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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
三、歴史の章 (然を知る)
81/207

カリンとヴィオラ

 

 

 次にリョウの目が覚めた時には部屋はすっかり明るくなっていた。

 ああ、これは……もう昼近いんじゃないだろうか。

 なんて思いながらリョウがノロノロと身を起こす。

 掛け布が肩から滑り落ちて何も着ていない肌が露わになり、慌てて胸元に引き寄せて周りを見回す。

 隣にいたはずのレンブラントはいない。

 大きいベッドに自分一人でいることを認識した途端、寂しくて胸が微かに痛んだ。

「はぁ」

 思わずついたため息が震える。

 と。

「その格好じゃベッドから降りられない?」

 思いがけず掛けられた声は、くすくすと柔らかい笑みを含んだもので同時にリョウの肩にガウンがそっと掛けられた。

「え……あ……ごめんなさい。いたのね。てっきり……」

「リョウを置いてどこかにいくと思った?」

 リョウのセリフを途中で遮って優しく微笑んだままのレンブラントがリョウの隣に腰を下ろす。

 そして腕を伸ばしてリョウを抱き寄せそのまま抱きしめる。

 いつもならどうってことないその一連の動きも、今のリョウを緊張させる。今朝のやりとりを思うと、自分がどう思われているのか予想ができずに……下手をしたらもう愛想を尽かされているのではないか、くらいに思えていたので。

 そう思うと、反応が怖くて自分から腕を回してしがみつくこともできず、さらには体を預けてしまうこともできない。

「……リョウ?」

 レンブラントが訝しげに顔を覗き込んでくるのだが、リョウは顔があげられない。

「僕のこと、嫌いになった?」

 意外な一言にリョウが反射的に顔を上げて首を横に振る。

 そんな筈ない! そう思うのに喉の奥に何かが詰まっているような感じがしてうまく声が出なかった。

 そんなリョウを眺めるレンブラントが安心したようにため息をついた。

「良かった……。昨夜に引き続き今朝まであんなことしたから……嫌われたらどうしようかとちょっと心配してました」

 悪戯っぽく目を細めるレンブラントはまるで何もなかったようで、全くいつも通りだ。

 リョウは一瞬、今朝のあれは私の夢か何かだったのかな、と思ったくらいだったのだが……その言葉からしてやっぱり夢じゃないらしい。

 ということは、やっぱり私は彼をひどく傷つけるような事を言わせてしまったのだし、がっかりさせるような態度も取った。あれは……無かったことにはもうできない。

「リョウ……あ、えーと……参ったな、どうしようか……」

 レンブラントがリョウの顔を覗き込みながら困ったように言葉を濁す。

「僕がリョウを愛しているのはずっと変わらないですよ。リョウが不安になることはない。それに……」

 一旦目を逸らしたレンブラントがその手でリョウの頰を包んで軽く上を向かせるとまず額にキスを落として。

「不安定なリョウは可愛くて仕方ない。僕の腕の中から出て行ったりしないのであればいつでも大歓迎なんですが……リョウが辛いのは可哀想だから……すごく微妙なんです。だから……」

 そこまで言うと小さくため息をついて、リョウの体をぎゅっと抱きしめる。

 いつもリョウが言っている「安心できる」という、ちょっときつめの抱きしめ方。

「リョウ……差し支えなかったらいつもみたいに僕の背中に腕を回してもらえませんか?」

「え……あ、ごめんなさい。……いいの?」

 リョウがおずおずと手を動かしてレンブラントのシャツの背中を掴む。

「当たり前です! 僕にこうしていいのはリョウだけですからね。……リョウ、前にも言いましたけど、不安に思うことがあったらいつでも言ってくれていいんですよ。僕はリョウが何をどう感じているのかちゃんと知っておきたいんです。無理に話す必要はないけど、話せるんだったら遠慮なんかしなくていいし変な気も回さなくていい。ちゃんと僕が受け止めるから話してごらん」

 

 優しい言葉、だと思った。

 私が自分を追い詰めてしまわなくていいように、その可能性を一つ一つ排除しながら、言い聞かせてくれる、そんな言葉。

 そんな言葉を聞いてしまったら。

 

