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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
一、序の章 (続きをどうぞ)
7/207

休暇を過ごす

 

 

 どのくらい、そうしていたのか。

 

 リョウがレンブラントの頭を抱きかかえるようにしてソファに座っている間に、レンブラントが軽く寝息を立て始めた。

 リョウの背中に回った腕が緩んで落ち、まるで悪あがきでもするかのように両腕がリョウの腰を緩く抱え込む。

 すぐ隣に座った体勢からほとんど無理やり、体を屈ませて抱き締めているので……これはちょっと苦しそうだな、と思ってリョウは浅く座った状態から少しレンブラントとの間に隙間を作って深く座りなおす。

 ゆったりしたソファはそれでもまだゆとりがあって、レンブラントの体はゆっくりと落ち、その後もぞもぞと体勢を変え……最終的にソファの肘掛に向かって足を伸ばしたレンブラントはリョウの腰を片腕で抱え込むような姿勢で落ち着いた。

 リョウが思わず軽く笑ってしまう。

 今、こちら向きに姿勢を変えた時って絶対起きてたよね……。

 

 そういえば、昨夜も遅くまでレンブラントはグウィンと飲んでいた。

 何をそんなに話すことがあるのだろう、というくらいここ数日仕事の帰りにグウィンのところに通っていたのだ。

 寝る前に飲むと眠りが浅くなったりするらしい。……疲れているかもしれない。

 なんて思いながら。

 

 聞いてみると「ほとんど何も話さないで酒を飲んでいただけですよ」なんて言うレンブラントにリョウはなんだか不思議な感覚を覚えていたことを思い出す。

 自分の方がグウィンとは仲が良くて、言ってみれば兄か父親のように思っていたのに、レンブラントはそのグウィンと連日語り合うほどに親密になっている。

 決して不愉快とか、そんなことではないのだけど、むしろ嬉しいのだけど……嬉しい……? ちょっと違うかもしれない。羨ましいのかもしれないな、なんて思う。そういう形で打ち解けられるのは男同士だからなのかと思うと割り込めない絆のようなものがそこに見えてくるので。

 

 ゆっくりと柔らかい癖のある髪を撫でる。緩いうねりには艶があってさわり心地がいい。

 髪を縛った紐が解けかけているのに気づいて、そっと引っ張り解く。

 今日はもう仕事には出ないのだから縛らなくても良いのよね。

 指で梳くようにして髪を撫でる。肩より少し下まで伸ばした髪は緩くうねって柔らかい。それを背中の方に落とす。一度うねりを揃えるようにそっと撫でてからその間に指を入れこんでゆっくり撫でるとうねりがほぐれる、を繰り返すのがなんだか楽しくなってくる。

 リョウの方に向いた顔にかかった前髪にも緩いうねり。

 頬にかかった少し長い部分が邪魔そうに見えてそっと後ろに撫でて避けながら指に巻き付けるとくすぐったくて気持ちいい。

 髪と同じ色のまつげがわずかに震えて、起きてしまうかな、と一瞬手を止めたら腰に回った腕に力が入って小さく息を吐き、そのまま寝息が継続した。

 

 ……あれ、なんか手持ち無沙汰だ。

 レンブラントの髪を撫でるのにちょっと飽きてきた頃、リョウがふと視線を彷徨わせる。

 この状態では何もすることがない。

 ……早く起きないかな。

 などと勝手なことを思いながら、そういえば、と、レンブラントから貰った時計をポケットから出してみる。

 金色の流線形の植物の装飾が施された時計の裏側には真ん中に小さな赤い石がはめ込まれている。

 白い文字盤には貝が使われているのかほんのり光沢にムラがあって綺麗。金色の細い針はやはり流線形の植物を模したデザインで優雅に見える。

 指し示す時刻によれば、まだ昼までは数刻ある。

 この分だとお昼ご飯はうちで食べることになりそうだけど……下ごしらえは何もしていないし……この状態ではここを動けそうにもないから後ですぐ作れるものにしないと。パンを買ってくるのはやめて、パンケーキ、かな。

 以前、ビャッコが出してくれた薄く焼くタイプのパンケーキにいろんな具材を挟んで食べるやつ。あれ、美味しかったからあんな感じにしてみようかな。

 塩漬けの肉があったはずだし、あとは野菜がまだあるからそれでどうにかなるかしら。……ああ、そういえばチーズがあった。最近いろんなタイプのチーズが手軽に手に入るからお酒のつまみにと、いろいろ買ってある。肉と一緒に挟んで食べても美味しいかも。

 

 そんな小さな計画を立てながらふと、視線を脇にそらす。

 すぐ横の肘掛に、先ほどレンブラントから外した髪に結んでいた紐。

 時計をポケットにしまい直して、手持ち無沙汰ついでにそれを手に取ってみる。

 濃い青色の糸を組み合わせて作った紐は艶やかで上質なものであることがすぐにわかる。

 ……絹、だろうか。

 今度、こんな感じの物を作ってあげようかな。

 レンの髪色なら何でも似合いそう。ああ、でも騎士服に合わせるならやっぱり青系か。銀糸を混ぜたら綺麗だろうな。青と紫か、もしくは青と青よりの緑の糸を混ぜて組んだらどうだろう。

 紐を組み上げるやり方は確かルーベラが知っていた。花嫁衣装の意味を教えてくれた時に飾り紐を自分で組み上げる、という話を聞いたのだ。

 ……そういえば私、あの服の意味は曖昧にしか教えてもらってなかったのよね。特に飾り紐の下り。

 今更ながら顔が赤くなる。

 後でザイラに聞いたら、飾り紐を自分で組み上げるという習慣について説明したらその作り方まで教えなきゃいけなくなるから伏せておいた!と笑顔で言われたっけ。……うん、ザイラは苦手そうだったもの。

 服の意味をレンに吹き込んだのは……クリスだろう。

 

「……う、ん」

 そんなことを考えていたらレンブラントの声が微かに漏れた。

「……目、覚めた?」

 ここは起こしてしまおう!

