表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
一、序の章 (続きをどうぞ)
25/207

ハナとレジーナとザイラ

「申し訳ありません」

「……えーと、どういうこと、かな?」

 城壁の、東の門。

 ザイラの久しぶりの休みを利用して東の森辺りでピクニックしようということになり、レジーナとハナを連れ出して都市の外に出ようとしたところでリョウは門衛に止められた。


「……ご存知ないんですか?」

 おどおどした様子の門衛は、一応見覚えのある顔ではある。

 以前同じ騎士隊にいた騎士だとリョウは記憶している。

 みんなと仲良くしていたわけではないから顔を知っている、という程度ではあるが、同じ隊にいたわけだから彼の方はリョウのことを知っている。つまり、リョウがどのくらいの力を持っているかなど。

 彼のおどおどした態度は恐らくそのせい。

「ねぇ、なんで出ちゃいけないの? あたし、意味がわからないんだけど! ちょっとピクニックに出掛けたいだけなんだけど!」

 リョウの隣でザイラが頬を膨らませて両手を腰に当てている。


 なんとなくリョウは嫌な予感がした。

 都市の中はいつも通り機能しているし、都市の者たちはいつも通り自由に門を出入りしている。

 止められたのは自分達だけ。

 ザイラに原因があるとは、まず思えない。


 なんとなく、こういう扱いには身に覚えがあるような気がする。

 いや、勿論、自分だけ「都市から出られない」というのは初めてだ。「自分だけ」制限が課せられる、という状況になんとなく反応してしまう。

 なので。

「……行こう、ザイラ」

 リョウは小声でザイラの袖を引き、都市の中へ向かう道を戻るよう目で合図する。

 深く追求しない方がいい。

 咄嗟にそんな気がしたので。

「えー! 何よ! 意味がわからないー!」

 完全に「不服を絵にしたらこう!」という感じのザイラがそれでもリョウのあとについて門から引き返す。


「……とりあえず場所を変えるにしてもさぁ……静かな所がいいから東の森だったんだから、公共広場でランチとかって……ないわよねぇ……」

 ザイラが口を尖らせる。

「そうねぇ……うちの庭とかにする? 代わり映えしなくて悪いけど、静かで広いってのは間違いないわよ?」

 リョウがくすりと笑いをこぼしながら提案してみるとザイラの顔がパッと輝いた。

「あ! それ、賛成! カミレに埋もれてご飯食べたい! あれは鎮静作用があるからね、なんかそのくらいしないとおさまらないわ!」



 雨季でもなければ天気の良いこの地方ならではの気持ちのいい空の下、一面に咲き誇るカミレの花に埋もれるように敷物を広げてザイラが寝転ぶので、リョウは思わず口許がほころぶ。

 持ってきた料理はほぼ食べ終わった。

 ほぼ。

 それもまた、リョウはつい笑いを漏らす。

 お互いがそれぞれに持ち寄った料理は必要量をはるかに越えており、それぞれが「帰ったら夫にも食べさせるでしょ?」という暗黙の前提で用意していたことが分かり、最初から手をつけられる分しか開けてすらいない。

