酒
レンブラントは昼食を恐らくは意識的にゆっくり食べた後、仕事に戻っていった。
なんとなく心ここに在らず、だったリョウは出かける間際に二言三言交わした会話もよく覚えていない状態だ。
多分、帰りは遅くなるとかそんな事だったんだろうな、という程度。
「……ミートパイ、まだ残ってるわね。あとは……」
とにかく体を動かしたくてリョウが台所にあるものをチェックしていく。
レンブラントのおかげでサンドイッチは消費できたものの、ミートパイはまだ少し残っていて、その他に朝のうちにハンナが焼いてくれたパンが数種類。これは明日まで残るようなら揚げパンに決定という小ぶりなサイズの物に仕上げてくれている。
それから最近リョウが気に入ってよく作っている肉の揚げ物は先に下味をつける時と、揚げた後にタレにつけるものがあり、今日のところは先に下味をつけておいて揚げるだけになっているものがあって……そういえば干し肉を先に使ってほしいって言ってたっけ。あれで出汁をとりながら野菜のスープを作ろうかな。
なんて思いながら野菜をあれこれ取り出して、皮を剥き、刻むという作業を始める。
こういう事はすっかり慣れたもので何も考えなくても手が勝手に動く。
シュルシュルと皮をむいて、向きを揃えて刻んで。刻んだ順に鍋に入れて……。
「あ……やっちゃった……」
はたと気づいて手を止めたリョウが一瞬考え込むようにしてから目を泳がせた。
うん、何も考えてなかった。
刻みすぎたし、入れすぎた。
でも切ってしまったものは仕方ないし、もうひと回り大きな鍋を持って来て中身を移し替えて……。
それでようやく鍋のサイズと中身の量のバランスが良くなった。
水をもう少し足して中身を一混ぜしてみる。
ギュウギュウで身動きが取れないくらいだった野菜や干し肉がくるりと気持ちよさそうに鍋の中で動くのを見ながら。
……私にとってこんな風に居心地のいい場所って……どこなんだろう。
なんてふと思う。
狭い村は窮屈で、ほんの少しの言葉も行動も全て監視されてしまうから居心地が悪かった。何をやっても怖がられるし、一度そうなったらその印象を払拭する事はできない。
この都市はそれに比べれば広くて。
多少失敗をすることがあっても人の数が多いから薄められるような気がしていた。
それにいつもよくしてくれる人に囲まれていたから甘えもあった。
……ああ、それがいけなかったのだろうか。甘えてしまうから最終的に地が出てしまったのかも。しかも一番出しちゃいけない人に。
もっと上手く自分を抑えられていればよかったのだろうか。
そもそも、人の都市に住もうと思ったこと自体が……間違いだったのだろうか。
あれ。なんで私、こんなところにいるんだろう。
そもそもが人と関わることの出来る存在じゃなかったはずなのに。
だからみんな私のそばからいなくなっちゃうんだわ。
父も母も、私がこんなだから私を残して死んでしまった。
村の人たちもそんな私だから関わろうとなんかしなかった。
クロードだって、私をおいて逝ってしまった。
そんなことをふと考えると、家の中の静けさがやけに耳に痛い。
ハンナやコーネリアスは私の相手をすることに疲れていたんじゃないだろうか。
アウラにはくだらないお喋りに付き合わせてしまったし、差し出がましくもルーベラに貰ったというペンダントを大事にしなさいなんて、いらないお節介をやいてしまった。
グウィンには……いつも甘えっぱなしで……きっと迷惑ばかりかけている。今日だって私が余計なことを言い出したせいで面倒な会議に引っ張り出されてるんだし……ああ、そもそもこの仕事のために彼を呼び出してしまったのは私だったんだっけ。
