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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
二、医学の章 (企みと憂悶)
54/207

リョウの心配

 おかしいなぁ……。

 リョウが眉間にしわを寄せながら、目の前で作業をしているアルフォンスに目を向ける。

 私の気のせい、なのかな……いや、でも……。

 チラリと、少し間を置いた隣の席で開いた厚手の本に目を落としているグウィンに目を向けてみて。

 ……うん。いつもより静か、よね。

 なんとなく自分の中で確認してみる。

 

 先程部屋に入ってきていつも通り仕事を始めたところ、なのだが。

 なんとなく、グウィンの様子がいつもと違うような気が、する。

 レンブラントもアルフォンスも、いつもと全く変わりがない。

 でも、グウィンが部屋に入ってきたときに、まずリョウは「顔色が悪い」と思った。とはいえ、竜族の体質上、それってまずあり得ないことで。基本的によほどのことがなければ体調が悪くなるなんてことはない筈なのだ。だから自分の中で感じた異変を真っ先に撤回してみた。

 それに、そもそも医師であるアルフォンスが目の前にいるんだから、体調が悪い人に気づかないわけがないだろうとも思える。

 

 アル……本当に気づいてないのよね?

 なんて思うからリョウはついアルフォンスに視線を向けて何かしらの反応がないか確認してしまう。

 でも、最初に感じた異変を思い返すうちにそういえばグウィン、いつもより口数が少ないんじゃないか、なんて思えてきて。

 いつもより静か……そりゃまぁ、本を読んでいるわけだから賑やかにしろという方がおかしいし、そもそもグウィン自身落ち着きのない部類の性格ではないから、静かなのは当たり前なのだけど……それでもなんとなく、纏っている雰囲気が、なのか、いつもより静かな気がする。うん、いつもの方がもっとこう……読んでいる内容に合わせてため息ついたり目を上げて何かを考え込んでたり、何かしらの動きがあるような気がするのよね。でも、今日は全くと言っていいくらい動いてない……って、あれ? ページすらめくってないんじゃないかな……?

 そう思うとやはりリョウの視線はグウィンに向いてしまう。

 

