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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
二、医学の章 (企みと憂悶)
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プレゼント

 宣言どおり、翌日はレンブラントの休暇だった。

 

 ちょっと前に北の大通りで一緒に買い物をした日に「来週また休める」なんて言っていたものの結局仕事に出かける羽目になった時のレンブラントは呆然としていたがリョウがどうにか励まして出勤させた。

 

 何しろそういうちょっとずつの時間のやりくりのおかげで。

「ねえ、レン。……これ、良かったらどうぞ」

 少しずつの空き時間を使ってコツコツと練習し、ようやく昨日組み上げた紐を入れた細長い箱を、朝食後、テーブルの上にリョウがおずおずと乗せる。

「……え?」

 レンブラントが一瞬固まって、それからゆっくり手を伸ばした。

「仕事の時とかに……使えないかな、と思ったんだけど……どう?」

 なんとなく反応が怖くてリョウが小さい声で聞いてみる。

 今更ながら気に入ってもらえなかったらどうしよう、という不安にかられて仕方ない。

 そして。

 レンブラントはゆっくり箱のふたを開けるとそのまま動かなくなった。ので。

「……ごめん、やっぱり駄目だったかな」

 リョウがため息を漏らした。

「え! 駄目って……! 何が駄目なんですか? これ……リョウが僕に? もらって良いんですかっ?」

 レンブラントはうっすら涙を浮かべている。


 ……え、うそ。感動とか、してる?


 リョウが目を疑いながら困ったように笑う。

「うん。ちょっと時間かかっちゃったけどハンナに教えてもらいながら組んでみたの。レンにはこないだ色々買ってもらっちゃったし」


 あれから買ってもらった髪留めは毎日つけている。朝、髪につけているとレンブラントが出勤前に満面の笑みになるのでちょっと嬉しくて。

 それに、やはり、貰った物を身につけているというのはちょっとした時に嬉しい気持ちが込み上げてくるのだ。


 初めはハンナに「あら、その髪留め、素敵ですわね」なんて言われて恥ずかしさのあまり外しちゃおうかと思ったのだけど、つけているとレンブラントが留守の間もなんとなくそばにいるような気がして気持ちが和らいだ。

 形になるものを持つのは嫌だと思っていたけど……このくらいなら、なんて自分の許容範囲が少しずつ広がるのも悪い気はしなかった。


 リョウがそんなことをつらつら考えている間に、レンブラントは箱の中身を取り出してゆっくりと撫でたり眺めたりしている。

 で。

「リョウ、これ、結んでもらえませんか?」

 目を輝かせながらリョウの方を向いた。

 

「奥様、仕立て屋が品物を届けに参りましたが」

 リョウがレンブラントの髪に紐を結びつけ終わる頃、コーネリアスがいくつか積み重なった大きな平たい箱を抱えて部屋に入ってきた。

「わ! 本当?」

 リョウが弾むような足取りでコーネリアスに歩み寄り、箱を受け取る。


 仕立て屋が持ってくる品物といえば、こないだレンブラントが頼んだリョウの服と、それと一緒に仕上げて届けると言われていた守護者(ガーディアン)の上着だ。


 なんて良いタイミング!

 と思いながら、箱をテーブルに持ってくるとレンブラントがテーブルの上に出ていた食後のお茶を微笑みながらどけてくれる。

 待ちきれない思いで上の箱から早速リョウが開けていくと。


「あ……素敵!」

 まず最初の箱の中には化粧紙に包まれたエンジ色のスカートとベスト。スカートの裾とベストの前たてや裾に黒いブレードが縫い付けられている。生地自体に地模様が入っているのでそれだけで華やかさが増す。

 そして次の箱にはブラウス。

 一枚はシンプルな白のブラウスだ。

 胸のところにリボンが付いていて襟の先とリボンの先にお揃いのレースがあしらわれている。長袖のカフスの部分にも同じレース。ハリのある素材で出来ているので胸元で結んだリボンは形良く結べて可愛いかもしれない。

 もう一枚のブラウスは生成りの柔らかい素材。

 胸元にたっぷりギャザーが入っているが、柔らかい素材なのでボリュームは程よく収まっている。そして胸元、ヨーク部分とゆったりした袖の肩の部分に見事な刺繍で花柄が刺してある。落ち着いた赤や紫の花にちょっとくすんだ緑の葉や蔓の柄は可愛らしすぎることもなく大人っぽい華やかさがある。