この度の会議にはさすがに私も顔を出すべきなんじゃないか、なんてレンブラントに言ってはみたが「リョウがわざわざ出てこなくても大丈夫。ああいう会議は上に任せておけばいいんです」なんて言われて、そういうものなのか、と納得してしまったけれど……本当は私の存在が都市としても厄介だから関わらせたくないという事なのかもしれない。
そもそも、グウィンが竜族だなんて誰も知らないんだから公には私は監視されながら仕事をしている、くらいの立ち位置だ。
だからみんな、私をおいて行ってしまうのだ。
「はああああああっ」
久しぶりにどん底まで思考が沈み込んだのを自覚してリョウが大きくため息をついた。
そんなことを考えている間にも手は動いてスープは出来上がってしまったし、煮込んでいる間に揚げ物も終わってしまった。
のろのろと作業をしていたせいで日が傾いてまもなく夕刻、といった時間帯だ。
「……飲んでしまおうかしら」
リョウの視線の先には今朝ハンナが「まだ残っていた」と出しておいてくれた林檎の酒。瓶に詰めなおしておいたものが一つ、棚の奥から出て来たようだ。そして、その瓶の後ろにはレンブラントが時々飲むからと買ってあるちょっと強めの蒸留酒の瓶。
そういえば北の都市でグウィンがこういうお酒をかなりのペースで飲んでいたことがあったな、なんて思い出し、そちらの瓶にも手が伸びる。
「帰りが遅いなら、料理は隣の部屋に出しておけばいいよね……」
なんてぼそりと呟いて、スープ以外の料理をテーブルに並べてしまう。
食事は済ませてくるかもしれない、ということだったけどはっきりはしないので一応三人分出してみて。なんならそのまま明日の朝ごはんにしてもいいんだし……。
なんて考えながらミートパイと揚げた肉だけ少しずつ自分用のつまみに取り分けて。うん、この肉の取り合わせ……女子の境界を乗り越えたわね。
スープを温め直すくらいはレンブラントは難なくやるしきっとグウィンだって台所は使える。
あとは朝ハンナが多めに焼いておいてくれたパン。
手のひらサイズくらいに焼き上げてあるパンを横半分にスライスして、チーズを乗せてオーブンで軽く焼き直す。パンだけでも数種類あるから乗せるチーズも種類を変えてみよう。
で、皿に並べて盛り付けておいて、と。うん、これもちょっとだけつまみにいただいていこう。
あ、つまみに女子要素発見。ハンナの焼き菓子。林檎のお酒なら甘いものでも合うんじゃないかな。
と思って布巾がかぶせてある皿を覗くとチョコレートのカップケーキ。
おお、これは中からチョコレートが出てくるやつだ。……うん、これって蒸留酒にも合うんじゃなかったっけ。
「……うん。美味しい」
久しぶりに飲む林檎の酒は爽やかで後を引く。チーズを乗せて焼いたパンに蜂蜜を少しかけて一緒に食べるともうお菓子を食べているくらいの感覚だ。
軽く一杯飲み終えたところで蒸留酒の方をカップに注ぐ。
「お、これはやっぱりちょっときついわね……」
なんて呟きながらも、程よく頭がぼやんとしてきてちょっと気分がいい。
このくらいの強さで味なら、肉は絶対合う。揚げた肉には檸檬を絞ってサッパリさせてあるしハンナのミートパイはスパイスたっぷり。どちらも酒との相性がいい。
寝室のソファで一人で飲む、なんて普段はやらないことだったけれどこういう特別感がなんともいえずゾクゾクする。
クロードがいたら軽くたしなめられたかもしれない。「行儀が悪い」って。
寝間着姿でソファで胡座をかいてカップになみなみと注いだ蒸留酒をこくこくと飲みながらそんなことを思う。
「ふふ……私だってもう大人なんですからねー。一人でお酒だって飲むんですよーだ。……そうかクロードとお酒飲むなんてことはしなかったな……あの人、お酒なんか飲めたのかな……」
ちょっとふわふわしながら一人でつぶやく。
はたから見たら、とても気の毒な感じの人に見えるだろうなー、なんて頭の片隅では分かっているんだけどね。だって、黙っちゃうとすごく静かなんだもん、この家。
