も自分で作ってたし。
というわけで、炊事場に向かった。が、食材が思ったより少ない。
「あれ? 冷蔵庫は……」
と口に出して気付いた。
電気もないのにあるわけない。
「レーゾーコ?」
「忘れてくれ。……となると微妙だな」
保存食の魚の開きと、米、それからつけものくらいしかない。
冷蔵庫が発明されるまでは、その日食べる分をその日買いに行くのが普通だった、みたいな話を聞いた事があるが、ここもそうなんだろう。
「食材を買いに行きたいんだが……お金ってあるのか?」
「うーん、少し。でも大丈夫だと思う。今からならお店が閉まるぎりぎりに行けるし、安くなりそう!」
「閉まるってまだ夕方……あ、そうか」
電気がないってことは、街灯もほとんどないって事だ。
店も夕方には閉めて当然だ。
コンビニに慣れ切った現代人にはつらいものがあるな。
「よし、じゃあ行くか」
「うん!」




