ナニか
「いやぁぁああっ!だれかぁぁぁああっ!!」
叫ぶ。私はこの暗い中を駆け抜ける。
「助けてぇええ!」
叫ぶ。人がいないと知りながら声を上げる。
「きゃぁああああっ!」
叫ぶ。なぜか楽しくなってきたから。
「止めてぇぇええええっ!!」
叫ぶ。理由はないけど叫ぶ。てへ。
❀
あれから私は「エアキックにはエアキック」みたいな発想で壁蹴りならぬ空気蹴りをしたら、反射したかの如く蹴った逆の方へ飛んでた。
因みに空中停止する様に想像して前中一回転したらふわっと止まったのだった。
え、なぜ叫んでたって?
もちろん楽しかったから。どやぁ。
びゅーん。びゅーん。
びゅーーー……
「ひゃっ!?」
好きなように飛び回ってたら何かが頬を掠めたような……
その方を向いてみると、
「え、なに……あれ……」
黒くグニャグニャとしてる霧みたいなのがあった。
そして、そこからナニかうじゃうじゃとでてきて……って
「こっちにくるーーっ!?」
瞬時に180度ターン。からのエアキック。
私の中のアラートが言ってる。アレは危ないと。とにかく逃げるっ!
さっき慣らしておいてよかった。コツは何となく分かる。
……けど。
「振り切れない……っ!」
その、ナニかは速い。とてつもなく。
やばい、追いつかれる。
「くっ……っ!」
ひたすら蹴る。何も無いところを蹴る。
何この急展開とか、せっかく非現実的みたいなこととか起こってるのにもう終わりそうとか、考えてる暇なんてない。
蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。
何とか追いつかれてないけどギリギリ。
そして私はそろそろ体力の限界が近づいてる。
ほんとにやばい。ヤバイ。やばい。
「……っ」
無理だ。もう無理だ。
やっぱり、現実って無常だ。
やっぱり、漫画やアニメみたいにはならない。
やっぱり、物語の主人公にはなれない。
やっぱり……むりだったよ。