花火
初投稿です。拙い文章ではありますが、短めなのでもしよろしければ最後まで読んでいただけたら幸いです。
涙で濡れた顔は、先ほどの花火の美しさとは対照的であった。
君はいつもそうだ。
たいして仲のいい友達がいるわけでもなければ、独りぼっちというわけではない。
頭が特別良くも悪くもなく、ただいつもぼんやりと日々過ごしている。
そんな他の人が見向きもしないような君だからこそ、私は恋をしたんだと思う。
君は、私のこと好きでいてくれるのかな。
私も、君のこと好きでいられるのかな。
いつものように起きた俺は、いつものように学校へ向かう。
授業は俺にとっては退屈そのものだ。
こんなことやって何の役に立つのか俺にはさっぱりわからないし、下手したら教えてる教師すらわかってないんじゃないかって思う。
ただまあ、なんとなく座って適当に問題解いたりしてるだけで終わるんだから、文句言ってもいられない。
俺がこの学校に来る意味は、君に会うためだ。
いつもキラキラしている君。部活に勉強に生徒会、なんだってそつなくこなす彼女はクラスどころかこの学校中の人気者。
俺みたいな教室のすみっこで数少ない友達と駄弁っているようなやつとは一生関わらないであろう世界の住人。であるはずだった。
俺は親の仕事の都合上小学校の頃から転校を繰り返している。
高校生なんだから別に親元を離れていたってよさそうなものだが、父が他界して以来、女手一つで育てている母としては、そばに置いておかないと不安なようだ。
それは仕方のないことだし、人との交流があまり好きではない自分にとって、そこまでつらいことでもなかった。
この学校に転校してきた当初、彼女はとても親切にこの学校について色々教えてくれた。
それは断じて俺に好意があったわけではない。彼女はそういう人なのだ。
人が困ってると放っておけないタイプ。俺には到底理解できない。
たまたま家の方向が同じだったがために、学校について教わりながら二人で下校しているうちに、何故かそれが定着してしまい、今でも二人で帰っている。
俺は構わないのだが、もしかしたら彼女は一緒に帰るのをやめてしまっては俺が傷付くと思っているのかもしれない。
考えすぎかもしれないが、それくらいのお人よしなのだ。
まあ、今日帰るときに機会があったら聞いてみるか。
まあそんなことよりも伝えなきゃいけないことがあるんだよな。
それはいつになったら言えることやら。
・・・今日こそ誘いたいな
私は部活仲間との会話もそこそこに、体育館から駆け出した。
今日は少し部活が長引いてしまった。君を待たせては悪い。
大好きな君が図書館でたいして興味のない本を眺めて待っててくれてるんだから。
「お待たせ!待った?」
「いや、この本面白いから別にもっと遅く来てくれたって構わなかったんだけどな。」
そういいながらさっさと本を本棚に戻す君がおかしくてつい笑みがこぼれてしまう。
二人で校門を抜けて、人がまばらな帰り道を二人で歩き始める。
今日こそ言わなきゃ。言わなきゃ。
「あ、あのさ一つ言いたいことあるんだけど、いいかな。」
「なんだよ、そんなかしこまって。」
「やっぱ後で言う!」
「・・・なんだよ。」
すごい不審そうに見つめてくる君の表情に、つい焦ってしまう。
「明日!・・・花火・・・見に行きませんでしょうか・・・」
「花火?なんで俺と?」
「別に君が良い訳じゃない!ただみんな忙しくて君ぐらいしか暇じゃないの!」
「おいおい俺を暇人扱いするな。まあ別に良いけどよ、ほんとに俺でいいんだな?」
「良いって言ってるじゃない!」
「はいはい。友達に会って噂されても知らねえからな。」
むしろ噂されたいわ。ばか。
「なんだその何か言いたそうな顔は。」
「何でもないわよ!じゃあね!」
(誘えた!誘えたけど...なんであんな言い方になっちゃうんだろう私...)
恥ずかしさのあまり小走りで家へと駆けだした。
(・・・結局言えんかったなあ)
彼女との会話は終始彼女のペースで、俺はほとんど話を聞いてるだけだ。
まあ彼女の話は、俺が普段生活しているうえでは絶対に体験しないような世界のお話ばかりで、とても面白いので問題ないのだが、今回のように言いたいことがあるときになかなか言い出すことができない。
(・・・それにしても花火か。小学生ぶりぐらいか。)
いつものようにぼんやりと外を眺めながら家へと向かっていく。
彼女の横で花火を眺める。
花火はなぜこうも美しいのか。熟練の職人たちが真っ黒な夜空というキャンパスに一瞬の花を描く。
恐らく消えてしまうからこそ美しいのだと思う。誰もが消えないで、と願うものの、それでも消えてしまう無情さ。儚さ。それこそが花火なのだ。
そんなことを隣の彼女は思ってもいないだろう、とても幸せそうな表情で夜空を見上げている。
彼女に好意を抱いていないと言えば嘘になってしまう。
ただ俺は君を好きになってはいけない。俺と君ではあまりに不釣り合いであるし、それに俺はまだ君に言っていないことがある。
俺にとって彼女は花火のようなものなのかもしれない。
突然現れて、僕を魅了して、また突然去っていく。
いや、去ってしまうのは僕の方か。
今日こそ、彼女に言わなきゃいけない。
「・・・あのさ、言いたいことがあるんだけど。」
「奇遇だな。俺もだ。」
花火の美しさに魅了されてか心なしか彼女の頬が赤い。
「じゃあ・・・私から良いかな。」
そういって、彼女は俯いたまま続けた。
「・・・好きです。」
思わず息をのんで言葉が出ない俺に、彼女は頬を紅潮させて続けた。
「最初はね、ただの親切心だったの。転校して全く知らない場所で、怖かっただろうから、少しでも早く慣れてほしかった。だけど、途中からはそうじゃなかったの。君は、他の誰よりも私そのものを見てくれた。自分のために私に優しくするんじゃなくて、ただただ優しくしてくれた。何も言わなくてもそばにいてくれた。誰も知らないのかもしれないけど、君は誰よりも優しくて誰よりも周りのことを見れて、私には持ってないものをたくさん持ってる。だから、そんな君だから、大好きになれたの。」
花火が終わり、人々は家路につき始め、あたりは閑散とし始めていた。
あまりに衝撃的な言葉に、理解がおいつかなかった俺は、言うつもりだった言葉をそのまま口にした。
「俺さ、また遠くに引っ越さなきゃいけないんだよね。」
その時の彼女の表情はきっとこれからもずっと忘れられないだろう。
あれから一年経った。
俺の大学生活は、昔とほとんど変わらない。
あの頃と同じように、端っこのほうでいつもぼんやりと授業を受けている。
ただ少し違うのは、隣がやかましい。
「・・・だから泣いてないって。」
「泣いてたでしょあの時!!男が泣くとか恥ずかしくない?もしかして私と離れ離れになっちゃうと思った?残念でしたー!!」
「・・・去り際に志望校言ったのが間違いだったか。」
「あーそういうこと冗談でも女の子に言っちゃいけないんだ!試験前ノート見せてあげないからね!」
これはいけない、言い過ぎた。あとで彼女の機嫌を取らなければ。
・・・花火は消えてしまわなくても、儚くなくたって、本当は美しいのかもしれない。
こんな青春が過ごしたかった。もし反響があればまた何か書きます。最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます!!