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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
三、歴史の章 (然を知る)
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もう一人の守護者

 食事が賑やかになった。

 人数が増えた関係で食堂を使うようになった事もあり、リョウはちょっとイベント感覚な毎日だ。

 食堂は大勢で一緒に食事ができるくらいの広さでテーブルも大きく、以前の時のように十人以上入るようならテーブルの数も増やせるようになっている。

 

 アウラが住みこむようになってから、レンブラントとリョウ、グウィンとアウラの四人で食事をすることが増えた。

 今までグウィンと二人での昼食、ということにならないようにレンブラントが気を回して同席させていた昼食もハンナとコーネリアスはアウラの参入で席を外すようになった。とは言っても簡単な給仕はしてくれるしリョウが作る昼食には彼らの分も含まれているので仕事の区切りがついた時には同席してもくれるのだが。

 

 夕食はレンブラントの帰宅を待って朝に食卓を囲んだ四人で食べる事もあれば、グウィンとアウラには先に済ませてもらって、仕事で帰りが遅くなるレンブラントとリョウは二人で今まで通りの台所の隣の部屋で楽しむ事もある。

 なんとなく、賑やかな日と落ち着いてゆっくり出来る日のバランスがとれてリョウもそんなリズムが気に入っている。

 

「そういえばアウラっていつの間に離隊してたの?」

 朝食のあと、お茶を淹れながらリョウがアウラに視線を向ける。

 ボイラー室関係の作業でここに来ていた時とはうって変わって青い騎士服のアウラはキリッとしていて離隊している間にあんな仕事をしていたというイメージがもうわかなくなっている。

 レンブラントが相変わらず手伝おうとしてくれるので、カップをワゴンから出して並べてもらいながらそれぞれのカップにリョウが湯を注いで温めて。

 そんな作業を興味深そうにグウィンが眺めるのがいつものお決まりのパターンになりつつある。

「ああ……えーっと……ひと月くらい前、ですかね。でも結局ここでグウィンの護衛をするようになったからまた騎士の身分に戻りましたけど」

 決まり悪そうにアウラが頭を掻きながらリョウの方に視線を向けて答えた。

 そういえばアウラはレンブラントの隊に入れられている。

 そんなことを思い出しながらリョウが頷く。

 で。

 そんなアウラの、ささやかな口ごもり方と、そのアウラの様子を一応顔色は変えないものの直視するでもなく横目でチラリと見やるグウィンの様子を見て。

「……そっか。ごめんね。せっかく新しい仕事に慣れ始めていたところだったのにね」

 リョウがアウラに微笑んで見せる。

 うん。なんか、訳ありっぽい。

 と、思えて。

 グウィンの様子を見るに彼は何か知っていそうだ。

 で、離隊の理由を掘り下げようとしないところを見るとそれはあんまり他人に知られたくない理由なのかもしれない。なんて思えてしまった。

 ちらっと「前の隊の居心地が悪かった」みたいな事を言っていたから……何かあったのかな、と思ったけど……その隊の悪口とかじゃ言いたくもないだろうし……そもそもアウラの、現時点での所属部隊の隊長であるレンが素知らぬ顔をしているところを見ると……ここは話題を一旦切った方がよさそうだな、と判断してみる。