「……ん。……ありがと」

 やっぱり、何も言えない。

 そう思えてしまう自分に、自分で愛想を尽かしそうになる。

「ふーん……」

 ため息のようなレンブラントの声が頭の上でしてリョウがそろそろと顔を上げる。

「今言ってしまわなくて良いんですか?」

 しげしげと見つめられながらも優しく問われる。

「う……ん。……大丈夫」

 ある程度の感情は自分で片をつけなくては。あまり甘えすぎるのもどうかと思うし。

 そう思ってリョウが小さく笑ってみせる。

「大丈夫そうには見えないんですけどね……。まぁ、気長に行きましょうか。……話したくなったら話してくださいね。ああ、でもこれだけは覚えておきなさい」

 え、何? と言い掛けたリョウの唇がレンブラントの唇で塞がれた。

 ゆっくり舌が絡められてリョウがこくりと喉を鳴らした後、レンブラントがその唇を解放してほんの少し距離を取り、うっとりと細めた目でありながらもリョウの目をまっすぐに見つめる。

「リョウの居場所はここですよ。僕がずっとリョウのそばにいる。僕がリョウの居場所だ。どこにもいかないでくださいね」

 

 この人は。

 本当にいつも、一番欲しい言葉をくれる。

 あいも変わらず。

 そしてそんな事を言うレンブラントの瞳は、やっぱりリョウの一番好きな優しい色なのだ。

 安心させてくれる安定した色を湛えて、うっとりと見入ってしまうほど。そしてその声もまた心に真っ直ぐ入ってくる柔らかくも力強い響きを持つ、優しい声。

 そんなレンブラントを前にすると、本当に余計なことは考えられなくなる。考えたくなくなる。

 多分、今私、かなり気が抜けた顔してるんじゃないかな、なんて思ってしまう。

 

「……まぁ、いいか。少しは気分が良くなったみたいですね」

 ため息をついたレンブラントがそう言うとリョウの頬にキスをする。

「……え?」

 リョウが思わず聞き返すと、優しく微笑んだままのレンブラントが背中に回していた腕を解いてリョウの頭をそっと撫でる。

「さっきまで死にそうに酷い顔色してましたよ。僕の言葉も届いてないんじゃないかと思って心配になりましたけど……少しはマシになったかな。服、着てきますか?」

 そう言うとレンブラントの視線がストンと下に落ちた。

 反射的にリョウも視線を落とすと、先ほどまで抱え込んでいた掛け布は完全に落ちているしレンブラントが掛けてくれていたガウンも後ろに落ちていて……。

「え……わ、わわわ! レン、見ちゃ駄目!」

 慌てて掛け布を引っ張り上げるとレンブラントがクスクス笑いながらガウンを改めて羽織らせてくれる。

「今更隠すこともないと思いますけどねぇ……」

「あ……明るいところで見られるのは嫌なのっ!」

 リョウはそそくさとガウンの前を合わせながらベッドから降りた。

 

 

 服を着て、顔を洗って、髪に髪留めをつけて。

 リョウが身支度を済ませてから部屋のドアを開けるとレンブラントがソファでくつろいでいる背中が見える。

「……レン、あの……食事は?」

 そういえばもう昼近いような時刻だ。昼までゆっくり休んでいる時なんかはハンナが気を利かせて食事を運んできてくれたりしている事もあるが今日はそういうこともなさそう。

「ああ、さっきハンナが様子を見にきたんですがリョウがいつ起きるかわからなかったので準備ができたら下に行きます、と伝えておきましたよ」

 レンブラントが振り返りながらそう言うとソファを回り込んで隣に来たリョウの髪についている髪留めに目を留めて満足げに微笑んだ。

「あれ? レンは食べたの?」

 リョウが眉間にしわを寄せて首を傾げた。

「え、いやまさか。だってリョウのそばから離れないって言ったでしょう? 僕も今日はまだ部屋から出ていないんですよ。行くなら一緒に行きましょう。……それに」

 言いながらレンブラントが片手を差し出して手の中の物をリョウの前に出す。

「これ。つけてもらわないと僕の身支度が終わりません」

「あ……」

 レンブラントの手の中にあるのは昨日リョウがプレゼントした髪紐。

 そういえば今日はまだレンブラントは髪を下ろしたままだ。そのままでもちょっと気怠い感じで色っぽいのだけど……でも、期待に目を輝かせたレンブラントに「つけなくても素敵」なんて言えそうにない。

 リョウはつい頰を赤らめながらレンブラントの手から髪紐を受け取った。

 櫛を持ってくるのは面倒なので手櫛でレンブラントの髪を梳いてみる。癖のある髪はきっちり束ねるよりは緩く束ねた方がルーズな感じに色気が出る。

 そう思って緩く束ねようとすると案外バランスが難しくて何度も後れ毛を指ですくい直してしまうのだが、レンブラントが気持ちよさそうにため息を吐くのでリョウの口元もついほころんだ。

