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物語の続きをどうぞ  作者: TYOUKO
三、歴史の章 (然を知る)
112/207

夜の闇に思うこと

 


「結構いい町でしたね」

 アウラが馬上で楽しげな声を上げる。

「そうね。結局、みんな芯は良い人なのよね」

 目の前のアウラの背中に向かってリョウが答えた。

 

 町を出て、の昼下がり。

 二人は次の村を目指すべく道を進んでいる。

 

 町の宿屋では朝食の手伝いをした後、なんだかんだでリョウが色々手伝い、結局昼食まで居座ることになり。

 さらに、食料を仕入れるにあたっては「これはほんの気持ちです」と代金を受け取らない主人に宿代の方を少し多めに払って町を出た。

 そしてクレイアムはご丁寧にも近隣の町や村の位置情報まで教えてくれて、二人の旅の方向付けまである程度はっきりしたのだ。

 

「……リョウさんにかかるとみんないい人になっちゃうんじゃないですかね……」

 青空を見上げながらアウラが呟く。

 その声は呆れたようでもあり、楽しそうでもあり。

「あら。アウラだって楽しそうだったじゃない!」

 リョウはなんだか腑に落ちないという顔で食い下がってみたりする。

 

 教えてもらった近隣の村や町の情報によればすぐ近くには人の住むところはない。

 だから敢えて昼過ぎに町を出たのだ。

 今夜は途中で野宿して明日の夕方には次の村に着くだろう、という計算。

 この辺りで悪名を馳せていた盗賊が大人しくなったということは取り敢えず暫くは安全だということだ。これがもう暫くしてこの辺りで盗賊が出なくなったということが知れ渡ればまた違う盗賊が縄張りを広げてくることも考えられるとかで、今はとにかく旅に最適な時期! ということらしい。

 

 最初の町を出てしばらくするとレジーナが早速降りてきた。

 旅の間の情報のやり取りには、やはりレジーナが貢献してくれている。一応アウラが必要なやり取りをしてくれるのでリョウはレジーナを可愛がる役。

 そっと腕を差し出すとそこに止まったレジーナが頭をリョウに擦り付けてくる。

「うう……レジーナ……可愛すぎる! あなたほんっとに日増しに可愛い性格になって行くような気がするんだけど!」

 リョウがにまにまと笑いながら指先で頰のあたりや背中を撫でるとレジーナは気持ちよさそうに目を細める。さらには「もっと撫でて」とでも言うように伸び上がってくるのでリョウの笑いが止まらなくなる。

「それ、多分リョウさんにだけっすよ」

 ふと気付くとアウラがなんとも言えない微妙な目つきでこちらを見つめているので。

「へ?」

 にやけた顔のままリョウがアウラと目を合わせると。

「俺にはものっすごい態度冷たいですもん。手紙やり取りする用事でもなきゃ絶対俺の方には見向きもしませんよ、そいつ」

「やだー! レジーナを『そいつ』呼ばわりするなんてありえなーい! こんな可愛い子にそういう失礼な言い方しちゃダメよう!」

 リョウがにやけたままレジーナを見つめて「ねー?」なんてやるもんだからアウラはもう拗ねたようにため息をつくしかなくなった。

 

 

 

 夜。

 道から少しそれたところで「焚き火」を作って簡素な食事をしながらリョウが思い出したように顔を上げた。

「ね、アウラ。都市からの手紙、なんだって? 皆んなどうしてるかしら? なんか書いてあった?」

 日中はレジーナを可愛がることに夢中で彼女が携えて来た手紙のことはあまり気になっていなかった。

 それを読んだアウラの反応も特に気になるようなものではなかった、というのもある。

 でも、夜。周りが静かになって、ふと暗闇の中に自分がいることを考えると色々気になって来て仕方ない。

「えー、特に何も書いてなかったですよ」

 アウラが特になんの感情も込めずに返してくるので。

「そうなの? アルってまだうちに来てお茶してるのかしら。あれ? そもそも私がいなくなっても仕事って続いてるのかな? ……ハンナの今日の夕飯なんだったんだろう……」

