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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
三、歴史の章 (然を知る)
113/207

村娘


 

 翌日、傾いた日が午後ちょっと遅い時間帯特有の柔らかい色合いになってきた頃、二人は次の村に着いた。

 

 小さな村だ、とリョウは思った。

 細々と伸びる道の両脇に家が点在している。

 道の片側奥には川が流れており、もう反対側の奥には果樹らしき畑地が広がっている。

 ああ、こんなのどかな村が無事にあの時代を生き延びたんだ。

 ……良かった。

 なんてしみじみと思ってしまう。

 

 大抵の小さな村には用心棒として退役軍人や、近隣都市や町から雇われた騎士や兵士が駐在している事があった。

 そして村の住人の男たち。そういう人たちが「敵」の襲来から村を守る。

 とはいえ、城壁も防護壁もない村はいつどこから攻撃されるかわからないので綺麗な状態で存続することは稀。

 もちろん、あれからしばらく経っていることを考えれば襲撃を受けて多少破壊されていたとしてもその後復興されて今に至ると考えることもできる。

 

 それにしても、と、リョウは思う。

「なんですかね、この村。なんていうかこう……懐かしい感じがする。きっと昔はこんな感じの場所がたくさんあったんじゃないかな。こういうの、郷愁って言うんすかね」

 アウラがしみじみと呟いた。

 リョウも思わず微笑みながら頷いてしまう。

 まさにそんなようなことを考えていたので。

 こんな小さな集落が、穏やかな時の流れの中で存在し続けるっていうのはとても……とても、温かい気持ちを抱かせる。

「とりあえず、今夜泊まれそうなところを探さなきゃね。こんな村に泊まれるなんてついてるわ私達」

 リョウの声も心なしか楽しそうだ。

 

 ふと目を上げると、ちょっと先にある小さな家から人が出て来たところだった。

 見た感じ、十代半ばくらいの女の子。背中まで伸ばした癖の強そうな明るいブラウンの髪はきっちり三つ編みにしてその先に黄色いリボンが結んである。

 そのリボンに似た薄い黄色のワンピースに白いエプロンの格好からして家で家事をしていたところか何かだろう。

 いそいそと家の脇に回り込んで、リョウたちがその家の前まで来る頃には両手で抱えた籠に野菜を入れて戻ってきた。

「……こんにちは」

 取り敢えずリョウがハナから降りながら声をかけてみる。

 と、女の子は目を丸くしてこちらを見上げ、ぽかんと口をあけた。

 ……あ、なんか不審者と思われるかもしれない!

 なんてリョウが思い直し、即座に笑顔を作ってみて。

「あの、旅の者なんですけど……この村に宿屋はありますか?」

 とにかく目的をはっきりさせるのが先! と、時候の挨拶的なものは置いといて目的を告げる。この際、アウラに言わせるより同性の私が言った方が余計な緊張もさせなくていいかもしれないし。とか、ちょっと色々考えてもみた。

「え……宿屋……?」

 女の子は大きな瞳をパチパチと瞬いてから。

「あ、旅の方なんですね。えーと、ここって宿屋は無いんです。なにぶん小さな村で。うーん……今日はこの近くで泊まれそうなところはないかなぁ……。あの、良かったらうちに泊まっていきます?」

「え! 良いのっ?」

 あっという間に決まった今夜の宿にリョウが目を輝かせて女の子に詰め寄った。

「あ……でも大層なおもてなしは出来ませんよ? うち、今のところあたし一人で切り盛りしてるんで」

 ちょっと決まり悪そうに笑う女の子にリョウは思わず大きく頷いた。

 

 

 家に招じ入れられてリョウとアウラが簡単に自己紹介を済ませる。

 家の裏には小さな馬小屋もあってハナとアウラの馬もそこに落ち着くことになった。

 女の子はナタリアという名で、両親に先立たれて今は一人でこの家に住んでいる、と話してくれた。

 最近はごく稀に旅人が訪れることもあり、世話好きな人間が多いこの村では皆が気持ちよく自分の家を提供することが多いのだそう。

 ナタリアの家のすぐ近くにも世話好きな夫婦が住んでいる家があるらしいのだが、今日は出かけているのでうちに泊めるのが確実。と彼女は思ったらしい。

 

 リョウとアウラが家に入るとまず入ってすぐの部屋にちょっと大きめのテーブルがあり「ああ、こんな感じの部屋で家族で食事をしたりするんだろうな」なんてすぐに想像がついた。

 勧められるままにリョウとアウラはそのテーブルの席について、お茶を淹れてもらって自己紹介なんてしてみたのだが。

「……あの、アウラさんとリョウさんは恋人か何か?」

 おずおずとナタリアが尋ねてくる。薬草茶のカップを両手で抱え込むように持った彼女の頰は上気しており、なんというか……乙女。

「……ちっ違うって! リョウさんは俺の主人!」

 一瞬あっけにとられたアウラが言葉に詰まったが、どうにか言い返す。

 それでも腑に落ちないというような顔でナタリアがリョウの方に顔を向けるので。

「うん。アウラの言う通りよ。私、夫がいるもの」

 くすりとリョウが笑う。

「え! ……そうなんですか? 旦那さん、今はどこに? ……あ、そっか……えっと……ごめんなさい!」

 ……ん? あれ?

