夕暮れの決闘②
「怖気づいたんですかー」
通りを走っていると、赤いターバンの男の声が聞こえてきた。なんとでも言え。振り返らずにぼくは走る。
「あーあ、もうもうあんな遠くまで」
やつに追いつかれたら終わりだ。
「ちょうどいい。お友達の銃が使えそうだ」
そう聞こえたかと思うと、広場の方で青い光が見えた。グロリアの銃を使ったのだ。あっちの対魔物用拳銃の能力は『高速移動』。とんでもない速さだ。
「だけど、こっちだって」
ぼくの手にはアンネから託された地図が広げられていた。
地図には広場から赤い線が引かれている。道にじゃない。建物の間ばかりだ。この地図には町の抜け道が全て記されている。
――「この町のことなら全部知ってるわ。おにごっこして負けたことないのよ」
アンネの言葉が蘇る。
「勝負だ」
家の床下に潜りこみ、必死に這う。
「どこに逃げる気ですか!」
赤いターバンの男の声が聞こえてきた。
やっぱり速い! もうそこまで来てる!
慌てて抜け出す。泥だらけになってしまった。
「おかしいな。誰か、子供を見てませんかー?」
やつはまだ隣の通りでぼくを捜しているらしい。
「こっちだよ。バーカ」
また青白い光が輝いた。
「やばい」
急いで次の抜け道に滑り込む。
「いないじゃないですか! いないじゃないですか!」
赤いターバンの男の歯軋り。
いくつかの家の間を抜け、もうひとつ隣の通りにやってきた。
抜け出た先は、孤児院の真ん前だった。
本当に辿り着いた! すごいよアンネ!
ぼくは手を叩いて、孤児院の裏へと周り、屋上から掛けた梯子を昇る。
屋上まで出ると、町のすべて通りが見渡せた。身を屈め、奴がやってくるのを待つ。
隣の通りで青い光。その通りを二周ほどして、今度はこの大通りまでやってきた。改めてものすごい速さだ。だって、彼は毎回町の大通りを一回りしているのだから。
「どこに、どこに行きやがったんですかー」
往来のど真ん中で、赤いターバンの男が叫んだ。その両の手にはグロリアの銃とデリンジャーの銃を握っている。
「……望むところだ」
きっと奪ったばかりの銃で、試し撃ちするつもりなのだろう。子供相手だから丁度いいと思っているのだ。
「ここから狙ってやりたいけど……」
グロリアなら、そうするだろう。そして、きっと心臓を打ち抜く。それで終わりだ。残念だけど、ぼくにそんな技術はない。
構わないさ。ぼくには、ぼくの戦い方がある。
「絶対絶対、逃がしませんぜ」
赤いターバンの男はきょろきょろとぼくを捜しながら、往来を歩き始めた。
ゆっくりと、ぼくのいる孤児院に近づいてくる。
ちらりと孤児院の玄関に目をやる。あと少し、あと少しだ。
「ぃひ、なんですか。これ……」
そして、赤いターバンの男は孤児院の近くまできて足を止めた。
孤児院の前の通りには家じゅうの家具や、本、服など、すべてのものが放り出されて散乱していたからだ。
「この、この家は……たしか……」
赤いターバンの男が呟きながら、散乱する家具の間をゆっくりと進む。
今だ!
「待ちくたびれたよ」