 どちらもエンジ色の服との相性は良さそうで、ベストを着るなら白い方のブラウス。スカートと合わせて何か他のものを羽織るなら生成りの方のブラウスが良さそう。

 それから、さらにその下の箱。

「おおっ!」

 リョウが思わず声を上げた。

 上着は二枚。

 深い青の染め具合が微妙に違う二枚で、一枚は地模様が入っており、都市の紋章を細かく織り込んだ落ち着いた金茶色の縁飾りが付いている。

 もう一枚はどうやら毛織物。

 ちょっと重めの上着は……そうか、季節感。

 何しろ、寒いという感覚に疎いリョウは全く気にしていなかったのだが、そして騎士としての生活が長かったリョウとしては騎士服にこういった種類のものがなかった上、不自由もしていなかったので改めて考えることがなかったが、この時期一般の方々は毛織物の上着をよく着ている。

 毛織物の上着は袖のカフスが大きくてそこと肩の部分に都市の紋章を織り込んだ飾りが付いている。

 どの服も職人の技が利いていてなんだか着るのがもったいない……。

 そんなことを考えていると。


「リョウ、着て来たらどうですか?」

 最初に開けたせいで一番下になっているスカートとベストの箱を発掘しながらレンブラントが声をかけて来てリョウが我に返った。

 ふと見るとレンブラントは文句なしの満面の笑顔だ。

 なので。

「うん。ちょっと待っててね!」

 リョウはとりあえず箱の中身を両手に抱えて二階の寝室へと駆け出した。

 

 白いブラウスに、エンジのベストとスカート。もちろん髪飾りもレンブラントに貰ったものをつけてパタパタと台所の隣の部屋にリョウが戻ってくると、ハンナが早速空き箱を片付けてくれながらレンブラントと談笑していた。


「あら、リョウ様。素敵ですわね!」

 顔を上げるなりハンナが手を止めて声を上げた。

「ほんと? えへへ、ありがとう!」

 ちょっとはしゃぎ気味のリョウが、部屋に入った勢いでくるりと回ってみせる。

「……あれ? ……レン?」

 ハンナの言葉に続いて何か一言もらえるとばかり思っていたのに、一言も言葉を発しないレンブラントにリョウが少し不安になって歩み寄ると。

「あ……いや、えっ……と……!」

 おもむろにレンブラントが顔を赤らめた。

「リョウ様、せっかく旦那様のお休みなんですし、お二人でお出掛けになられたらいかがですか?」

 くすくす笑いながらハンナが声を掛けてくる。

「え? あ、そう、ね……レン、そうする?」

「もちろんです!」

 レンブラントが気持ち裏返り気味に声を上げ、ハンナが今にも大笑いになりそうな勢いで口元を歪めながらリョウに毛織物の上着を着せかけた。

 

 

「あ……レン、大丈夫、なの?」

 有無を言わさず、という感じでコハクに乗るレンブラントの前に横乗りで乗せられたリョウはぴったり寄り添うようにレンブラントと騎乗した状態でそのままゆっくり都市を出た。

 で、向かう先が東の森であることを確認して、ふとレンブラントに声をかける。

「え? ……大丈夫って?」

 レンブラントは終始笑顔だ。

「あの……だって、あの森って前にレンが大怪我したところじゃない?」


 以前、死にそうな目に遭ったザイラは同じ場所に足を運ぶにあたって体が震えていた。

 そんなことを思い出してしまったので、リョウは今、目の前に迫っている森でレンブラントにあった出来事を考えると心配になってきていたのだ。


「僕はそんなにヤワじゃないですよ」

 レンブラントがリョウの目を覗き込む。そして目を細めて。

「それに……あそこはリョウと始めてキスした場所ですし」

「……へ?」

 リョウが意味がわからなくて耳を疑う。

 あんなところでレンにキスなんかされたことあったっけ?

「……とても積極的に僕に乗っかってキスして来たじゃないですか」

 悪戯っぽく笑うレンブラントに。

「……! なっ……! あれは……あれは違うわよ! 別にキスしようとしたわけじゃないからね!」

 言われていることの意味が分かってリョウが赤面する。

 あれは……そんなロマンチックなことじゃなくて、命懸けの咄嗟の行動だったんだから……!


「ほら、その思い出の場所に到着です」

 相変わらず意地の悪い微笑みを浮かべたままレンブラントがそう言うと、先にコハクから降りてリョウに腕を伸ばす。

 なので。

「もう……!」

 ちょっと拗ねて見せながら、その腕に飛び込むのはなんだか気恥ずかしくて、まず手にしていたバスケットをその手に渡す。

 出がけにハンナが持たせてくれた軽食入りのバスケットだ。

 ちょっと期待はずれな顔をしたレンブラントがそのバスケットを受け取り……まぁどちらにしても荷物を持ったままレンブラントの方に手を伸ばすわけにもいかないから仕方のない流れなのだが、受け取ったバスケットをレンブラントが地面に降ろすのと同時にリョウが自力でコハクから降りる。

 ちょっと愕然とした顔のレンブラントは放っておいて、リョウが改めて周りを見回す。

 

