夕暮れの決闘④
数秒の間があった気がした。
男の口の端から血が溢れ、ゴホッと咳をした。
男は、後ろ向きに倒れた。
ぼくは、彼は倒れるのをぼんやりと眺めた後、ゆっくりと銃をホルスターに納めた。
「……勝った?」
「オスカー!」
聞いたことのある声だ。振り返ると、巨大な胸が目の前に飛び込んできた。
「ぅぐ」
「よかったゾ!」
抱きついてきたのはイルシスだ。顔見えないけど、ぼくの知り合いでこんな胸囲の持ち主は彼女だけだ。
その勢いのまま、やはり後ろに倒され後頭部を打った。真昼の星が飛んだ。
「イルシス!」
「あはは、ゴメン」
押しのけると、彼女は相変わらずまったく悪びれることなく謝った。
「きみは本当に困ったやつだ」
そして、彼女の後ろからグロリアが歩いてやってきた。
「グロリア……」
ぼくが男を連れ出した後、グロリアとアンネが二人を解放することになっていた。
無事を喜ぶべきなのだが、ぼくにとっては非常に気まずくもある。
「帰れと言ったはずだ」
「……うん。言われたと思う」
ぼくは彼女に銃を向けたのだ。連邦保安官であり、恩人であり、友達の彼女に。それはとても許されないことだ。だけど……、
「だが……助かった」
グロリアはすっと頭を下げた。
「すまなかった。どうか、今までのことは許して欲しい」
「そんな……ちょ、グロリア」
思ってもみなかった行動に頭がショートする。
「謝らなきゃいけないのはぼくの方で、その」
しかし、グロリアは一向に顔を上げようとしない。
「もういい加減、顔を上げてよっ」
「ふふ、オスカーはかわいいな」
顔を上げるとグロリアは、笑いながらにっこりと笑っていた。ぼくは顔から火が出そうだった。
「あはは、リベート真っ赤だぞ」
イルシスが茶化すように言った。うるさいよ!
「――ッ、伏せろ」
ぼくがイルシスに言い返そうとした時、グロリアが声を上げた。彼女の視線の先には男が立ち上がっていた。そして、その手には彼の銃が――、
「ぃひひ、まだま――うぐぇ」
しかし、言葉を言い終わる間もなく、その顔を蹴り飛ばされてしまった。
「このっクソ野郎め、ざけた真似しやがって」
どこから現れたのか。デリンジャーはさらに追い打ちをかける。
「このっ、このっ、この野郎!」
ガシガシと、倒れ込んだ男の頭を踏みつけ、地面に叩きつける。
うわっ、うわっ、踏みつける度に嫌な音と血が飛ぶ。
「やめろ、デリンジャー。もう意識がない」
「けっ」
気が済んだのか、グロリアの言葉で我に帰ったのか。デリンジャーはようやく足を止めた。男はもうピクリともしなかった。死んじゃったのかな……。いやいや、さすがにそんなわけないか。
地面に顔をうずめた男を放置したまま、デリンジャーがこちらにやってきた。
「てめえも少しは役に立ったな」
「おかげさまでね」
そして、またかっかっかっと笑った。
「あたしが鍛えてやったんだからこれくらい当たり前だ」
まったく殺されそうになってた癖によく言うよ。
呆れるね、グロリア。
「待て。鍛えたとはどういう意味だ」
思わぬところにグロリアが食いついてしまった。
「ああ? てめえには関係ねえだろ」
「待て待て待て。では、オスカーがこんな危険なことをしたのは貴様の差し金ということか?」
「てめえが助かったのもあたしのおかげってことだ。感謝されてもいいぜ。金よこせ」
「貴様……」
グロリアが睨む。もちろんデリンジャーも引かない。やばいよ、なんでこの二人はいきなり火花を散らしてるんだ。
「ちょっ、待って!」
今度はアンネが割って入ってきた。
「それより、早くあいつらなんとかしてよ!」
そう言って指差して先には……あっ。
「おい、なんだありゃ」
デリンジャーが聞いた。
「「「ブロロロロォオオオオン」」」
響く唸り声、通りを駆け回り、家々を踏む潰す音。数十体の魔物たちが町中で暴れているのだ。そりゃ、聞きたくもなる。
「てめえの仕業か」
「…………悪党は倒したよ」
バコンッとグロリアがぼくの頭を叩いた。
痛い……。
「クソッたれ。しょうがねえな」
デリンジャーが落ちていた自分の銃を拾った。
「舎弟のケツ拭きぐらいはしてやるよ」
そう言いながら弾を込める。
「オスカー、あとのことは心配いらない」
いつの間にか、グロリアも自分の銃を握っていた。
「待っていろ。すぐに終わる」
そうして、赤と青、ふたつの色が同時に輝いた。
やっぱり二人が組めば最強じゃないか。
そして、その日ふたりは町中の魔物たちをすべて葬り去った。




