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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
二、医学の章 (企みと憂悶)
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レンブラントの試練

「……それにしたって……信じられない。グリフィスってどういう神経してるのよ」

 リョウがイライラとした様子で呟く。


 取り敢えず、レンブラントがグウィンにべったり張り付くリョウに気が気ではなくなってきたので彼女をベッドの上からは引きずり下ろしたものの、リョウ本人はグウィンのそばを離れる気が無いようでベッド脇に引っ張ってきた椅子に座ってベッドの上、グウィンの方に身を乗り出した格好でそれ以上離れられそうもない。


「ああ、違うんだ。俺が言い出したことだ。どうせやるなら徹底的にやったらどうかって。……アルのやつ、その辺の説明がめんどくさかったんだな……さっさと引き上げやがって」

 ベッドの上に座ったような体勢で背中に当てた大きめの枕に体を沈み込ませるように脱力したままのグウィンが力なく説明する。

 グウィンの言う通り、アルフォンスはリョウとレンブラントが落ち着いたのを見て取るなり、早々に部屋から引き上げて行った。

 まぁ、そんな事件があったわけだからその後始末的な仕事だってあるだろう。

 去り際、グウィンが飲み残した薬の包みをいくつか「参考までに」と持っていくのは忘れなかったあたり、医師であり研究者でもある自身の関心事も忘れてはいなかったようで、多分一番冷静だった人物だ。


 結局のところ。

 グウィンはまず、レンブラントからの手紙を受け取った後、返事をグリフィスに出し、都市の司である人とのやりとりもしていたらしい。

 考えてみれば、ニゲルが本気を出せば、その駆ける速度は尋常ではない。

 連絡を受け取ったら一両日中にでも駆けつけて良さそうなものを、暫く置いてからの都市への到着だった。

 その間にある程度「体力」を落としていた、ということらしい。

 そして「人間」としてここでの仕事に就任し、その事を証明した。

 なので、言いがかりをつけて危険分子である事を明らかにするであろう者たちを始末しようというグリフィスの目的も果たされた、というところらしい。


 そういう事情がわかって来ると、リョウの怒りはいつの間にか収まってきているのだが。

「何も知らされないでいる者がどれだけ心配するかわかっているんですか?」

 リョウの隣でグウィンを睨みつけるレンブラントを見る限り……こちらの怒りは収まってはいないようだ。

「ああ……それは……本当に悪かったと思ってるんだ。レンブラントまで本気で心配してくれたんだな」

 グウィンがニヤリと笑う。

「別にそんなことは言っていませんよ。……なんならいっそ死んでしまえばいいんです」

 多少の心配はした。

 毒のせいで苦しみ始めて血を吐く様子を目の前で見て、生きた心地がしなかったのは事実だ。

 でも、それ以上にリョウがあそこまで取り乱すのを見た事の方が辛かった。リョウにあんな思いをさせたのかと思うと、本当に「死んでしまえ」という気持ちで一杯だ。でも「リョウが心配していた」という事を伝えるのも癪に触る。

 そんな事を考えながらレンブラントが口許を歪める。


「……そうね。……何も知らないっていうのは……やっぱり悲しいわね。無理に話させる気は無いけど……でも、教えておいてもらえれば辛い思いもしなくて済むのに、って思うわ」