「あー、いえ、今んとこかなりの好待遇で働かせてもらってるんで全然気にしないでください!」

 そう答えるアウラの笑顔に影はなく、素直で元気だ。

 そんな様子に安心してリョウは温めたカップに注いだ紅茶をアウラの前に差し出す。そしてグウィンにも。

「……ああ、いい匂いだな……何が入ってるんだ?」

 一口紅茶を口にしたグウィンが目を細めながら呟いた。

「ふふ。今日のはちょっと凄いわよ。コーネリアスが仕入れてくれたベリーが色々入っています!」

 暖かくなってきたせいで市場では果物の種類が増えているらしい。

 温暖なこの辺りでは通年何かしらの果物が収穫出来るが、他所から仕入れられる物にはやはり季節感が感じられる。ベリー系もそうだ。

 液果は傷みやすいから元々遠方から仕入れられることはなかったらしいが最近道路がかなり整備されてきたので運搬技術が上がってこういう物も出回るようになった。

 でもやはり傷みやすいというのは仕方がない。

 安く大量に仕入れてその日のうちに使えないものはジャムや砂糖漬けにしてしまう。

 今朝は昨日ジャムにしないで取っておいた少量のベリーを紅茶のポットに仕込んでみた。

「……うん。すげーいい匂い! ルーベラのお茶みたい……だ、なっ……と……」

 満面の笑みでグウィンに相槌を打ったアウラが途中から言葉を濁して視線を宙に彷徨わせた。

「リョウの紅茶の先生はルーベラですからね。それも当然だと思いますよ?」

 レンブラントが静かにカップを口に運んでからそう返す。

 と。

「え? ええっ! そう……なんすか? ……もしかしてリョウさん、ルーベラと仲が良い、とか?」

 愕然とした顔でアウラが訊いてくるので。

「え……うん。親しくさせていただいてます、けど」

 ああそうか、私から彼に説明したことはなかったけど……てっきりルーベラが私のことはアウラに話しているんじゃないかと思ってた。

 そう思いながらリョウがアウラに笑顔を向けると。

「そういうわけですからね、アウラ。ここにルーベラが来る事もあるんです。君はグウィンに関する情報をうっかり漏らすことがないように、ここに居る間は極力、ルーベラと接触しないように気をつけてくださいね。万が一にも接触する事があっても情報を漏らしてはいけませんよ」

 リョウの隣のレンブラントが冷ややかな視線をアウラに向ける。

「……っ! はいっ! 隊長! 風の竜の秘密は厳守しまっす! ……それに……ルーベラと顔を合わせる事もないと思うんで大丈夫っすよ」

 そう言うとアウラはカップを再び取り上げて大事そうに口に運んだ。

 ……ハンナとコーネリアスはそれぞれ仕事に入っていてここには居ないからいいとはいえグウィンをさらっと「風の竜」と呼んでしまうあたり……やはりちょっとアウラの危機感には疑問を感じる。とその場の三人は心の中でこっそり頭を抱えた。

 

 

 レンブラントが仕事に出た後、リョウが台所で朝食の片付けをしているとグウィンが顔を出した。

「なんか手伝おうか」

「あら、珍しいじゃない」

 背後から声をかけられて手は止めずにリョウが振り向く。

 もう少しで洗い物が全部片付くところだ。

「……あ、ああ。まぁ……ちょっと気分転換だ」

 グウィンが台所のリョウに声を掛けるのは久しぶりだ。

 アウラが来てから午前中はアウラにここでの立ち居振る舞いとか自分の立場とかを教え込むためにグウィンは時間を割いていた。

 ……それがどこまでアウラの身についているかは別として。

「……お疲れ様」

 意味深なグウィンの口調にリョウはくすくす笑いながら、それでも一応労いの言葉を返してみる。

 そんなリョウにグウィンは軽いため息のような反応をよこしながら洗って重ねてある食器の類を布巾で拭き始める。

「ありがと。……ああ、でも今日はこれで終わりなのよ。午後のお茶請けは昨夜大量生産しちゃったの」

 リョウがグウィンの方に向き直りながら声を掛ける。

 コーネリアスが昨日仕入れてくれたベリーが思いの外沢山あってデザートに食べた後、残りをミックスベリーのジャムにした。で、同時進行でベリー入りのケーキも焼いたのだ。フレッシュベリーを入れて焼いたケーキは一晩置いて味をなじませた方がいいだろうということで今日の午後のお茶請けに出番を待っている状態だ。

「ああ……そう、か」

 所在無げに視線を泳がせるグウィンは、なんだかちょっとかわいい。

 どうやらだいぶ疲れているようだ。

「少し休んだらどう? レジーナなんかきっと退屈してるわよ?」

 休むといってもそこは竜族。肉体的に疲れているとかじゃないだろうから……精神的な疲れ。グウィンなんて今まであちこちを旅して回っているような生活だったのを、ここに来てもらってからは外にもろくに出ずに一箇所に留まらせている。

