夕暮れの決闘③
「待ちくたびれたよ」
立ち上がったぼくを、赤いターバンの男は顔を上げて見上げた。
狩りと同じだ。獲物を誘導して、罠に掛ける。ぼくたちは孤児院の中に罠を仕掛けた。あとは彼をここに誘導するだけ。
ここまでくれば、勝ったも同然だ。
「さぁ、度胸があるなら登ってき――」
赤いターバンの男が放った光線は直撃と同時に爆発した。
「うわあっ」
孤児院が大きく揺れた。
あいつ、なんてことを。
「ぃひひひ、もう鬼ごっこはたくさんです。家ごと吹き飛ばしてやりますぜ」
赤いターバンの男が血走った目を向けた。
「しょ、処刑するんじゃなかったの!?」
「そこが、あなたの処刑台ですぜ」
赤いターバンの男がにやりと笑った。
「冗談じゃないよ」
ぼくは身をひるがえして、裏の梯子へと向かう。
予想以上の破壊力だ。早く離れないと……。
「おっと、そういえば、あなたも足が速いようで。ぃひひひひ」
赤い輝きが周囲を照らした。来る!
「ぃひひ、この銃はすげえや。どんどん力が溢れてくる。ぃひひひ」
通りに散乱する瓦礫を踏みつけながら、赤いターバンの男が笑った。
「もう逃がしてやりませんぜ」
光はこれまで見たことがないほどの輝きになった。でかい一撃がくる。逃げられない。
「ごめん。父さん」
大きな爆発音と激しい振動から逃れるように、ぼくは必死に屋根の淵に捕まった。
孤児院の外壁は易々と悲鳴を上げ、貫通した弾丸によって、家の中までもが爆風に晒された。
「ぃひひひ、ひ?」
石造りの高い外壁が大きく倒れていく。瓦礫が崩れ、白い煙が巻き上がる。そして、
「「「「「「「「「ブロロロロロォオオオオン!」」」」」」」」」
開いた巨大な大穴の中から、いくつもの赤い瞳が輝いた。何重にも重なった慟哭が轟く。孤児院いっぱいに詰められていた魔物たちが、次々に大通りへと雪崩れ込んできたのだ。
「ひひ、なんで、こいつら!」
赤いターバンの男が赤い弾丸を撃ち込むと、数匹の魔物たちが高く吹き飛ばれた。しかし、
「「「ブロロロロォォオオン」」」
魔物たちは次々と出てくる。イルシスに呼び出してもらった数は数十体! そう簡単に殲滅できやしない。
赤いターバンの男が何度も赤い弾丸を撃ち込む。そのたびに、向かってくる魔物が消し飛ぶ。しかし、数は減らない。
「ぃひ? ひひ」
ついに赤い光が止み、カチカチと金属の音だけが響いた。弾切れだ!
今度は青い光。グロリアの銃が光った。
しかし、すぐに光が消えた。
「――ひ」
そうだ。彼は動けやしない。
彼は高速移動する時、ずっと大きな道しか走ってこなかった。それは、そんな道でしか上手く動けないからだ。こんなに派手に暴れたのだ。たくさんの障害物に阻まれて、その能力は使えない。
――速い奴ほど視界は狭い。
デリンジャーの教えだ。
「クソくらえ!」
ぼくの声を聞く様子もなく、赤いターバンの男は走り出した。
やつを追わなきゃ!
しかし、ここは三階建てのかすかに残った屋上。階段も何もかも壊された。通りは瓦礫の山。方法があるとすれば――、
「あれだ!」
ぼくはできる限りの助走をつけて、飛び出した。その先にあるのは、牧草だ!
「――うぐっ」
肩から落ちる。痛いけど、どうってことない。
ぼくは牧草の山から抜け出し、彼を追って駆け出す。
両手に銃を握りしめたまま瓦礫の中を逃げる彼は鈍重で、
「ど、どこに行くんだい悪党」
すぐに先回りできた。
「ひひっ、お前!」
ぼくの顔を見るなり、赤いターバンの男がグロリアとデリンジャーの銃を投げ捨てた。代わりに、
「殺っ」
やつが黒いコートをひるがえし、腰に下げた自らの銃に手を伸ばした。
ぼくも、反射的に銃を抜く。
ドォンと、低い破裂音が往来に響いた。