「……今日は進めないんですか?」

 レンブラントの声にリョウが我に返る。

「えっ?」

 思わず聞き返して振り返るように顔を上げると、いつのまにかすぐ後ろに立っていたレンブラントがリョウの手元を覗き込んでいる。

 リョウの手元には、先日「研究」していたお菓子のレシピ本が数冊。

 せっかくコーネリアスが取り寄せてくれたので、チョコレートケーキだけではなくて他のお菓子もいろいろ試してみようと、この時間帯は少しずつ読み進めていた。

 それが、結局今日のところはまだ最初に開いたページのままなのだ。

「あ……うん……進めるわよ。もちろん」

「レン、リョウに強制してはいけませんよ」

 リョウが返事をすると同時に向かいに座っているアルフォンスが顔を上げることもなく静かに言い放つ。

「……分かってますよ、そんなこと。……リョウ、無理はしないでくださいね」

 レンブラントがリョウの肩を抱くように手を置き優しくさする。

 ……うーん……果てしなく、甘やかされているような気がする。

 それに、今、労うべきは私じゃないと思うんなだけどな。

 そう思いながら再びグウィンの方にリョウが視線を送ると。

「……大丈夫なのか?」

 ニヤリと笑ったグウィンが声をかけてきて目が合う。

 なので、思わずリョウが眉をしかめた。

 ……あれ。いつも通りだ。顔色が悪いような気がしたけど……そんなこともない、か。そう思いながらなんだか腑に落ちないといった顔でリョウが視線を手元の本に落とし直す。

 で。

「おい、アル。この本、丸っと一冊破棄した方が良くないか? 偏見の塊だろ、こんなの」

 グウィンがそんなことを言ってため息混じりに手にしていた本をアルフォンスの方に押しやる。

「……丸っと一冊……って、ちゃんと全部読んだんですか? 文献としては古くて貴重なものなんですよ?」

 アルフォンスが苦笑いしながらそれを受け取る。

「おいおい、だってそれ、昨日から読んでるけどな、読んでて相当気分悪くなったぞ? ……大体そんなもん、マジでリョウに読ませたのかよ。酷すぎるだろ」

 ちょっと憮然とした表情でグウィンが訴える。

 やりとりの中に自分の名前が挙がって反射的にリョウが顔を上げてアルフォンスが手にしている本に目をやる。

 ……ああ、あの本ね。確かに内容が結構過激だった。

 筆者個人にも竜族に対する変な執着のようなものがあったみたいで、実験の記録もその分析に関する考察もちょっと極端だな、と思った気がする。でも……未知の「竜族(いきもの)」への恐怖のようなものに支配されている人間が自分にある知識と技術を駆使してそれを「知っているもの」として消化しようというのだから仕方ない事なのではないか、と思えるからなんの躊躇(ためら)いもなく読んでしまった。

「……なるほどね。……分かりました。ちょっと考えておきますね」

 アルフォンスが本のページをパラパラとめくって中身をざっと眺めてからパタンと閉じて脇に置く。

 そんなやりとりをなんとなく見ていてリョウは。

 ああ、そうか。グウィンの様子がおかしいなって思ったのは体調とかじゃなくて読んでいる本のせいだったのかな。……そういえばそういう内容の本を読み続けたせいで私だって結構な影響を受けていたんだものね。

 なんて思う。

 ……そうか。ちょっと前は私があんな感じだったということかな。それなら……そうよね、初めてこういう変化を経験している人を間近で見たら、みんな心配するわね。

 改めて、アルフォンスとレンブラント、それにハンナやコーネリアスに心配をかけてしまったことを申し訳なく思いながらリョウが手元の「なんの害もない」本に視線を落とす。

 ……ここはひとつ、みんなに盛大に何か美味しいものでも作ってあげようかな。

 

 

 

「……はい。リョウ。飲みますか?」

 夜。

 バスルームから出てきてソファに腰を下ろしたリョウにレンブラントがちょっと大きめのカップを差し出す。

「わぁ! カミレのミルクティー! ……ありがとう」

 一旦目を見開いたリョウが自然と笑顔になってレンブラントを見上げる。

 ……バスルームから出てくるタイミングを見計らってこういうものを用意してくれるなんて、本当に凄い。

 しかもちゃんと作りたてだし……。

 ふわりと広がるカミレの香りは優しくて、ミルクと蜂蜜のおかげで本来爽やかな風味のお茶は柔らかい印象のお茶になっている。

 リョウがカップを両手で包み込むようにしながら一口飲んで、ほぅ、と息をつくとレンブラントがすぐ隣に腰を下ろしてきた。


「……リョウ、疲れてる?」

「え?」

 顔を覗き込むようにしながらレンブラントに尋ねられてリョウが顔を上げる。

「……え、と。べつに疲れてはいないけど。……いつも通り、よ?」

 その返事が気に入らないのかレンブラントは「ふーん」と小さく答えながらリョウの腰にそっと腕を回してくる。

 なので反射的にリョウはレンブラントの方に軽くもたれるような姿勢になり。


 あ、そうか。

 このお茶、私が疲れていると思ったから用意してくれたのかな。

 なんて思い当たる。

 そういえばカップは一つだけでレンブラント自身の分は用意されていないようだ。


「……今日はずっと心ここにあらず、という感じだったからちょっと心配だったんですけど」

「え……あ……」

 そう言われてみれば今日は何かにつけてグウィンの様子をうかがってしまっていたような気が、しなくもない。

 仕事中もなんとなく気になって気がつくとチラチラ見てしまっていたし、夕食の席でも食が進んでない、なんてことはないだろうかなんて気になって大皿の料理はかなり積極的に取り分けてあげたりしていたかも。