 

 

「リョウ、今日はどこか行きたいところがあったんですか?」

 朝食にしてはかなり遅め、昼食にしてはちょっと早めの食事を済ませてレンブラントが尋ねてくる。

「え……あ……うん、そうね……」

 生成色のシャツにブラウン系のベストを羽織ったレンブラントはきっと後ろから見てもとてもおしゃれな感じだ。最近、グリーン系やブルー系のものを着ていることが多かったので久しぶりに落ち着いた暖色系の装いを見た、とリョウはちょっと胸がどきりとしていた。襟のついた少し丈の長いベストには地模様が入っている。

 折角だから外に連れ出して一緒に歩きたいところなのだけど……。

「何か欲しいものとかありますか?」

「……うーん」

 何か、買い物……と思ったのだが、特に欲しいものは……ない。特に今買わなきゃいけないような物も……ない。

 リョウが思わず眉間にしわを寄せて視線を宙に浮かせたところで、レンブラントが堪え切れなくなったかのように吹き出した。

「別に笑わなくてもいいじゃない! 思いつかないんだもの。特に欲しいものがあるわけじゃないし」

 これ以上考えたところで何も思い浮かばないということが目に見えているのでリョウは目の前の紅茶のカップに手を伸ばして口元に運んだ。

 期間限定の初物の紅茶は茶葉の成分の関係で発酵が進まずに緑茶に似た薄い色のお茶。でも爽やかな香りは特徴的でスッキリと楽しめる。

 紅茶を飲んでふと表情が和らぐリョウを見つめるレンブラントが相変わらずくすくす笑いながら。

「リョウは本当にお金がかからない人ですね……隊員たちに聞くと大体女性は服とか装飾品にお金が掛かるって言われるんですけど……じゃあ、前に行った蜂蜜の店にでも行きますか?」

「あ……! カリンちゃんのとこ?」

 リョウが目をあげると。

「言っときますけど、あの子に会うのが目的じゃないですよ? ああ……なんならリョウにもらった物を見せびらかしに行く、っていうことでいいのか」

「別に疑ったりしてないわよ……」

 そんな意味で名前出したわけじゃないんだけどな……。

 なんてリョウが再びカップに口をつけると。

「……なんならリョウにやきもち妬かせたいくらいなんですけどね……」

 レンブラントがわざとらしく拗ねた。

 

 

 

 昼を少し過ぎた頃。

 蜂蜜の店にふらりと立ち寄った風のリョウとレンブラントは店主に大喜びで迎えられた。

「再び足を運んでいただいてありがとうございます。今日はゆっくりしていっていただけるんですか?」

 いつもはコーネリアスが家で使う蜂蜜の買い付けにここに来ているので今日は単なる買い物ではないというのが分かったのだろう。

「ええ。ここのお菓子が食べたくて来てしまいました」

 レンブラントがにっこりと微笑むと、上品な髭に隠れた口元に素直な笑みを浮かべた店主が嬉しそうに頷いて奥のテーブル席に案内してくれた。

 食べたい物を訊かれたリョウは前回食べた小さなカップケーキを思い出してそれを頼み、店主が最近のお勧めの蜂蜜入りの小さな揚げ菓子が幾つか盛られた皿も一緒に持って来てくれた。

 蜂蜜入りのレモネードのグラスが二人の前に置かれてリョウが目を輝かせる。

 

「……それ、美味しいですか?」

 リョウが手をつけた揚げ菓子の皿に目をやりながらレンブラントが尋ねてくる。

「うん。美味しいわよ? 卵がしっかり入っていそうね。生地がぎゅっと詰まっててカップケーキと対照的ね」

 カップケーキはふわふわしていてトッピングで味のバリエーションが楽しめるようになっている。同じくらいのサイズの小さな揚げ菓子は甘くてちょっと重めだが、一口でも食べられる程度のサイズなので重さは気にならない。周りにまぶしつけてある砂糖がキラキラしてそれもなんだか可愛い。

「ふーん……」

 あれ?

 リョウが目をあげる。

 美味しいか訊かれて美味しいと答えたんだから、当然手を伸ばしてくると思ったレンブラントは一言答えると同時に片手で頬杖をついてそのまま皿の上の揚げ菓子を凝視している。

 え……なんか変なものでも混ざっているとか? でも私、食べちゃったけど……。

「僕も食べたいな」

 ぽそっと小さな声でレンブラントが呟いて初めてリョウが察する。

 え……うわ……ちょっと、恥ずかしいんですけど……!

