ど、どうもドッペルゲンガーです
俺の名前は不知火 翔琉。どこにでもいるような普通の中学生一年生だ。
部活はハンドボール部で、学力も平均以上はあり、友達関係も良くて、趣味は流行っているMMORPG<アトランティスオンライン>
部活がオフの日は、友達と夜までがっつりプレイしている。
これからの話は、俺が体験した、不思議な転移の物語。
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その日和は小気味良く晴れ上がった1日。残暑が遠退くと、季節は露骨なほど秋らしい顔を見せる。
俺はランニングと筋トレをし終わり、試合の練習の途中だった。
顧問の厳しい指導に耐えながら、チームメンバーとお互いに切磋琢磨していた。
少し休憩が入り、汗を拭き、水分補給をした。体育館はもう十月下旬だというのに、ハンドボール部と、バスケ部の熱気が溢れ、ちょっとしたサウナになっていた。
再び練習を始め、三十分程経った時、それはやってきた。
二年生の先輩の強力なジャンプシュートが頭に当たってしまったようだ。
当たりどころが悪く、俺はしばらく意識を失った。
ただ、俺が意識を失う直前、不可解な物を見た。
『もう一人の俺?』
そう思ったのだが、確かめる前に俺の意識は飛んでしまった。
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俺の意識が戻ったのは……と言っても時間は分からない。
体は動くし、頭や意識に異常がある訳ではない。
俺は木の下に横たわっていた。目を開けてもしばらく異常に気づくことが出来ずにぼーっとしていた。
起き上がってみると、そこは果ての無いような草原で、一面見ても草で、少し遠くに町がわずかに確認できる。
『今ラノベ小説で流行りの異世界転移か?』
そう思ってしまった、何故なら、サウナのような体育館にいたのに、ここは爽やかな風が吹き通い生活に適した春の気温だ。
風が俺の前髪を撫で、太陽の光は激しく俺を照らす。空気が澄んでいて、手を伸ばせば雲に届きそうだ。
驚いたのは、服装で、学校指定のジャージがいつのまにか、ゲームの初期装備でありがちな服装になっていた。
革で出来た分厚い服にズボン、そして革靴。
そしてなによりインパクトがあるのは腰に下がっている鞘に収まっている長剣だ。
まさにゲームのチュートリアルだ。
俺の気分は高揚し、なにか新しい日々が始まりそうな予感がした。
胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込み、吐き出す。その行動が気持ち良くて何度も繰り返してしまう。
すると、後ろから草を踏みしめる足音が聞こえた。
「あっ…えっとご……ごめん……ぼ……僕の名前はカナン。えっと、君のドッペルゲンガーです」
カナンはうつむいていて、声が小さいので聞きとりにくかったが、内容は分かった。
カナンは泣き出しそうで、凄く震えている。
「え?あっと……まぁなんか良く分からないけど君が俺のドッペルゲンガー?って……はぁ!?」
俺は大きな声を出して驚いてしまったのだが、それも仕方がない。ドッペルゲンガーがいきなり自分の目の前に現れたら焦るしかないだろう。
俺の大声はカナンを驚かせてしまったようで、カナンは泣き出してしまった。
「ど、どうしたカナン?そんな、泣くこと無いだろ。
俺は普段泣かないんだから、ドッペルゲンガーの君が泣くは辻褄が合わないだろ?」
俺は嗚咽が止まらないカナンの背中を撫でながら言った。
「……あ、あのね……僕はドッペルゲンガーだけど、普通のドッペルゲンガーとは違うんだ……。なんていうか翔琉君が普段見せない、弱さや臆病なところとか、負の感情を具現化したのが僕なんだ」
具現化とか難しい言葉は分からないが、砕けた話、俺の弱さが物体として現れたということらしい。
「僕が君の前に現れたら理由はね。世界を救う救世主になって欲しいんだ。君がyesと答えるなら全てを教えるけど、もしNOと答えるなら今の記憶を全て消します」
