監督
・3
結論から言おう。
俺はFCカーネイションの監督兼選手になった。
というより、それ以外に道が無かったのだ。
右も左もわからない異世界で、仕事なんて見つかるはずもないだろう。
元の世界に帰れる可能性すら、サッカーの優勝以外にない。
選択肢なんて、ない。
というわけで、まずは土下座からだった。
事故ではあるし、悪気はないとの事で、大半のメンバーには許してもらえた。
が、やはり翡翠だけは許してくれなかった。
「あり得ません。私たちだけで上手くやって来たのに……こんな変態男が入るなんて」
と、お冠だ。
いや、変態は誤解だ。
翡翠には、どうにか納得してもらうとして……。
とにかく。
優勝しなくてはいけないのだ。
「というわけで、改めて。監督兼選手として就任する事になった矢田駆郎です。よろしく」
ミーティングルームの床に車座になったみんなの前で、ぺこりと頭を下げる。
よく考えたら、お辞儀って日本の文化だよな?
通じるのか? と思ったが、釣られてメンバーもぺこり。
頭を下げるってまぁ敵意がない事を示すには最適だから、どの文化圏でも収斂進化みたいに同じになるのかな。
余談だが、後で聞いた話では魔族は頭を下げないらしい。
プライドというより、角で相手を傷つける可能性があるからお辞儀の文化がないのだそうだ。
「そういえば、リーグ戦はいまどのくらい進んでるんだ?」
実は次節で終わりで逆転の見込みなし、となったら帰れるのは最速で来年になってしまう。
「今、2節目なのである。前節はアウェーのミノタウルスに負けたから、一勝一敗、勝ち点は3である」
「ほう。まだまだ全然チャンスはありそうだな」
「……それはどうかなー」
とレット。
「グレーターデーモンズは下手したら1勝も取りこぼさないかも……」
「魔族のチームだっけ? そんなに強いの」
「すっごく」
か、とこちらが言い切るより早く、食い気味に言われた。
これはよほどらしい。
「それは考えても詮なき事。今は、次の戦いに集中すべきかと」
シルヴァの言う事ももっともだ。
「次は、どこなんだ?」
「ミュルミドーンのクイーン04やな」
「ミュルミドーン……蟻人だっけか。そういや、今日は観客席にもいなかったよな? どんな姿なんだろ?」
「彼らは極めて統制された集団生活を取りますから、個で行動することは稀です。魔王様の支配下の種族ではありますが、自治に近い存在ですね」
へー。シルヴァは何でも知ってるな。
プレーもクレバーだし、DFラインの統率はシルヴァに任せて問題なさそうだ。
「クイーン04の特徴ってどんななんだ?」
「そら連携プレーやろ。ミュルミドーンやさかい、一糸乱れぬ統率は脅威やで」
なるほどなー。蟻だけに得意そうだ。
「個の力はどんなもんだ?」
「にょろん。そんなでもないかな。少なくとも勝負はできると思うよ」
「そうだぜ! 去年は1引き分けはしたしな。その意味で言えばモノアイズの方が全然強えぜ」
なるほどな。
個より組織ってタイプのチームか。
「油断は勝利を掻き消す深き霧……過去は我らが領域ゆえに……」
メタルが言う。
その言葉と裏腹に、えらくおずおず言うんだな。顔も赤いし。
恥ずかしいなら普通に喋ればいいのに……。
「うーん、メタルたんの言うとおりだよ。前回引き分けたのはホームだしさ。アウェーだとボロ負けしてるじゃない」
「うぐっ、そ、そうだったぜ……」
ムギの指摘に唸るミカン。
「来週はアウェーのミュルミドーン自治区か……気が遠くなるのである……」
「おー! サンドバレー! 楽しみ!」
顔を曇らせるモモと違い、はしゃぐブルー。
「……アハハ。そんな楽しみかいなあそこが。暑いだけやで」
「景色が面白いの。穴だらけだしさ」
絶景、って事か。
だが暑いって事は、水分補給やストレッチが大事になる。
対策も考えとかないとなー。
「うーん……」
しっかし、どう攻略するかは悩みどころだなあ。
ウチも組織で個を倒すのが向かうべき方向性だと思うし、組織に組織でぶつかったら、当然組織力が上のものが勝つ。
それが蟻の組織力となると、勝ち目はないように思う。
就任早々、なかなか頭を使わないといけなさそうだった。
というか、流石に眠すぎる。
よく考えたら、試合後からの夜通しの宴会で、一睡もしていない――