大丈夫、誰も見ちゃいないから。
「クロード、あの女とだったらお酒も飲んだのかしら……うん、飲んでそうよね、きっと大人な雰囲気で仲よっさそーに飲んじゃったりなんかしてたんだわー、私が寝てる間とかに! ええい、あの裏切り者! 私が一番好きだったのに! ふん、私だってそこそこ楽しくお酒が飲める大人になっていたんですよーだ」
鍛冶屋の女性を思い出しながらリョウがだんだん支離滅裂な独り言を本格的に呟き出す。
そして勢いでカップの中の酒をぐいと飲み干して新しくもう一杯注ぐ。
「残念だったわねクロード。私の料理だってあの後かーなり上達したのよぉ? 酒のつまみだって作れるようになったんだから。この揚げ物だって絶品じゃない。こういうの、あの頃は作らなかったわよねぇ。私のこと置いて逝ったりしなければいずれ作ってあげられたかもしれなかったのにねぇ……」
サクッとフォークを突き立てて目の前でフラフラ揺らしながら呟く。
一口かじると中からしっかり味のついた旨味たっぷりの脂がじゅわっと滲み出て、外側はサクサク。口に含んだ時の檸檬の香りがまた爽やかでクセになる。
口の中に残る脂感はその後に飲む蒸留酒がサッパリと流してくれるのでさらに次の一口が止まらない。
テーブルの上の食べ物がすっかりなくなり、持ってきていた瓶が二本とも空になりそうになって、リョウはふらりと立ち上がる。
「……足りない」
そういえばいつだったかレンブラントが一人で蒸留酒を何本も空けていたことがあった。部屋には空瓶がなかったので何本も飲んでいたなんて思わなかったけど「台所でハンナが見張っていて一度に一本しか渡してくれなかった」とか言っていたっけ。きっと空になった瓶と引き換えに新しい瓶を渡して……下の階までちゃんとしっかり歩いてこれるのを確認した上で次の瓶を渡すようにでもしていたんだろう。
「今日はそういう人もいないしね」
うふふ、とリョウが微笑む。
そのままスタスタと部屋から出て台所へ行き、取り敢えず両手で持てるだけ、ちょっと大きめの瓶なので片手に二本ずつ合計四本ほど抱えて寝室に戻る。
「これだけあればきっと飲んだ気になるわ……!」
夜も更けた頃、帰宅したレンブラントは明かりがついたままの寝室に入ってなんとなく散らかった部屋の一角にまず目を疑う。で。
……酒、臭い……?
そう思ってソファに歩み寄ると。
……なんの惨状だ……?
雑然と散らかっていたように見えたソファ周辺には空になった酒の瓶。
拾い上げて目を丸くしてしまうのは……たまに飲むからとコーネリアスに頼んで買い置きしておいてもらった強めの蒸留酒の瓶。しかも大瓶で……五本。さらに、それと一緒に並んでいると小さくも見えてしまうが、決して一人で一度に空にするようなサイズではない果実酒の瓶。……これはおそらく以前からリョウが作っていた林檎の酒。
テーブルには空になった皿が二枚。と、空になったカップ。
で、ソファにはくったりと倒れこむように横になって酔いつぶれている……というより眠っているリョウ。
「……まさか、一人でこれだけの量を?」
手にした空瓶と眠っているリョウの顔をつい見比べながら眉をしかめてしまう。
竜族の身体は人間のそれとは根本的に異なる。とはいえ。
この量を一気に空けたのだとしたら……まあ、酒に強い方だと思う自分でもちょっと危ないんじゃないかという量だ。でも、寝顔を見る限り、顔色も悪くないし具合も悪そうではない。ので、まず自分が冷静になるのが先だな……と判断し。
「……いや、それにしても……水!」
自分に言い聞かせるように呟いたレンブラントがくるりと踵を返して台所へ向かう。
とにかく起こして水を飲ませたほうがいい。あの感じ、酒ばかり飲んで水なんか一切飲んでないだろう。皿の様子からしても大した量のつまみも無かったはず。ろくに食べもせず酒ばかりあんなに飲んだのだとしたら……絶対に良くない。