「はぁ。良く分かんないよ普通。自分の分身が世界を救えなんていきなり言ってきても『はい行きます』なんて答える人がいるか?」
俺は呆れながら言った。
「居ないよ。でも回答は急がない……って言っても二日後までに回答をお願いします。友達を呼んで来ても良いからさ気が向いたらで良いから来てよ。もう一度僕に会いたい時は鏡の中に話しかけて。そしたら喋れるから」
そういってカナンは消えた。
それと同時に俺の視界は草原から天井へと変わった。
学校の保健室の天井だ。気を失ってから運ばれたらしい。
「はぁ」
俺はため息を着くと頭を整理した。
部活中に気絶して異世界転移させられてドッペルゲンガーが現れて世界を救えと言われた。
「いやちょ、マジで笑えないでしょ」
思わず声に出してしまった。
すると、個室を囲んでいたカーテンが開かれて、一人の少女が顔を出した。
「翔琉。大丈夫?」
その少女は赤い目でこちらを心配して見ている。
「なんで居るんだ?紬」
彼女の名前は佐藤 紬。俺の幼なじみで、幼稚園から一緒に暮らしている。
「いや……委員会の仕事で留守番してたら行きなり喋り出したからさ」
紬は少し恥ずかしそうに言ってた。
「いや、そんな隠れてないで出てこいよ。それとも男子である俺との二人っきりが嫌か?」
「いやいや、そんなんじゃ無いけどだって……」
そこまで言いかけた時にドアがガラガラと開いた。
「あっ、先生。翔琉、目を覚ましましたよ」
「おう。留守番ありがとう。もう四時半だから帰って良いよ」
保健担当の宮本先生は、元気良く言った。
宮本先生は人気で、教師として、指導に優れているだけでなく、人間としても優れている。
「はい。分かりました」
紬はバッグを持つと保健室を後にした。
「先生。あの……僕、気絶したのに病院に搬送とかされなくて大丈夫ですか?」
「その事なんだけどね。気を失ってから寝言みたいなの言っててね。もしかしたらすぐに起きると思って保健室に居てもらったの。お母さんには電話で伝えてあるか安心してね」
「あぁ。ありがとうございます」
「それで、お母さん、まだお迎え来れないみたいで、お父さんは電話が繋がんなかったんだけど、だいぶ回復してるけど、一人で帰れる?」
「はい。余裕で帰れますよ」
「でも危ないから自転車には乗らないで押して帰ってね。部活の顧問の先生には報告しておくから」
そんな会話を終えたあと、安易なアンケートに応えてから保健室を出た。
下駄箱への曲がり門を曲がると、すぐそこに紬が立っていた。
「紬。こんな所に立ってたら危ないだろ」
俺はいつもの事なので慣れていた。
「うん。ごめん。翔琉が一人で帰るの危ないから一緒に帰ろうかなと思って」
紬は照れながら言った。
「まぁどっちでも良いけど。自転車には乗んねえぞ。危ないから。後、あんまりくっつきすぎんなよ。周りの奴らに変に見られるから」
俺は念をおして言い、靴を上靴と入れ換え、靴を履いた。
少し距離を取って歩き、自転車小屋を出来るだけ早く去った。
小学四年生までは普通に喋れたのだが、小学五年生を過ぎると、急に喋るのが恥ずかしくなった。
そして中学生に成ってから、少しは話せるように成ったものの、まだ慣れない。
俺と紬、そして後三人で仲の良いグループがあるのだが、中学生になってからその五人ではあまり集まれていない。
「翔琉。あのさ……また昔みたいにラヌって呼んで良い?なんか翔琉って呼ぶのなれない」
「学校と家以外なら良いけどそれ以外は翔琉って呼んで。じゃないと変な目で見られる」
「ラヌ」は昔のあだ名で、名字が「不知火」だから、「ラヌ」になったらしい。
微妙な距離感で歩く俺と紬の間を夕焼けは赤く、そしてオレンジ色に照らす。
俺の恥ずかしい気持ちを紬に伝えるように。
『追記』
申し訳ありませんが、諸事情により、この作品の投稿を、中止いたします。こちらのサイトの方針により、投稿した小説を削除する事はあまり良くないので、この1話のみ残します。
転移という単語を無理やり使った感が半端ないですね(笑)
忌み子の旅という別の作品と平行で連載しますので、投稿が遅れますがご了承ください。
お読み下さりありがとうございました。