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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
一、序の章 (続きをどうぞ)
29/207

女同盟

 

 

「あら、まあ! ……リョウ様、それは便利ですわね。それなら料理をお任せするのも納得です」

 ハンナがリョウの隣で目を丸くする。

 

 台所にて、ただ今リョウは昼食の準備をしていたりする。

 スライスした玉ねぎを炒めるに当たって、さらには芽を出しそうで大量消費を目指しているジャガイモを茹でるに当たって、鍋を火にかける。

 そんな過程で「力」を使う。

 今まで一人で台所を使うことが多かったリョウは、なんのためらいもなく火をつけるときには力を使っていた。目を離していても、他の作業をしていても一瞬でできるし、火加減の調節も全く問題なくできるので。

 ハンナたちには火の竜の力は説明済みなので気兼ねもない。

「……うふふ。でしょ? オーブンに火を入れるのもあっという間よ?何回も開けて中の様子を確認しなくても自分で調節できるしね。だから料理は私がやった方が効率が良くていいかなって思ったのよ」

 リョウは得意げだ。

 そんなリョウの顔をちらりと見やってハンナがにっこりと、改めて品のいい笑顔を作る。

「……でも、リョウ様の場合は、その力がなくても、旦那様のためにお料理はなさるんじゃないかしら?」

「……う……」

 ちょっと上から目線な口調の一言に、リョウが赤面する。

 まあ、確かに。

 ハンナに仕事をしてもらうに当たって、料理は出来るだけ自分でやるから、と言ったのはやはりこの作業が楽しいからなのだ。誰かに……この際認めてしまおう、レンに、食べてもらえると思うと何かを作るのがとにかく楽しい。料理の過程で火を簡単かつ的確に使えるから、なんていうのは後から取ってつけた理由だ。

「ハ、ハンナはもう仕事はひと段落したの?」

 なんとなく照れてしまって若干声を上擦らせながらリョウが尋ねる。

 確か、今朝は仕事始めに家中のチェックを兼ねて掃除を午前中のうちに片付けていたはずだった。

「ええ、リョウ様が普段から綺麗になさっていましたのでね、掃除にはさほど時間が取られずに済みましたよ。あとはコーネリアスが屋敷の外回りを見ていますから後で旦那様に報告するでしょう。わたくしはリョウ様のお手伝いを……」

 リョウの作業を眺めながら、全体の勝手がつかめて来たのかハンナはリョウが使った調理器具を片付けたり、さり気なく道具類や調味料の場所をチェックしたりしている。

 ちなみにハンナが「リョウ様」と呼ぶのはコーネリアスには内緒だ。彼の前では「奥様」と呼んでいるし、もう少し距離感のある話し方をする。

「あ、じゃあ……そのジャガイモを潰して小麦粉と卵を混ぜてもらってもいいかしら」

 茹で上がったジャガイモの鍋をどかしたあと、新しい鍋に少し多めに湯を沸かしながらリョウがハンナに指示してみる。

 この歳の人に指示を出す、というのはちょっと気がひけるのだけど……なんて思いながらハンナの様子を見たリョウは作業を始めるハンナが楽しそうな様子であるのを見て、つられて笑顔になってしまった。

 ……うん。気にしなくて良さそうだわ。特に気を悪くしたような感じもしないし!

 調理台で簡単なサラダを作りながら隣で作業するハンナとおしゃべりするのも楽しい。

 ハンナは仕事慣れしているベテラン、というだけあって作業そのものも綺麗にこなすが、主人であるリョウの作業も話も一切遮ることなく心地よい雰囲気さえも醸し出す。

 そんな空気感にリョウはふと気付き、密かに感動さえしていた。

 

 女二人、たわいもない会話に花を咲かせながら作業はサクサクと進み。

 ハンナに作ってもらった生地は小さくちぎって茹で上げ、リョウが作ったソースに絡めてお昼のメインが出来上がる。

 ソースは炒めた玉ねぎをシンプルに味付けして小麦粉とミルクで作ったソースだ。そこにチーズをふんだんに削り入れるのがリョウのお気に入り。

 それから野菜を盛り付けた皿にスパイス入りの塩を振る。

「さ、コーネリアスも呼んできてお昼にしよう!」

 リョウが盛り付け終わった皿を両手に持って声をかけると。

「……」

 ハンナが一瞬固まった。

「……え、ハンナ?」

「……うっかり、しました。申し訳ございません、リョウ様。コーネリアスは……それにわたくしも、ですが……その……ええ、ここははっきり申し上げますね。主人と同じ食卓につくことは、普通、使用人には許されておりませんのよ」

 申し訳なさそうに眉を下げるハンナに。

「えーーーーー! ダメよ! そんなの! 私、一人で食べるのなんて寂しすぎるじゃない!」

 リョウがついに絶叫した。

 

 

「……ハンナ……お前……」

「ごめんなさい、あなた」

 こめかみを抑えながらなんとも言いようのない表情で固まるコーネリアス。そして、今にも吹き出しそうな口許と悪戯が発覚しておどおどした子供のような視線を兼ね備えたハンナが、小さな食卓についた。


「ハンナのせいじゃないから。これは主人である私の、命令よ。いい? レンがこの家の主人であることには変わりないけど、彼が不在の間は私がその権利を代行していると思ってね。レンがいなくて私が一人でいる時は、二人とも、私の食事に付き合いなさい? 家に他に人がいるのに一人で食事をしなきゃいけないなんてどんな拷問よ? 居心地悪いったらないわ。寂しすぎるじゃない」