水差しを用意して水を満たし、カップも用意する。
……それにしても。
寝室に足を早めながらレンブラントはついため息を漏らす。
なんだってあんなやけ酒みたいなことを……。
昼間のあの一件だろうか。
いや間違いなく、そうなのだろう。
久しぶりに瞳の色を赤く染めたリョウを見た。
本来、自分でも嫌だと言っているあの瞳を他人に見せるということはそれだけ本気で怒っていたということだ。そしてそのあと自己嫌悪に陥りそうなことも目に見えていて。
だいたい、あのアイザックの言葉も酷かった。彼はグリフィス至上主義といってもいいんじゃないかというくらいの人間だ。物の見方が相当偏っている。それが最近リョウに対してグリフィス抜きにしても好感を抱くようになっていてかなり進歩したものだと思っていた。
そこへ今日の騒ぎだ。会議中の突然の報告にグリフィスがちょっと眉をしかめただけのことであそこまでリョウに失礼な態度を取るとは。後で我に返って反省すればいい! と思ったが……予想以上にリョウが傷ついた顔をしたので僕も焦ってしまった。リョウの中で、さらっと流せない何かがあったのだろう。
急いで追いかけて、家中を探し回って、ようやく見つけたリョウが涙をこぼしながらも感情を全く映さない顔をしていたので背筋が凍った。
仕事に戻る際にも硬い表情のまま笑顔が戻らないリョウに、あんな奴の言葉なんか真に受けなくていいと言ったが……心ここに在らずな彼女にそれがちゃんと届いたかどうかさえ定かじゃない。
寝室に戻るとリョウは相変わらずソファで横になったままだ。
部屋にこもった酒の臭いについ苦笑が漏れ、窓を開ける。
テーブルに水差しとカップを置き、水をカップに注いでからリョウに声をかけて。
わずかに身じろぎする様子は、酔いつぶれているようには見えない。起こすのが可哀想に見えるほど可愛らしい寝顔だ、とさえ思うのだが周りに散らかっている酒瓶を見て気を取り直す。
「リョウ、ほら起きて。少し水を飲んだほうがいいですよ」
なるべく大きな声にならないように注意しながらリョウの耳元で囁いて、肩に腕を回して抱き起こし、水の入ったカップを口元に持っていく。
「う……ん……水?」
うっすらと目を開けたリョウが目の前のカップに気づいて小さく口を開けたのでカップを少しだけ傾ける。
唇を少し湿らせると、やはり喉が乾いていたのか自分の手をカップにそえて喉を小さく鳴らしながら半分ほどがあっという間に無くなった。
レンブラントがほっと息をつく。
それでもかなり酒が入っているせいか、リョウの意識は少々心もとない。
「ほら、少し飲みすぎですよ」
レンブラントが介抱するような手つきでリョウの体を抱き上げて、そのままベッドに向かい、そこに横たえた。
「レン……行っちゃ嫌」
リョウがレンブラントの首に腕を回してしがみつくが力は入らない様子だ。
「大丈夫。どこにもいきませんよ」
くすりと笑みをこぼすレンブラントに、それでもリョウは眉間にしわを寄せる。
「だってみんな私を、置いていこうとするの……もう独りは嫌」
なんの脈絡もないと思える言葉を呟き、それでもやはり相変わらずぼんやりした状態で目も虚ろだ。
「誰もリョウを一人になんかしませんよ」
レンブラントがそう囁いてリョウを抱え込むように抱き締めてベッドに入りそのまま抱き締める。
どうにもリョウの様子がおかしいので、ここは言葉を遮るべきではないと判断したのだ。
「……私、クロードが死んだあとの話、したことあったっけ?」
リョウがぼんやりした瞳のまま呟く。
レンブラントは一瞬身構えるように身を固くしたが、リョウはそれに気づく様子もなく小さくため息をついて言葉を続けた。
「死体ってね……あっという間に形をなくすのよ……毎日クロードを忘れないように側にいて思い出していたのに……」