 アウラの教育係的な仕事をしているというだけではなくても精神的に疲れているはずだ。

 そんな事を思いながらリョウが微笑む。

「あ……いや……それだとあいつも連れて行かなきゃいかんだろ……」

 言いにくそうに言葉を濁すグウィンに。

「あら、アウラの相手なら私がするわよ?」

 リョウは笑顔で答えた。

 

 

「相手をするって言ってもねぇ……」

 渋々、といった感じで出かけて行くグウィンを見送ってからリョウが独り言を漏らす。

 アウラだって子供じゃないんだから四六時中一緒にいなきゃいけないってわけじゃないだろう。せいぜい家の外をうろちょろして想定外の人物に遭遇するのを阻止すれば良いってだけの話で、本人だって散々グウィンに言い含められ、アルに脅され、レンからも牽制されているので事の重大さは分かっているはず。

 そんな事を考えながら通り掛かった応接間の前を横切る前に中を覗くと案の定アウラが暇そうにしている。

 そういえば朝食の後はだいたいここでいつもグウィンと話し込んでいたっけ。

「アウラ、暇なの?」

 リョウが開いていたドアを軽くノックして声を掛けるとアウラがパッと笑顔になって振り返る。

「ああ! リョウさん!」

 目が合って笑顔を作られるのは気分がいい。

 リョウもつられて笑顔になった。

「今までの仕事は朝から晩までずっと忙しかったんでしょう? 急に生活のパターンが変わるとやりにくいでしょうね。……ごめんなさいね」

 アウラが立っていたのは窓際だった。

 午前中は仕事としての作業はないから敢えてテーブルに着くまでもないし、アウラの場合はグウィンの護衛役という事だからそもそも文献を読んだりもしない。手持ち無沙汰で窓の外を眺めていた、といったところか。

 リョウもつられるように窓の外を見たくなってアウラの隣に歩み寄る。

「いえ、リョウさんが謝る事じゃないですよ。あれだけの仕事をしてるのにみんなの分のお茶の用意とか食事の用意とかまでしてるんですよね。……俺、守護者(ガーディアン)って戦いのないこんな時期にはもっと何もしないで偉そうにしてるもんだと思ってたからびっくりしちゃいました」

 はにかむようにアウラがリョウを眺めながらそう言うのでリョウはちょっと照れくさくなって。

「あら、でも……夕食はハンナが作ってくれてるし……家事だって今じゃほとんどあの二人にやってもらってるんだからかなり偉そうにしていると思うけど」

 なんて答えてみる。

「いや……だって昔は守護者(ガーディアン)ってそんなんじゃなかったっすよ? ちょっとした王様気取りだったし……まぁ人間と契約を結ぶ事自体が竜族の沽券に関わるくらいに考えられてもいたから契約を結んだからにはそれなりの見返りを求める、みたいな感じだったってのもあるんだろうけど」

 アウラの視線にはリョウに対する尊敬の眼差しが混ざっている。

「……そう、なの?」

 リョウは適当に相槌を打ちながら。

 

 そうか。

 アウラも竜族。見た目は十代半ばの言ってみれば子供だけど確か160年くらい生きてる。

 人間の都市に竜族の守護者(ガーディアン)がつくしきたりは古いとはいえ、彼なら子供の頃に廃れきってしまう前のその最後の方は見ているかもしれない。

 この度、リョウはグリフィスの計らいでここ西の都市の守護者(ガーディアン)に就任したとはいえ、リョウ自身はその役職に就く竜族が過去にどんなふうにその役割を果たしたか知らないのだ。

 そういう時代にリョウは都市で長く生活はしていなかった。ほとんどが小さな町や村だったし……その後はもうずっと人と関わらずにいた。

 そんな事に思い当たると同時に。

 