 そんなことを思い返してみながら、ああこれは再び誤解されてはいけない、ちゃんと話さなければ、と思い。

「あの、ね。……グウィンって、今日、いつも通りだった?」

 ちょっと控えめに聞いてみる。

「……グウィン、ですか?」

 レンブラントは相変わらずリョウの目を覗き込むようにこちらをじっと見たまま特に表情を変えるでもなく言葉を返してくる。

「……いつもと変わらなかった、と思いますけど。まぁ、リョウがあんまり世話を焼くから若干楽しそうでしたけどね」

 あ、最後はちょっと不機嫌そうになった。

 リョウがレンブラントの表情と口調のわずかな変化につい笑いそうになりながら、意識的に口許を引き締めて。

「あれ……? ほんと? ……あの人、顔色が悪いような気がして心配だったのよね。だって、ずっとよ? まぁ……顔色、は私の見間違いかもしれないんだけど……仕事の時も食事の時もなんとなく、こう、いつもみたいな覇気がないっていうか……」

 文献のせいだから気にしていないのだとしても、レンブラントやアルフォンスが気づいていないとは思っていなかったのでリョウがうまく表現できないかと言葉を探しながらゆっくり説明する。

「……そうですか? 僕にはいつも通りだったように見えましたけど」

 レンブラントが少し考え込みながら答える。

 なので。

「あれ? そう、なの? ……まぁ、その。私もあの本を読んでいた時は結構な影響受けててみんなに心配かけちゃったみたいだから、グウィンのあれもそういうことなのかな、って思っていたんだけど……違う?」

 リョウの言葉が少々心細そうなものになる。

「ああ……そういえばリョウの場合は、そうですね。……でも……そうか。リョウはやっぱりグウィンのささやかな変化に誰よりも早く気がつくということなんですかね」

 レンブラントが、はああああっ、とわざとらしくため息をついて軽くうなだれる。

 リョウの方には顔を向けずに「僕もそのくらい心配されたい」なんてこぼしたりして。

「レンがいつもと様子が違っていたら……多分わかると思うわよ、私。そんなことになったらほんとに心配で大変になっちゃうからそこは気を付けてね」

 こちらを見ようとしないレンブラントの顔を無理矢理覗き込みながらリョウがちょっと意地悪に言ってみる。

 多分、レンが具合悪くなったりして……その原因がはっきりしないなんてことになったら私……うん、ダメだ。いてもたってもいられなくなりそう。絶対取り乱す!

 リョウとは逆の方向に顔を向けていたレンブラントがそろそろと視線を、斜め下から覗き込んできているリョウに戻してちょっと口許を歪めて、ため息をついた。

「……それ、美味しいですか?」

 リョウの手に包まれているカップに目をやりながら聞いてくるので。

「え……あ、うん。とっても美味しい!」

 リョウが笑顔で答えると。

「味見させて」

 と、カップに手がかけられる。

 くすりと笑うリョウをちらっと見てからそのカップを取り上げたレンブラントが程よく冷めたカミレのミルクティーを一口飲み。

「……蜂蜜、少し多かったかな」

 と眉をしかめる。

「ふふ、大丈夫。私、蜂蜜大好きだから」

 リョウがそう囁きながらレンブラントの手からカップを取り戻して口に運ぶ。

 ……うん。なんだかこういうのって嬉しい。一つのカップから一緒に飲む、とか。一つのものを二人で分け合うとか、そういうの。同じものを別々のカップから飲むよりももっと、同じものを共有している感があって……胸の奥がふわっとあったかくなった。

 そんなことを思うと自然にリョウの表情が……和らぐ、を通り越してにやけてきた。

「なんだか楽しそう、ですね」

 そんな声がかけられてリョウが顔を上げるとレンブラントがうっとりしたような目でこちらを見ている。

「……だって、レンが私のために作ってくれたお茶を一緒に飲んでるんだもん。……なんだかすごく幸せ」

 えへへ、なんて笑いながらカップの中に視線を落とす。

 ……なくなってしまうのがもったいないけど、冷めちゃうのももったいないから早く飲まなきゃ!