 うん、やっぱり気持ちのいい森だ。

 少し開けたその場所には陽射しが降り注ぎ、小鳥の声もする。

 都市の周りなら子供たちの遊び場になっているせいで賑わっていたが、このくらい都市から離れると人は居ない。道路も最近少しずつ整備が進んでいるので商隊の行き来はあるがここまで道路から外れるとそんな音もせいぜい微かに聞こえる程度。

 温暖な気候のおかげでこの時期であっても下草はしっかり茂っていて……いやむしろ最盛期なら膝くらいまで繁っていそうなところがせいぜいくるぶしくらいまでの丈で落ち着いているから、これは上に座ったり寝転んだりするのにちょうど良さそう。

 陽射しも強すぎることなく穏やかで暖かい。

 

「この辺でどうですか?」

 声をかけられて振り返ると、レンブラントがバスケットと一緒に受け取ったブランケットを陽だまりに広げてその脇にバスケットを置いている。

「あ、うん。そうね……気持ち良さそう!」

 リョウが笑顔になってその上に早速座る。

 草の柔らかさが感じられて座り心地がいい。

 リョウが座ると同時にレンブラントもその隣に座る。

「その服、よく似合ってますよ」

 レンブラントの声にリョウが目を向けると、優しいブラウンの瞳が満足そうに細められている。

「ほんと? 良かった! ……レンのそれも似合ってるわよ」

 リョウの視線はレンブラントの首の後ろで見え隠れしている紐に向く。


 レンブラントの外出用のコートは青と緑の中間の色。隊長職の者たちは騎士服の上にコートを羽織ることがあるがレンブラントがいつも好んで着ているのはブラウン系のコートだったと記憶していて今日はあえて色を合わせてきたんじゃないかというような気がしたものだからリョウが頰を赤くしてしまう。

 今日は仕事は休みなのに前をはだけたコートの下は騎士服だ。

 ……あえてわざわざその格好にしてくれたのかな?

 なんて思うと照れ臭くて顔があげられなくなってしまう。


「リョウ?」

 あまりに視線が泳いでしまって目が合わせられないのを少々不審に思ったレンブラントがリョウの目を覗き込むようにして声をかけてくる。ので。

「……あ、いや。えーと……なんかその格好だと仕事してるみたいだな、と……あ……」

 そうか。守護者(ガーディアン)の護衛という仕事。

 特に私が都市から出るような行動をしているわけだから……これもレンにとっては仕事なのか。

 ふと、そんなことに思い当たってリョウの表情が冷静なものに変わった。


 レンは私のためとかじゃなくて、仕事として、ここに居る。


 そんな心の奥底に押し込めていた考えがふと頭を持ち上げてきたのを感じ取ってしまった。


「リョウ。……僕がこの格好だとリラックス出来ない?」

 目が合った途端に真顔になったリョウの表情をどう読みとったのかレンブラントが心配そうな声で尋ねてくる。

「あ、ううん。そんなことない。……いつもお仕事お疲れ様。都市のための貴重なお仕事だからね。感謝してますよ?」

 はぐらかすようにリョウがおどけて答える。

「ふーん……。リョウは色々溜め込みすぎですよ。……せっかく二人きりで時間もあるんだし、何か訊きたいこととか言いたいことがあるなら言ってくださいね。今日はリョウの言うことはなんでも聞きますよ」

 リョウの心を知ってか知らずかそんな言葉が投げかけられリョウの胸がどきりと鳴る。

 とはいえ……レンブラントの柔らかく微笑むその表情からしてそんなに深刻な話を期待しているとも思えないので。

「……うーん。じゃあ、レンの最近の仕事の話が聞きたい」

 リョウがちょっと上目遣いで切り出してみる。

「え……仕事の話、ですか?」

 レンブラントが若干鼻白む。

「だって、好きな人のことって色々知っておきたいじゃない? レンが普段どんなことをしているのかとか、どんな人達と一緒にいるのかとか。なんなら今度駐屯所に押しかけちゃうわよ?」

 リョウはつい小さく意気込んでしまう。


 そういえばザイラはクリスの仕事場に「怒鳴り込みに行った」と言っていた。

 私みたいに騎士としての生活経験があった上で駐屯所なり働いている現場なりに行くというのと、全く勝手を知らない彼女のような人が行くのとでは事情が違うだろう。……そう考えるとザイラって本当に勇気がある、というか無鉄砲というか……結局真っ直ぐで可愛らしい人なんだな、と思う。


「……良いですよ?」

 しばらく間を置いてレンブラントがボソリと答えた。

 ふとリョウが目を上げるとレンブラントの顔が赤い。

「リョウが来てくれたら隊員に自慢できます。ああ、そうだ! 今度、昼食の差し入れをしに来てください! 一緒に食事をして皆に見せつけてやる」

 レンブラントはなにかを企むような笑いを浮かべている。

 


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