 リョウが、取ってつけたような主人っぽい雰囲気を醸し出しながらコーネリアスにそう言うと。

「……まあ、そうですね。主人の命令なら仕方ない、ですね」

 見事にコーネリアスが観念して、すかさずリョウとハンナが悪戯っぽい視線を交わし合った。

「……あ、それから。美味しくなかったら、美味しくないってちゃんと教えてね」

 とどめのようなリョウの一言にコーネリアスが一瞬顔色を失ったのは言うまでもない。

 

「……で、家の外回りって、どうだったの?」

 食後のお茶はどうしてもハンナが淹れると言うので……まぁ、そこにコーネリアスのハンナに向けた必死な視線を垣間見てしまったというのはリョウは気づかないことにしているのだけど……茶器の場所だけ教えて任せてしまったリョウがコーネリアスに話題を振る。

 食事の味付けに関しては、本音か立場上の建前なのかよく分からないまま全く否定的な意見は聞き出せず、面白いから「奥さんの料理とどっちが美味しい?」なんて意地悪な突っ込みまで入れてみたリョウだったがいい加減コーネリアスが可哀想になってきてそこには触れないことにしてみた。

「ああ……そうですね」

 コホン、と一つ咳払いをしてコーネリアスが背筋を伸ばす。

「今のところはもちろん何の問題もありませんが、将来的にメンテナンスが必要になるところは把握しておきました。それから……恐らくそのうちボイラー室も作ることになりそうですから、その準備も始めさせていただきます」

「ボイラー室……?」

 初めて聞く話にリョウが聞き返す。

「ああ、そうですね。こういう事は大抵のお屋敷では奥様方はあまり感知しないことですね、申し訳ありません」

 さらりと流すコーネリアスの態度は……これもベテランの使用人の技なのかもしれない。

 家の主人が妻に説明し損なっていることが明らかになっても、聞かされていなかった妻に恥をかかせない、という。

「ああ、そう、なの? ごめんなさい、私もそういいうことには疎くて。よかったら説明してくれる?」

 リョウはなんとなくコーネリアスの気遣いを察してそれとない形をとりながら聞いてみる。

「……そう、ですね」

 一瞬目を泳がせたコーネリアスは思い直したように丁寧に説明をしてくれた。

 

 ここ西の都市を始め、この地域では掘れば温泉が出るという地質的な特徴があって、ある程度の収入がある家庭には水道と一緒に温泉水が引いてある。

 でもボイラー室を完備すればそういうものに頼らずに家で湯が使えるのだ。

 今までは、そういうものを作るという発想が欠落していた。技術がないというよりはメンテナンスのための労力を惜しんでのことだ。

 その日その日を無事に生きることが社会の暗黙の前提だったから、生活を豊かにするとか、機能的にするとかそういう事は常に後回しだった。

 でも、比較的平和になってきた今、特にこの都市にはあちこちから移住してくる者も増え、生活の利便性が問われるようになってきたらしい。

 そういえば、都市の中にガス灯が増えて夜まで商売する店も増えた。

 で、温泉水が使えるという特徴を生かして今後は都市に公衆浴場を作ったり、貧しい家庭優先で温泉水を引いたりすることを元老院が決定したとか。

 それに伴い、ある程度の収入がある家庭ではボイラー室を完備するのが一般的になるらしい。使用人を雇うというのも、そういったものを管理したり整備したりする必要があるからだ。

 

「まあ、ずいぶん難しい話をなさってるんですね」

 ふと気づくとハンナがにこにこしながらお茶の用意を整えてサーブし始めている。

 ティーポットから注がれる紅茶を見てリョウがちょっと驚いた。

「あら、ハンナ。紅茶の淹れ方、よくわかったわね……あ、もしかして以前のお屋敷で?」

 いつもリョウが使っている布巾ではないが、洗ってしまってあった大きめの布巾でティーポットを包んで温めるという一手間まで同じようにかけられている。

「ええ、以前のお屋敷では一通りお茶の淹れ方も身につけました。あとは、昨日と今朝、奥様がお淹れになるのを見ましたので……」

 控えめに説明しながらハンナが注ぎ分ける紅茶は香りが落ちてきた少し古めの茶葉とはいえそれでもいい香りが広がる。淹れ方が上手、ということだろう。

「ごめんなさいね。お茶の葉、少し香りが落ちていたでしょ? 買う時に多く買いすぎちゃって使い切れなかったの」

 せっかく上手に淹れられる人がいるのにお茶が古いなんて申し訳ないな、なんて思いながらリョウが謝る。

「いえいえ、奥様が謝ることではありませんよ。二人だけのご家庭では消費できる量に限度ってものがあります。……なんなら残った茶葉は他のことに使うとして、新しいものを買いに行きましょうか?」

 相変わらずにこにこと品のいい笑顔を浮かべながらハンナが提案する。

「え? 他のことって?」

 お茶を飲むこと以外で、どう消費するんだろう……。

「そうですね、染色に使うこともできますし……これからの時期ですと風邪予防のうがいに使うという民間療法もありますよ。そうは言ってもまだ香りはありますから濃いめに煮出してお菓子に混ぜ込んでもいいかと思いますが。そういう使い方をすると通常より一度にたくさん茶葉を使いますからすぐに無くなってしまいますわね」

「わあ! すごい!」

 リョウは思わず目を輝かせた。

「それ、片っ端から全部教えて!」

 

 

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