「あのぅ……リョウさん……俺たち何のやり取りしてるかって……なんか勘違いしてません? あれ、近況報告の文通じゃないっすよ?」

 リョウが思いつくままに気になっていることを挙げ出したところでアウラが言いにくそうにしながらこちらをじとっと見つめてくる。

「え……あ……そうか。……そう、よね」

 リョウもはたと我に返って「しまった」という顔になった。

「それに……リョウさんの場合、一番気になってるのってそういうことじゃないでしょ?」

 アウラが思わせぶりなため息をつくのでリョウが「え?」と聞き返すと。

「仕事のこととか、アルのこととか……そんなんじゃなくてレンブラント隊長がどうしてるかが一番気になってるくせに」

「う……あ……」

 先程真っ先にあげそうになって辛うじて飲み込んだ名前がアウラの口からあまりにも簡単に出て来たので、リョウが思わず口ごもり……ああ、焚き火だけの明かりの中で良かった! きっとこれならバレてないはず! と思うくらい見事に赤面する。

 

 だって。

 まだ西の都市を離れてそんなに経ってないというのに、もう既に、彼の事が恋しくてたまらない。

 こんな風に夜の時間は、いつもだったら仕事から帰って来たレンと一緒に食事をしたり、部屋でお喋りしたりしていた。

 それに同じベッドで温もりを感じながら、優しい匂いに包まれて囁き合ったりした。

 そんな時間を自分が一人で過ごしているということも、彼が一人で過ごしているということも、なんだか凄く変な感じだ。

 変な感じ……そう、不自然な感じ。

 いつのまにかこんなにも隣にいる事が当たり前になっていたんだなぁ、なんて思う。

 前にも都市を出て彼と離れ離れになったことはあった。でもあの時とはちょっと違う。

 あの時は、私は彼から……言ってみれば逃げ出したようなものだった。だから寂しいという気持ちを振り切る理由はいくらでもあったのだ。でも今は。

 寂しいと思う事が「自然なのだ」と、思えるから寂しさに拍車がかかる。彼は今何をしているのだろう、何を思って今を過ごしているのだろう、なんて想いを馳せる事が「悪いことではない」と知っているから余計に恋しくなる。

 これはきっと、幸せなことなのだ。

 誰かを愛して、愛されているという前提があるからこそ成立する、贅沢な幸せ。

 

 贅沢な……分不相応な、幸せ。

 

 ……例えそこに、小さな黒い猜疑心が潜んでいるとしても、少なくとも、「夫婦」という形を持つ間柄には許されるべき想いであるという、前提はある筈。

 

 

「……ま、だからリョウさんには任せられないんですけどね。この仕事」

 苦笑まじりにアウラが呟いてリョウが我に返った。

「だいたい、リョウさんがレジーナに任せる手紙を書いたりしたら絶対レンブラント隊長へのラブレターになりますよね? しかも返ってくるのもレンブラント隊長からの手紙になるに決まってます。そして日が経つにつれてレジーナが持つ手紙の量ってただ事じゃなくなるに決まってるんだ」

「なっ……! そこまで酷くないわよ! いくらなんでも私、そこまで非常識じゃないから!」

「言い切れますかっ? レンブラント隊長から赤面ものの手紙が来ても無視できる自信ありますかっ?」

「赤面もの……って……」

 アウラのじとっとした視線と共に投げかけられた言葉に、思わず生々しい文章を想像しそうになってリョウが次の句を飲み込む。

 ……あ、もしかしたら……我慢できなくなっちゃうかもしれない。想像しただけで物凄くドキドキしてきた……。

「だから絶対、リョウさんは余計な事書かないでくださいね。必要なやり取りは俺がやりますから。向こうではレンブラント隊長を同じようにこのやり取りに入り込まないように遠ざけられてる筈なんですから」

「……それ、決めたのってアルでしょう?」

「……悪ノリして決定打を出したのは風の竜ですよ」

 ……あの二人……っ!

 リョウは星空の遥か彼方にある西の都市へと怨みのこもった眼差しを向けた。

 

 

 


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