 急に申し訳なさそうに俯いたナタリアにリョウが慌ててちょっと身を乗り出す。

「えっと、いるわよ。家に。仕事の関係で今回の旅に同行できないってだけで!」

 これはあれだ。夫を亡くしての一人旅的なものと勘違いされたかもしれない。

「え、あ……そう、なんですね。いらっしゃるんだ……そっか」

 一旦俯いたナタリアが顔を上げて、それでも微妙な感じで頷いた。

「旦那さん、お仕事って何してるんですか?」

 なんて切り返してきて。

「ああ、えーっと」

 仕事の関係で、同行していない、は嘘じゃ無いよね。

 なんてリョウは自分の言葉を自分で確認しながら。

 一応、私の仕事内容的な事情でレンが今回は同行出来ないんだし。別に「彼の」仕事の都合と言ったわけではなかったし、ね。

「騎士隊の隊長、なんだけど」

「あ……そう、なんですね。ふーん……」

 あれ?

 なんだろう。なんだか一瞬ナタリアの表情が曇ったような。

 リョウがそんな事を思ってナタリアに改めて視線を向けなおしたところで。

「あ! そろそろ夕飯の支度しますね。あんまりご馳走は作れませんけど良かったらゆっくり召し上がってください」

 なんて言いながら彼女が立ち上がるので。

「ああ、じゃあ手伝うわ」

 リョウが腰をあげると、慌てたようにナタリアが両手を振って。

「わ! 大丈夫です! せっかくのお客様ですからゆっくりしてもらいたいんです! それに台所、狭いから私一人の方が動きやすいですし!」

 と、笑顔で断ってくるので。

「あ……そうなのね。じゃ……お言葉に甘えて」

 リョウも笑顔を作って椅子に座りなおした。

 

 

「……はぁ」

 ナタリアが台所で動き始めた気配を確認してからアウラがため息をついた。

「アウラ? 何、どうしたの?」

 リョウがアウラの方に目をやりながら聞いてみる。

 そういえばここに来てからアウラはあまり喋ってない。まぁ、若い女の子の家に押しかけている形になっているので気が引けているのかな、なんて思ったのであまり気にしないようにしていたのだけど。

 と。

「リョウさんはなんともないんですか? 俺……なんっかあの子、苦手かも」

「ええ?」

 眉を寄せて声を潜めてくるアウラに思わずリョウも声を潜めて聞き返す。

「なんていうのかなー。……ああダメだ、うまく説明できねーな……それになんか、この部屋だって……なんかこう……片付きすぎというか……」

「え、ああ……それは、まぁ、ね。でもそれって単にきちんとしているのが好きって事だと思うけど。それか……もしかしたら近々旅行にでも出かける、とか」

 リョウがあんまり失礼なこと言っちゃダメでしょ、みたいな雰囲気でアウラの言葉を聞いていたところでアウラの視線につられて部屋の中に視線を移す。

 

 確かにリョウも家に入れてもらってすぐ「ああ、よく片付いた部屋だな」と思った。

 棚には塵ひとつなく、必要最低限のものが並べられている。装飾品の類いはほとんどない。

 女の子の一人暮らしならもう少し身の回りのものがあっても良さそうなのに、とも思ったが……もしかしたらそういうものを全部荷物にまとめてしまった後なのかもしれない、なんて思ったのだ。何しろ最近の旅行ブーム。さっきナタリアも近所の夫婦が出掛けているなんて言っていた。

 

 それに。アウラのセリフは……。

「アウラの場合は、自分がいつも散らかしてるから片付いている部屋が落ち着かないだけなんじゃないの?」

 なんてリョウが悪戯っぽい視線を送る。

「な……っ! 違いますよ!」

 みるみる顔を赤くするアウラだが、ハンナが時々「若い男の子っていうのはあんなに部屋が散らかっていても気にならないものなんですねぇ。……今度片付け方を教えて差し上げた方がいいかしら」なんて言っていたくらいなのだ。

「へーえ、どうだか」

 意地悪な口調のままリョウが返すとアウラがわかりやすく黙り込んだ。

 

 

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