 リョウが小さくため息をつきながらこぼす。

 視線を落とした寂しげな表情にグウィンがちょっと息を飲んだ。

「ああ……ごめんな。リョウ」

 グウィンが思わず身を乗り出してリョウの頭を撫で、その勢いでわずかに顔をしかめた。

「……グウィン?」

 前かがみになるように少し体に力を入れただけだったのに、息づかいが苦しげだ。

 リョウが驚いてグウィンの顔を覗き込み、レンブラントが無言でグウィンの固まった腕を支えながら元の姿勢に戻るのを手伝う。

「……ふぅ……悪いな。まさかこんなに弱るとは思ってなかった。こりゃ……暫くは動けそうに無い、な……」

 そう呟きながら眉をしかめるグウィンは、なんだか他人事のように自分の体をしげしげと見つめている。

「そうね……そうよ。人間並みの体力になっていたところに毒を飲んだんでしょ? 絶対今は無理しちゃダメよ!」

「そうですね。じゃあ、リョウ、僕たちもそろそろ引き上げますよ? グウィンを休ませないと」

 リョウの言葉にレンブラントが便乗するように退室を促す。

 と、リョウがきょとん、としてレンブラントを見上げた。

「え? ……レンは部屋に戻っていて良いのよ? 私、グウィンのそばにいるから」

「は?」

 レンブラントが速攻で聞き返してきた。

 リョウは至って真面目だし、この上さらに何か説明が必要だなんて思ってもいないから「え? なにか?」という顔をしている。

「……えーと……僕の聞き間違い、ですかね? リョウ、まさか……一晩中この部屋にいるつもり、なんですか?」

 もはやレンブラントはうろたえすぎて自分がどれほど情けない顔をしているかもわかっていないのだろう。

 そして、リョウの方はといえば、レンブラントのその反応の方がむしろ理解できないようで至極当然という顔をしたまま。

「だって普通の人間並みの体力になってるんでしょ? 夜中に何かあったらどうするのよ。そもそも、あんな苦しい目に遭った後に……グウィン、ちゃんと眠れる?」

 そこで改めて、リョウの視線がグウィンに向く。

「……え?」

 リョウがちょっと固まった。

 ベッドの上に身を起こした状態のグウィンがリョウを凝視したまま、顔を赤くしている。

 で、グウィンがそのまま、そーっとレンブラントの方に視線を向け、眉をしかめてリョウの方に視線を戻し。

「……あのな、リョウ。……俺なら大丈夫だ。ついててくれなくていいぞ」

 ボソボソと告げると、レンブラントが待ってましたとばかりにリョウの両肩を掴む。

「ですよね。さぁ、リョウ、行きますよ。ほら立って」

「え……! え、ちょっと……! いいのっ? グウィン、一人で平気なの?」

 慌ててグウィンの方を見るリョウは、レンブラントによってすでに無理矢理立たされて、体の向きを変えさせられ、ドアに向かって押しやられるように歩き出している。

 まさに、撤収! といった感じだ。




「……ねえ、本当に大丈夫かな」

 リョウが強制的に着替えまでさせられてベッドに連れ込まれてからレンブラントの腕の中で小さく呟く。

「大丈夫ですよ。……だいたい、リョウが付いていなくても何かあればコーネリアスかハンナが対応してくれます」

 リョウの背中に回した腕の力を少し強めながらレンブラントが答える。

 ちょっとでも力を緩めると「やっぱりちょっと行ってくる」なんて言いながら腕からすり抜けてしまいそうで。

「でも……」

「リョウ、寝ましょう。もう遅いんですよ。……明日また様子を見に行けばいいでしょう。それにグウィン本人も大丈夫だって言っていたでしょう」

 レンブラントがリョウの言葉を遮ってため息混じりに言い聞かせる。

 ついでに胸元に顔を埋めたままのリョウの頭に口づけをして。

「リョウがあいつのことを心配しているのはわかります。気が気じゃ無いのも。でも……僕は一晩中リョウがほかの男の部屋に居るなんてことは許可しませんよ。絶対、ダメです。例えグウィンでも、ダメですからね」

 逃げの口実は一切許さない、という意思を全力で前面に出しつつ、それでもなるべく静かに言い聞かせる。

 本当に、リョウはグウィンの事になると相手が異性であるという概念を平気で飛び越える。

 グウィンのやつは、絶対リョウに対しては本気だ。そんなことは改めて言われなくたって分かる。リョウを見る目やときどき見せる照れたような表情は明らかに「保護者」のそれでは無い。

 だいたいリョウがグウィンの部屋に行って抱き締められた、だとかキスされただとか言っていた時の衝撃といったらなかった。よくよく聞いたら恋愛感情によるものだなんて本人(リョウ)はかけらも思っておらず、せいぜい親愛の情の表れ、程度の認識で……まぁ、今思えば体力的に弱っていたりしたからつい出来心でやらかした「事故」なのかも知れないが……。それにしたって夫のあるリョウにそんな事をするなんて何事だ、と思った。

 それに。

 グウィンがあんな事になったのを目の当たりにしたリョウの反応にも……衝撃を受けた。

 あそこまでショックを受けて……我を忘れるとか……リョウの気持ちを疑う気はさらさら無いが僕自身に何かあった時もリョウはあのくらい取り乱してくれるのだろうか、なんてことを不謹慎にもずっと考えていた。

 だいたい、ショックで気を失うとか……気丈なリョウには考えられないことだった。抱きしめていて息をしていないように思えた時は本当にどうしようかと思った。自ら命を絶つことが出来ない身であり、大抵の命を脅かす事態には耐性のある体であるのだから、そう簡単に体を壊すということは無いのだと分かってはいても、やはり、それは肉体面の話だ。精神面は弱い。

 グウィンの存在は彼女の精神を支えるのに重要な役割を担っているのだろう。それを思い知らされるようでなんだか胸が痛んだ。


 僕は……グウィンの前では「敵」と見なされてしまう可能性すらあったのか、と、愕然とした。


 それは……やはり種族の違い、のせいなのだろうか。

 同族である事に加えてさらに一度心を許した相手なら、やはりその結びつきは強い、という事なのだろうか。

 敵わない……なんて思いたくない。そう思ってしまったら完全に負けだと思う。

 少なくとも、僕はリョウの夫だ。リョウが選んだ、伴侶なのだ。


 腕の中のリョウが静かに寝息を立てているのを確認するために一度腕を緩めたところで、万が一、これが単に寝たふりで、もしくは浅いまどろみ程度で、次に自分が目覚めた時に腕の中に彼女がいなかったら、なんて想像をしてしまうのでレンブラントは改めて腕に力を入れ直す。


 今夜は絶対に眠らない。

 朝まで、絶対にこの腕からリョウを逃したりしない。




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