 前にカップケーキをレンブラントの口元まで運んであげたことがあったことを思い出して。

 リョウは一度視線を泳がせてから意を決したように揚げ菓子を一つつまんでレンブラントの口元に運ぶ。「はいどうぞ」なんて言いながら。

 途端にその手首をレンブラントが嬉しそうに捕まえてしっかり指先まで咥え込んだ。

 指先についた砂糖をゆっくり舐めとる舌の動きにリョウの顔が一気に赤くなり……同時に後方で「きゃー!」なんていう控えめな叫び声がいくつか上がった。

 びくっと肩を震わせたリョウが反射的に肩越しに振り返るとリョウたちの後ろにあるテーブル席の女性客たちがとても楽しそうにこちらをチラチラ見ながら顔を赤らめている。

「レ、レン……ちょっと……恥ずかしすぎるんだけど……っ!」

 リョウの後方の席の反応を楽しんででもいるかのように、リョウの手首を掴んだまま離さないレンブラントにリョウが顔を赤くしたまま上目遣いで訴えるとレンブラントはゆっくり目を細めた。

 駄目だ……この人、完全に楽しんでる。

 リョウが何かを諦めて小さくため息をついた時。

 

「父さんいるー? ミツロウもらいに来たけど!」

 リョウの背後、店のカウンターの方で明るい声がした。

 どこかで聞いたような声だな、と思ってリョウが再び振り返る。

「……あ……れ?」

 どことなく見覚えのある後ろ姿で緩いウェーブがかかった金髪の女性。

 カリンちゃんより少し年上な感じかなー、とリョウが観察しているその女性はピンクと紫の中間のようなそれでいて落ち着いた色合いのワンピース姿で。

「おや……あれは確か」

 レンブラントも微かに目を丸くした。

「ああ、姉さん! もう来たの? ちょっと待っててー、今呼んでくるね!」

 いつのまにか店主と店番を変わっていたらしいカリンがカウンターで対応している。

 今日の彼女は髪を綺麗に編み込んでひとまとめにした動きやすそうな髪型に落ち着いた生成り色のワンピースにエプロン姿で、とってもナチュラルな印象。

 カリンが奥に引っ込むのを見送って満足げに息をついた彼女はくるりと体の向きを変えると少々雑な感じでカウンターに寄りかかり、それでも楽しそうに店内をくるっと見回す。

 で。

「……あら?」

 声こそ控えめだったが形の良い唇がそんな驚きの形をとって、それから人懐っこい笑みを浮かべると椅子に座ったまま振り向いていたリョウの方に弾むような足取りで近付いてきた。

「お久しぶり! 守護者(ガーディアン)さんと騎士隊隊長様!」

「あ! やっぱり!」

 リョウが慌てて立ち上がる。

 一度会ったきりだったけど。この人懐っこい雰囲気はとても印象的でよく覚えている。

 リョウがいつも使っている香水を買った店の店主だ。

「まさかこんなところでお目にかかるなんて!」

 と、リョウが驚きを隠すことなく笑顔を作る。

「ええ、ここ私の親がやってる店なんです。蜂蜜のために養蜂もやってるからうちの店の商品に使うミツロウを定期的に分けてもらっているの」

 うふふ、と笑う香水の店の店主は相変わらず人懐っこい笑顔で、そういえばどことなくカリンちゃんの雰囲気に似ているな、とリョウは思った。

「……あれ、ヴィオラ、知り合いだったのか?」

 不意に声がかけられてリョウが目をやると片手に袋を抱えているのはこの店の店主。

「そうよ! ほら、しばらく前にうちの商品を買いにきてくださったんだってば! 騎士隊隊長さんからの香りのオーダーメイドは最愛の奥様へのプレゼント! って、前にも話したでしょ?」

「ああ、お前が調香にひと月以上費やしたっていうあの力作か……」

 父親が顎に手をやりながら訳知り顔で呟く。

 ……って、あれ?

「……え? ひと月以上……?」

 意外な繋がりに目を輝かせていたリョウが今度は目を見張った。

 ついでにレンブラントの方にもちらりと目をやると、レンブラントが若干頰を赤らめて明後日の方を向く。

 確かあの香水は、買いに行ったらその場で作ってくれたんじゃなかったっけ?