「……ハナって……カミレの花食べるのね……」

 うつ伏せに寝転んで足をパタパタと動かしながら頬杖をついたザイラが唖然とした声を出している。

「ああ……あれ、私たちが食べてるときは触発されて何か食べたくなるらしいわよ。聖獣って本来何も食べなくても生きていけるんだって」

「触発……か、可愛い……」

 頭を抱え込むようにしながら肩を震わせているザイラは……必死で笑いをこらえながら悶絶している。

 この子、基本的に動物大好きだからね……。

 そう思うとリョウはやはりつられて笑いそうになり。

 レジーナはというとリョウの目の前に広げられている料理の中から自分が食べられそうなものを物色するように見つめている。

 なので、リョウが脇に避けていた小さめの包みを開けてレジーナの前に出す。

「はい、レジーナ。あなたにはこれ」

 二人が食事をしている間は少し離れて様子を見ていたレジーナは二人が食後にくつろぎ出した頃にようやく近づいてきていた。

 リョウは「レジーナとハナを連れてピクニック!」と言うザイラに合わせていたのでなんとなくレジーナ用に肉を取り分けて持ってきていた。

「リョウ、準備がいいわね! それ、レジーナ専用?」

 ザイラが目を輝かせて覗き混んでくる。

「あ、うん。一応ね。この子も食べなくていいはずなんだけど……食べたがるから。人間用の料理って味付けがたぶん濃いと思うのよね」

 食べたがるとはいえ、ハナみたく草を食べるわけではなく、主に肉に興味を示すのは……元々の生態に由来する好みだろう。

 グウィンが自分が食べているものの中から肉をより分けて食べさせていたのを思い出してリョウはサンドイッチに挟む前の肉を少し取り分けて持ってきてみていたのだ。

 予想通り、レジーナは嬉しそうに肉をついばみ始める。

 少し大きく切りすぎただろうかと思った物も足を器用に使って千切りながら食べるのでリョウは思わず見いってしまう。

 本来ならここにコハクも連れてくるはずだった。騎士隊のここ最近の任務は騎乗の必要のないものがほとんどで、馬は大抵が厩舎の世話係が面倒を見ているのだ。

 でも今日は厩舎に行ったらコハクは居なくて、ザイラが「レンはここ最近遠出の任務が続いてるらしいから」と言ったのでハナだけを連れてきた。

 レンブラントの勤務までよく知っているものだとリョウが目を丸くするとザイラはいつも通りけらけらと笑いながら「だってクリスが毎日のようにこぼすのよ! あいつのせいで雑用が増えた!って!」なんて言うもんだからなんとなく様子が目に浮かぶようでリョウもつられて笑ってしまったが……そうか、よその家庭では夫が妻に仕事のことを話すのってありなんだ……レンは何も話さないな……などとちょっと複雑だった。



「聖獣と仲良くできるなんて凄いわよねぇ」

 ほう、とため息をつきながらザイラが呟く。

 あ、そういえば。

 ハナはともかく警戒心の強いレジーナがほぼ初見のザイラの近くで食事をするなんて珍しい。

 そんなことにリョウは思い当たり、大きく頷いた。

「ホントね。あなたの能力ってすごいと思うわ」

 レジーナに目をやりながら相づちをうつと、息を呑む気配がしてリョウが顔をあげるとザイラが吹き出した。

「やだ! 何言ってんの! リョウのことよ? よく見なさいよ! レジーナなんか体のどこかがさっきっからあなたに触ってないと不安になるみたいでずっとくっつきっぱなしよ?」

 そう言うとけらけらと笑いながらパタパタと手を振るザイラにリョウが改めてレジーナに目を向ける。

 あ……れ?

 そういえばレジーナ、くっつきすぎなんじゃ……?

 レジーナの片方の羽はザイラの言うように、座ったリョウの太ももの辺りにくっついている。

 こんなにくっついていたら食べにくいんじゃないかな?

 そう思って少し間を空けると肉をついばみながらもリョウの方に寄ってきてやはりぴたっとくっついてくる。

「……か……可愛い……!」

 ぶくく、と笑いを噛み殺しながらザイラが悶えている。

「これは……レジーナ……あなた、ほんとに可愛いわ……」

 リョウも思わず口許を押さえてしまう。

 なんだろう。いつになく、レジーナが人懐っこい。

 いつもこんなじゃないはず。

 うん、間違いなく普段からこんなには人懐っこくない。なんせ、自由気ままにその辺を飛んで回っているくらいだ。

 あ、でも。

 前にもこんなことがあったな。

 なんてふと思う。


 あ、あれだ。

 グウィンの冗談についていけなくて動揺しまくっていたときだ。

 そういえば、この子、私とかグウィンの心の動きに敏感だったのよね。

 ……あ。


 ちょっと記憶を手繰ってみたリョウがふと固まる。

 心の動きに敏感なレジーナは、私の動揺に敏感に反応して慰めようとする。

 ザイラもまた。


 さっきの東の門でのやり取り。

 さっきからザイラはその話題には触れないようにしてくれている。自分が必要以上に腹を立てているという(てい)で、どうして外に出してもらえなかったのかなんていう問題の核心に触れるような話題は意図的に避けているように思える。

 私の動揺に気を遣ってくれているのだと思う。

 で、レジーナもそれに合わせてくれているのだろう。


 なんだかくすぐったい。


「ありがとね、レジーナ」

 リョウが聞こえるか聞こえないかの小声で囁いてレジーナの艶やかで柔らかい白い羽の背中をそっと撫でる。

 レジーナが相変わらず「なんのことかしら?」なんて様子で食事をしているのも微笑ましくてニヤニヤしてしまう。

 と。

 寝転んでいたザイラが身を起こすのでリョウが顔をあげるとザイラの視線はリョウの背後に固定されており、「何?」と言葉に出しかけた瞬間リョウの背中に何かが当たった。

 で、同時にザイラが吹き出す。

「あんたたち、ほんっとうに、仲が良いのね! 凄いわ! むしろあたしがお邪魔してるみたいじゃない!レジーナばっかりズルい! 的な心境なのね?」

 リョウの背中に頭を擦り付けているのは……ハナ。

 リョウは……まぁ、振り向くまでもない。ハナの気配は見なくても感じ取れるので。

 そして、ここまで皆に気を遣わせている状況においては、もう、赤面しつつも「ありがとう」の気持ちを込めて擦り寄って来る赤毛のハナを撫でることくらいしかできなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