美少女勇者の俺に王道のイベント!
馬車っていうのは貴族のお嬢様とかが紅茶飲みながら談笑して乗ってる優雅なイメージがあったんだけど…
「ケツ痛ってぇ」
(おっと思わず素が出てしまった。)
「この道は舗装されていませんからねえ。」
「舗装されてたら快適なのか?」
「ええ、例をあげるなら共和国の街道です。あれほど綺麗に舗装されていれば紅茶でも飲みながら移動できるくらいに快適だと思います。」
「ふ~ん…あっ、そう言えばさぁ何で俺の部屋入るときに「失礼してもよろしいでしょうか?」って声をかけたんだ?もしかして起きてたの知ってた?」
「はい。お目覚めになられたことは屋敷のメイドから「魔伝」で聞いていましたから。それに、たとえ寝ていても、人が居ると分かっていれば声をかけるのは当然です。」
ふむ、俺はどうやら誤解していたらしい、ダミアンは最初の印象とは違い以外としっかりしていた。これなら騎士団団長と言われてもしっくり来る。噴水のように鼻血を噴き出しながらぶっ倒れたことは忘れよう。
だが、そんなことよりも俺の興味を惹いたのは、
「マデン?それって何だ?」
「魔方陣刻印型音声伝達石板のことですよ。」
「ずいぶんと長ったらしい名前だな。」
「ですから略して『魔伝』と呼んでいます。転移系統の魔方陣を研究、改良し、我が国が産み出した画期的な魔道具です。ソビュエル王国国内の鉱山からのみ取れる希少な魔導鉄石を素材に使うことで、魔力のない者達でも遠距離通話ができるという素晴らしい物です。あっ実物を見せた方が良いですね。ほら、これのことです。」
魔伝について説明してくれたダミアンは、懐から魔方陣の書かれた手のひらサイズで長方形の…鉄板?を取り出した。
(へぇ、これが魔伝かぁ…この世界の携帯電話みたいなもんか。)
そう思ってまじまじと見つめていると突然魔方陣から紫色の光の文字が出現した。
「こんな風に誰だか判別出来るように魔方陣から名前が浮かび上がるようになっているのです。えっと…ん?副団長から?」
(浮かび上がった文字は………やっぱ読めないか。言葉は何故だか分かるのに文字はさっぱりだな。まっ、これも転生物の定番か。)
「こちらダミアン。今からレイナ様をそちらに……何?……あぁ…あぁ…了解した。なるべく時間を稼いでくれ、すぐ向かう。」
「ん?何かあったのか?」
「この近くの村に魔物の大群が出現したようなんです。幸いにも滞在していた兵士達と数人の冒険者が対処しているようなのですが、数が数だけに押されていて、国からの応援も間に合いそうにないのです。」
(………ん?何でそんな俺の方見つめてくんの?もしかして、俺に何とかしろと?)
「レイナ様お願いします。どうかお力を貸していただけないでしょうか。」
ダミアンが頭を下げる。
(う~ん…勇者にかせられる最初のイベントスライム退治。ここは是非受けたい所だけど…)
「なあダミアン。スライムってどんな魔物だっけ?」
「魔粘性生物、通称スライム。駆け出しの冒険者が最も苦戦する魔物です。どれだけ切っても再生し、分裂して増殖する、まさに不死身の軍隊とも言える魔物。種族によっては毒や強力な酸をもち、人や家畜を丸のみにして消化吸収してしまう恐ろしい魔物です。」
(わぁー丁寧な説明ありがとーダミアン♪(キラキラとした顔で)ってなんじゃいそりゃ!どんだけやべー奴なんだよ!この世界のスライム!)
「今回出現した群れは全て強酸性のスライム。既に何人かの兵士は食べられてしまい。いくつかの家屋は溶かされてしまっています。このまま進行を続ければ被害は計り知れません。どうかお願いします。我らにお力を。」
(どうすべきか…ゲームなら『はい』一択だけど。あんな話聞いた後じゃ、気が引けるなぁ………『被害は計り知れません』か。)
「…」
無言で頭を下げ続けるダミアン
「はぁ…分かった。やれるかどうかわかんないけど、でも、お前が本気で頼んでるのは分かった。だから俺も本気で戦う。ってかもう魔王に喧嘩売っちまったしな。」
俺はニッコリと笑った。
それに答えるようにダミアンも笑い返す。
そして、
「あのスライムなんですけど。」
「こっから見えんのかい!」
まさかの衝撃発言からの馬車の外に広がるカラフルなゼリーの平原。ってか数多くね!?
(もうやらせる気満々じゃねえか!はぁ、まあいいけどさぁ。ん?ってか…)
「あのぉ…ダミアンさん?」
「何でしょうかレイナ様。」
「武器とかないの?」
「えっ?」
「いやだからさぁ…武器!丸腰では戦えないだろ。」
「武器…ですか?」
(当然だろう。あの色とりどりの人喰いゼリーの群れの中に素手で突っ込めと?勇者を過信し過ぎである。)
「あっあぁ!それでしたらここに木の棒が…」
「その腰に下げた剣を寄越せ!」
「えっ!」
(いや普通に考えろよ!!ゲームじゃねえんだよ!木の棒一本で対抗しろと?あんた散々スライムの恐ろしさ語ってたやないかい!RPGをプレイするときいつも思っていた。何で初期装備が木の棒なんだよ!なぜ勇者になる運命の少年を木の棒一本と布の服一枚で旅立たせるんだ?普通なら町出た段階で魔物に喰い殺されとるわ!)
「この剣は家宝でして…」
(ヴァカなの?お前ヴァカなの?なぜ家宝を腰にひっ提げてくるんだ!普段何で戦ってんだよ!何笑顔で木の棒差し出してくるんだよ!)
「じゃあもういいよ棒で…」
「お願いします!」
こうして俺はスライムと木の棒で戦うという王道シチュエーションを嫌々体験することになってしまった………………