 やる事がない、という状況からの打開策としてレンブラントには起きてもらうことにしたリョウは、少し身動きしたせいで再び目の辺りまでかかってしまった長めの前髪をそっと手で梳き上げながら優しく声をかけてみる。

「……ああ、すみません。本当に寝てしまった……」

 ぼんやりした目のままリョウを見上げるレンブラントにリョウがつい笑みを漏らす。

「うん。気持ち良さそうだった」

 そんなリョウの言葉にレンブラントはほんの少し笑みを浮かべてから深く息を吐くと腕を組んで上を向き、再び目を閉じた。

「……え? あれ? レン……?」

 まさかまた眠っちゃう?

 リョウがちょっと慌てて目を閉じたままのレンブラントの頬に右手を伸ばす。

「さっきみたいに髪を撫でて欲しいな」

 ぼそりと呟くレンブラントの耳が少し赤くなった。

「……え、やだ、起きてたの?」

 眠ってると思って好きなだけ触ってしまったじゃない……!

 頬に触れていた手を咄嗟に引っ込めようとするとレンブラントの右手がその手を捉えた。そしてゆっくり指先を包み、引き寄せ、口づけする。

 とても大切なものでもあるかのようにリョウの指先に一つ一つ口づけしていく。

 その仕草の艶っぽさにリョウの鼓動が跳ね上がった。

「……リョウの手はとても気持ちがいいですね。ずっと触れていて欲しくなる……」

 うわぁ、どうしよう……!

 うっとりしたような目で見上げられて、リョウが左手で自分の口元を押さえて目を泳がせた。

 なんでこんなに明るいうちからこんなに色気を振りまくの、この人は……!

「……レ、レン……お腹空かない?」

 口元を押さえて顔が赤くなっているのを自覚しながらどうにか話をそらそうとリョウが声をうわずらせる。

「……お腹……? え、今から食べちゃってもいいんですか?」

「……へっ?」

 ガバッと起き上がったレンブラントがソファの背もたれにリョウの肩を押し付ける。

 いつの間にかその目はいたずらっぽい輝きを放っており。

 リョウが意味がわからなくて目を見開く。

 両肩を掴んだ手の力は弱まることなく、レンブラントがゆっくり場所を移動してリョウの両脇に両膝をついて見下ろしてくる。

 レンブラントの視線から逃れることができないリョウは視線を合わせたまま緩やかなカーブの背もたれに頭を乗せてレンブラントを見上げた。

「……え?何を食べる、の?」

 レンブラントの動きについていけなくてリョウが声を上げると、レンブラントが微笑みながら片方の腕を腰に回して顔を近づけてきた。

「さぁ……何でしょうねぇ? 今、美味しそうに色づいていましたけど。目を潤ませたりなんかして食べてほしそうでしたよ?」

 唇がもう少しで触れそうな位置で囁かれる。

「……! わーーーーーー! 違う違う! 今は駄目!」

 思わず目の前のレンブラントの顎に両手をかけて突っ張ってしまった。

「……ぐっ」

 あ、しまった……!

 レンブラントが首の後ろを押さえながら後ろに下がった。

 多少手加減はしたけど、首、大丈夫だったかな……? と、少し心配になって。

「……大丈夫……?」

 一応声をかけてみる。

「……こんなに強く拒否されるとは思わなかった……」

 う……。

 本気で落ち込んでいそうに項垂れるのは反則だと思う。

 でも、ここで甘い顔をすると本気で押し倒してきそうなのでリョウはさっさとソファから立ち上がる。

 

「お昼ご飯、作ってくるね」

 そう言うと部屋のドアに向かって歩き出す。途端に。

「駄目」

 後ろからレンブラントに抱きすくめられる。

「え、ええ? だって、ご飯!」

 ちょっと……ホントに大丈夫かな? ってくらいレンブラントが密着してくる。振り返ろうにも振り返れない。

「……今日は僕から離れることは許可しません」

 甘えたような声が耳元でして、首筋に顔を埋められる。

 わー、どうしよう……。

 でもさすがに飲まず食わずで部屋にいるっていうのは……いや、絶対駄目だ。……どうなるか目に見えてる。

 なのでどうにか右腕を動かして右の首筋に顔を埋めているレンブラントの頭をそっと撫でてみながら。

「はいはい。じゃ、一緒に作ろ? 私、お腹すいたんだけど」

 と、誘ってみる。

 暫くしてため息をついたレンブラントが顔を上げた。

「……分かりました」

 ……なんでそんなに残念そうな顔してるんだろう! この人は……!

 リョウの笑顔が一瞬固まった。

 

 


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