もはやリョウの目の焦点は合っていない。
それは先程まで飲んでいた酒のせいなのか、辛い記憶に取り付かれているせいなのか。
「クロードの声も、一緒に話した言葉も……一緒に食べた物も……一緒に行ったところも……忘れないように毎日毎日思い出していたの。でも……あっという間にクロードの体は朽ちてしまった……」
リョウの目尻から涙がこぼれた。
たまらなくなってレンブラントが唇でそれを拭う。
「私もクロードと同じ、飲ます食わずなのにね……竜族の頭は……死ねないの……体が骨と皮になっても途中からそれが止まってしまうのよ。それ以上死に向かわなくなるの。クロードの体だけどんどん朽ちていくの……だから忘れてしまわないように一つ一つ思い出したの。銀色の髪がお日様に透けてきらきしてたことも……あの優しい声も……瞳の色も……」
そこでリョウの言葉が途切れた。
レンブラントはリョウの背中に回した腕の力を緩めてその顔を覗き込む。
もしかして眠ってしまったのか、と思ったので。
「……リョウ?」
思わずそっと名前を呼ぶ。
眠っているわけではなかった。
ぼんやりとしたまま、リョウの目は開いている。何かを必死に考えているようにも思えて。
「……クロードの瞳……何色だったっけ……」
ポツリとリョウが呟く。
愕然としたような表情だ。
「……プラチナブロンドだったのなら……アルみたいな灰色だったんじゃないですか?」
思わず咄嗟にレンブラントが答えた。
レンブラントでさえ目と耳を疑ったのだ。
あんなに慕っていたクロードの瞳の色をリョウが忘れるなんて。
そしてその事が彼女にどれ程のショックを与えているかを想像したらいたたまれなかった。
彼女の中で過去の悲しい記憶が薄れるのは望ましい。しかし、こと、この人物に関する記憶が失われるのは全く別問題なような気がして焦ったのだ。
「……アルみたいな灰色……? そうかな……ううん……もっと青みがかっていたと思う……」
リョウがふっと薄く笑った。
ああ! どうしろと言うんだ!
レンブラントが叫び声をあげそうになる。
あまりに薄い笑いは、脆く壊れそうで、あまりに儚く、繋ぎ止めたほうがいいのか、いっそのこと壊してしまった方がいいのかそれすらわからなくなる。
咄嗟にその背中に回した腕に力をいれて抱き締めたのは計算でも理性でもない、衝動的な行動だった。
「……レンの瞳は……綺麗な琥珀色ね……」
リョウの口調がほんの少し変わった。
ささやかながら暖かみを帯びた、感情のこもった口調に。
「ねぇ、知ってる? 琥珀ってとてもとても長い時間をかけて、過去を閉じ込めるの。……私の長い時間も、レンの中に全部、閉じ込めてくれる? ……そうしたら私はもう何も考えなくていいんじゃないかと思えるのよね。……全部嫌なことは忘れて、レンの事だけ考えていたいな……」
搔き消えそうな声でぽつりぽつりと話すリョウの言葉が今度こそ途切れた。
レンブラントがそっと顔を覗き込むとどうやら眠っているようで。
「……そうですね。僕がリョウのことずっと大事に守っていきますからね。ゆっくり休んでいいですよ……おやすみ」
ゆっくりそう囁いて眠るリョウの額に唇を寄せる。
そうか……。
亡くなった愛する人を埋葬することもせず、ずっと傍で時を過ごしたなんて……想像したこともなかった。
埋葬なんて、できなかったのだろう。
人の体が朽ちていくのにどのくらいの時間がかかるかなんて考えたこともなかったが……リョウはその間ずっと……言ってみれば死体と一緒に過ごしていたのか。
狂気的な場面がレンブラントの脳裏に描かれる。
そんな時間を過ごして……ずっと独りきりで……それはどんなに……。
つい盛大なため息がこぼれ、それでリョウが起きてしまわなかったかと我に返って……改めてその体をぎゅっと抱きしめた。