「あら、結局ご存じないまま? あれね、少し前から隊長様に頼まれて調香していたものだったのよ。そういえば内緒で作って欲しいって言われたのよね……あら、言っちゃったわ」

 そこまで言ってからヴィオラがちらりと舌を出す。

 それでも人懐っこい表情とあっけらかんとした口調のせいか全く嫌な感じがなく、単に隠し事が出来ない可愛い人というイメージしか持てないのは……むしろ清々しいくらいだ。

 その勢いに飲まれたのかレンブラントも「それ以上言うな」的な視線は送ることなくただ苦笑するのみ。

 それを見届けて安心したのかヴィオラが一呼吸おいてリョウの方に微笑みかけながら言葉を続けた。

「……まぁ、でも、そうは言っても私はあなたのこと遠くからチラッと見て知ってるくらいだったから具体的に香りのイメージが作れなくて未完成のものを幾つか候補として作っていたんだけど。お二人で来てくださってちょっと様子を見たらいくつか作った候補が二つくらいに絞れたからあの時は最後の仕上げだけしたってわけ」

「え……そうだった、の……?」

 リョウがレンブラントに確かめるように小さく尋ねるとレンブラントが観念したように椅子に座ったままこちらを上目遣いに見上げた。

「……ええ……まぁ、そういうことです」

 ご丁寧に耳まで赤くなるレンブラントを見ているとリョウもなぜかつられて赤面してくる。

「わーお、らっぶらぶねぇ! こりゃカリンが入り込む余地なしだわー」

「……え?」

 楽しそうにあっけらかんと言い放つヴィオラのセリフにリョウが思わず聞き返す。

 気づくと隣にいた店主が袋を持つ手に思わず力が入ったまま表情を強張らせている。

「あらやだ! 知らなかった? あの子ね、レンブラント隊長が守護者(ガーディアン)様の旦那さんだって知らなくてそこの会堂で仕事してる隊長様に片思いしてたのよー! で、別ルートで私が家族にする守護者(ガーディアン)様のための調香の話も聞いていたものだからそれが同一人物だってわかった時の落ち込みようったらなかったの! もー、バカでしょー? 子供でしょー?」

 ケラケラ笑うヴィオラには全く悪意はないのだろう。

 父親が隣で固まっている。更にはその父親の視線の先……店のカウンターでカリンが固まっている。

 何しろなかなか澄んだ声の持ち主であるヴィオラの話している内容は決して広いとは言い切れない店内で、よほど自分たちの話に集中している客でもなければみんなの耳に届くほどの威力を持っており……。

 ちょっと間を置いて、耳まで、というより首まで真っ赤になったカリンはゆっくり背を向けるとそのままカウンターの奥へと姿を消した。

 

 

「……あれ、大丈夫だったかしら……」

 店を出てリョウが思わずこぼす。

「あれ……って?」

 レンブラントがリョウの顔を覗き込んで来た。

「いや、いまの話の流れからして、カリンちゃんでしょう? あんな風に暴露されて……傷付いちゃうわよね……」

 勢いよく顔を上げたリョウが力説する。

「ああ……そう、ですかね」

 うそ……! レンってそんなにデリカシー無かったっけ? 「そうですかね」って言った?

 リョウが思わず目と耳を疑った。

「ああ、いや……多分、大丈夫じゃないかと。あの家族、結構あっけらかんとしてましたよ。前から思っていたんですがあの姉の方もちょっと抜けてはいますがかなり妹から慕われていましたし、両親の子育てが上手なんでしょうけど各自の自尊心もバランス良さそうな感じでしたから。ああいう安定した家族だから僕も関わりを持っても問題は起こらないと思ったんですよね。……まぁ、あの感じだと今日のところは妹の方は拗ねてふて寝、くらいはするでしょうけど」

「……よく理解してるわね」

「だから仕事でしばらくの間毎日会ってましたから。そういう時って話すこともないから大体あの子がいつも自分の家族の話をするのを聞いていたんですよ」

 そういうものなのか……。

 リョウはちょっと、うーんと考え込んでみて。

「その話を聞いて香水のオーダー頼んだの?」

「え……ああ、まあ、そう、ですね。……隊員からあの店の評判は聞いていたんですが店主があの子の家族だと分かったので安心したっていうのもありましたね」

 思い出したかのようにレンブラントが顔を赤くした。

「言ってくれてもよかったのに」なんて呟くリョウに「前もって話してあなたに受け取りを拒否されたら身も蓋もなくなるでしょう」とレンブラントが眉間にしわを寄せながら答えた。

 


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