 なんとなく察してしまった。

 竜族の「守護者(ガーディアン)」の立ち位置。

 人にとってはきっと、怖れの対象である竜族との契約はある意味「征服」に近い感覚があるだろう。とはいえ力ではなく契約による関係である以上、常に「怖れ」は付きまとう。

 竜族の側からすれば人と契約を結ぶことが、アウラが言ったように「沽券にかかわる」事なのだとしたらそれは好ましい関係ではない。本来ならば不本意な関係。

 そんな関係を結ばせた人間側としては、仮に戦の時期は自分たちを守ってくれる存在として安心できても平穏な時期が来れば自らの体制の中にいつ暴発するかわからない恐ろしい武器を持っているようなもの。……友好的な関係などでは決してなく、やはり怖れの対象でしかないだろう。

 ああ、だから、そんな言ってみれば一触即発のような環境だからクロードは都市には滅多に入らなかったのかもしれない。私の身の安全の為に。

 

 それにそういう契約を結んだ竜族だって……もし仮に、何か弱みを握られたとかで強制的に結ばされた契約なのだとしたら……。あれ?

 

「ねぇ、アウラ……あなた、私以外の守護者(ガーディアン)を実際に見たことがあるのよね?」

 ふと、視線をアウラに戻したリョウがちょっと声のトーンを落として尋ねる。

「え? ああ、もちろん! 俺が子供の頃ですけどね。北の都市には……あ……すっ、すいません! 俺、ちょっと口が滑りました! この話しちゃいけないんだった……!あ……!」

 アウラが慌てた様子で縋り付くような目を向けてリョウにたたみかけ、次の瞬間愕然とした顔で両手を口に当てた。「しちゃいけない話」というところまで喋ってしまったら元も子もない。

「アウラ……それ……グウィンから口止めされてたの?」

 リョウの目が鋭くなる。

 アウラはもはや声は出さず視線を泳がせているだけだ。

 途中まで考えて、リョウはある事に思い当たったのだ。

 以前、グウィンは北の都市で力ずくで拘束されたような事を言っていた。「人質を取られた」とも。

 グウィンはリョウより年上で、つまり守護者(ガーディアン)のしきたりのまだ残る時期を生きていたはず。

 そして北の都市は古い体制で……比較的そういうしきたりが人の社会としては最後の方まで残っていたとしてもおかしくない都市だ。さらに言えば……あそこはかなり強大な軍事都市。

「……グウィンって……北の都市で『守護者(ガーディアン)』だったのね?」

 いつのまにか、リョウの中にあった疑問は確信に変わっていた。

 

「……すいません。グウィンが『そのうち自分で話すからお前からは絶対に言うな』って言うもんだから……あ、でも多分、今みんなで読んでいる文献にもそのうち出てくるはずなんです。だからリョウさんに隠し通せる事じゃないのは重々承知で……」

 少し間をおいてリョウの視線が自分から外される気配がないことを悟ったのかアウラがゆっくり話し出した。

「もちろん、守護者(ガーディアン)のしきたり自体の発祥は竜族の好意と人間の懇願だったと聞いています。でも……最後の方はそういう綺麗なもんじゃなくて……北の都市なんかは、単に竜族じゃない、その長たるものを守護者(ガーディアン)に据えたってんであっという間に近隣都市を黙らせたしその後はあの「敵」が攻めてくるようになったけど、当時の名残で近隣都市からの援軍だって強要出来たんです。司の代替わりの間に少しずつ変わってはいったんですけどね」

 守護者(ガーディアン)の契約の効力は契約を結んだ王、もしくは司の生きている間保たれる。

 アウラの言葉からするとグウィンが守護者(ガーディアン)だったのは今の司の何代か前なのかもしれない。

 少なくとも前代の司をグウィンは知っていたようだったし、あそこは世襲制だったからその代か……もしくはその前、とかもあり得そうだ。

 

「はぁ……風の竜に怒られる……」

 ガックリとうなだれるアウラにリョウはつい苦笑してしまった。

 

 

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