 なんて思って再び口をつける。


「……リョウが、グウィンのことをそんなに心配なら……明日の夜、グウィンに同行してこようかな」

 ポツリとレンブラントが呟く。

「え? ……何? 同行って?」

 リョウが視線を再びレンブラントに戻す。

「明日の夜、グウィンは食事会に呼ばれてるんですよ。お偉いさん方の」

「え、そうなの?」

 それは聞いてなかった。……まぁ、グウィン個人の予定を逐一聞かなきゃいけないわけじゃないし、きっとハンナやコーネリアスには夕食を外で済ませるからと伝えてあるのだろうからなんの問題もないのだが、初めて聞いた話なのでなんとなくリョウは置いてけぼりを食らった気分で視線を落とした。

「……ああ、リョウには言ってなかったんですね。きっと心配させたくなかったんですよ。……メンバーがね、ちょっと危ないかもしれない人たちなので」

「危ない……って、どういうこと?」

 リョウの言葉に、レンブラントがちょっと息をついてから。

「グリフィスたちが『危険分子』と目をつけている輩です。……一応、食事会そのものは表向きはグウィンの顔見せ、みたいなものなんですがね。何しろ、あいつ、結構な役職の割に公式の場に出ないっていう微妙な立場じゃないですか。だから、議会に召集されるとか、お偉いさん方の社交的な場に出て公に紹介されるなんてことはないんですよ。でも、だからといって誰にも紹介されないで済むわけはないから……非公式の食事会でのお披露目、みたいな感じになってるんですよね」

 淡々と説明するレンブラントにリョウが「ふうん」なんて相槌を打ちながら。

 ……そうか、相談役補佐、とかって言っていたものね。確かに将来的に力を持つ可能性が高い者なら(まつりごと)に関わる者たちの関心の的だろう。かといって正式に一緒に働く機会がないのであれば……そうやって知り合おうとするのか。

「で、僕も一応非公式ではありますが『護衛』として参加しないか、と言われていたんですが……まぁ、非公式と言うからには勤務外でもありますし……せっかくあいつがいないならリョウと二人で食事ができると思って断るつもりだったんですが……」

 ちょっと、控えめなため息をつきながらレンブラントがチラリとリョウの方に目をやる。

「僕が入れたお茶で、そんなに幸せそうにしていてくれるなら……まぁ、リョウを独り占めしたも同然、だから……いいかな。ああ、もちろんリョウがそうしてほしいなら、ですけど!」

 セリフの後半で勢い込んで顔を覗き込んでくるレンブラントに。

「……う……ん。そうね、そういうことならグウィンの護衛、行ってもらった方が安心だわ。……ああ、もちろん、レンと一緒に夕食、食べられないのはちょっと残念だけど」

 最後の一言は、絶対言っておかなきゃダメ! と思ってリョウがレンブラントの目を見ながら付け足す。

「……分かりました。明日はフェルディナンド・メンジーズの護衛ですね」

 レンブラントがやれやれ、といった風に肩をすくめてそう言うので。

「……誰……?」

 聞きなれない名前にリョウが首をかしげる。

「グウィンのここでの正式名ですよ。偽名……ってわけでもないようですけど。母方の曽祖父から引き継いだ名前、とか言っていたかな。あいつ、家系に人間が入っているからその人間の持っていた文化によって名前をそのまま引き継いだりしているらしくていくつか呼び名を持っているようですよ。さすがに『グウィン』を正式に名乗っているとどこかで『風の竜』だとバレるだろうから……ちょっと気を遣ったんでしょうね」

「うわ……そうなんだ。……え、でも、私、普通に『グウィン』って呼んじゃってるけど大丈夫なのかしら」

 リョウがはた、と普段のやりとりを思い出しながら考え込む。

 コーネリアスやハンナだってリョウが呼ぶ通り『グウィン』の名前で呼んでいる。

「ああ、大丈夫ですよ。名前は念の為、です。そもそも以前グウィンがここにいた時は僕たちの間以外では『風の竜』の名前で通していたから『グウィン』の名前も知られていないはずなんです。ハンナやコーネリアスも彼の正式名の方は知っていますし、その上でリョウや僕が使っている呼び名を使っているのは僕たちへの礼儀のようなものを優先しているから、みたいですよ。愛称みたいな認識なんじゃないですかね。……念のため外では正式名称だけを使うようにと伝えてありますが……まぁ、使用人が客人のことを外で話題にするということ自体あまりないことですから大丈夫だと思います。彼らは信用出来ますしね」

 レンブラントの説明にリョウがほっと胸をなでおろす。

 

 ……そうか、グウィンって……いつものほほんとしているように見えるけど、実は結構危ないことをしているのか……。そりゃ、そうよね、グリフィスやアイザックがやろうとしていることってそういうことだ。そう考えたら……神経使いすぎて具合悪くなるとかも当たり前なんだわ。

 そんなことを思いつつ、リョウはふと、自分がいかに周りに守られているかを改めて認識する。

 私がそこまで神経を使わずに、危険な目にも遭わずにいられるのって……この家にこもって言ってみれば気の置けない人たちにだけ囲まれながら仕事をすればいいように手まわしをしてもらっているからであって……うわ、どうしよう。私……甘やかされすぎだわ。

 

 

 リョウがいつのまにか空になったカップをじっと見つめている。

 そんな様子にふと気づいたレンブラントはつい眉間にしわを寄せる。

「……リョウ? どうしました?」

 声をかけてびくりと肩が震えるリョウに驚いて、腰に回していた腕を肩の方に回し直してゆっくりさすってしまうのは……もう、衝動的に、なのかもしれない。

「あ……ううん。なんでもないの、ごめんなさい」

 顔を上げて微笑むその表情には少しばかり影があって、時々見せる「無理に作った」感のある笑顔だ。

「リョウの『なんでもない』はあまり信用出来ませんね」

 レンブラントは困ったように笑ってしまう。

 彼女の顔を見たら「なんでもない」なんてことはないとすぐ判るのだ。その事情を真っ先に口にしてもらえない事がもどかしい。

 と、こちらの気持ちが通じたのかリョウの視線が一瞬宙をさまよい、真剣な眼差しになって。

「……ああ、えーと……違うの。あのね、私、本当に甘やかされているんだなぁ、と思って。グウィンもレンも大変な思いをしながら仕事してるのに……私、ずいぶん楽してるみたい。……なんだか申し訳なくて。……私に何かできること、他にもっとない?」

 リョウがゆっくり言葉を繋ぐのは、思っていることや感じていることをなるべく正確に、誤解されないように伝えようとしている時だ。

 そんなことを最近感じ取るようになってきたのでレンブラントのリョウを見つめる目は反射的に優しく細められる。


 しかも自分が「楽をしている」なんて言い出すとは。

 つい最近まで自己否定の概念を強く植え込まれるような文献の山に果敢に挑み、そんな危険文書の影響をもろに受け、精神的に弱り果てていたくせに……楽をしている? アルが聞いたら叱り飛ばしそうなセリフだ。

 レンブラントはそう思うのでリョウの肩に回した手につい力が入る。


 力なく笑うリョウが、たまらなく、愛おしい。

 この笑い方をされると、リョウがまるで壊れ物であるかのように思えてくる。

 儚くも美しい硝子細工。人が無遠慮に触れたら散ってしまう繊細な花。そんな感じだ。


「……リョウはもう十分働いていますよ。大丈夫」

 レンブラントがそう言ってその額にそっと口づけるが、リョウの瞳は相変わらず不安そうで。

 ああ、もうこれ以上何も考えられないようにしてやりたい。と思う。

 思うと同時にレンブラントの体が動いた。


 まず、空になってなおリョウの手の中で大事そうに包まれているカップを取り上げてテーブルに置き、「え?」なんて小さく声を上げるリョウの体をそっと抱き上げる。

 次に起こることを予想したのか顔を赤らめながら両腕を首に回してしがみつくリョウに口許が緩む。

 そのままベッドに下ろして覆い被さりながら。

「……今、リョウに出来ること、教えて上げましょうか?」

 そう言いながらレンブラントがリョウに自分の身体を押し付けるとその身体がびくりと震えた。

 首に回されていた腕が肩に降りてそのまま自分の身体とリョウの柔らかい胸の間に割って入ってくるのを感じてレンブラントがそれを阻もうとリョウの背中に回した腕に力を入れ直し。

「リョウ、ちょっとだけじっとしてて。大丈夫、まだ何もしないから。……もう少しリョウを感じていたい」

「まだ」の部分を強調するとリョウが小さく息を飲んだ気配が伝わってくる。

 そんな反応を感じ取れることまでが嬉しい。


 さて、今夜は、この可愛い妻をどこから攻めてみようか……。

 

 

 

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