夕暮れの決闘
ぼくがやってきたとき、町の広場にはすでに大勢が集まっていた。まだ、絞首台には二人の姿はない。
ぼくは彼らから少し離れて、絞首台が見える場所を捜した。
三時になった。その頃には広場が人ごみに埋め尽くされていた。
ゴンゴンと鐘が鳴った。絞首台に赤いターバンの男が上って行く。
「ぃひひひ、それではそれでは、この町の英雄を皆さんの前で、ぃひひひひ」
絞首台に上がると、男は、野次馬に向かって揚々と言った。野次馬がざわつき始める。
そして、屈強な身体つきの執行人に背中を押されて、絞首台にふたりの女性が上がってきた。
グロリアとデリンジャーは、その手をロープで結ばれ、足には鎖が繋がれていた。なぜか、デリンジャーだけがボロボロになったドレス姿だった。
「クズめ」
「ぃひひひひ」
赤いターバンの男に向かってグロリアが吐き捨てた。
三人が絞首台に上る。
「グロリア……すまねえ」
台の上で執行人は一瞬手を止めた。しかし、赤いターバンの男が銃をちらつかせたので、グロリアの首に縄を掛けた。
集まった人間はみんな不安そうな顔をしているが、なにも手出しができない。いや、しないんだ。
ぼくは肩に下げたホルスターから銃を抜いた。そして、
天に向かって一発撃ち放った。
広場に轟音が響き渡り、人ごみのざわめきが消えた。
みんなの視線がゆっくりとこちらに向く。
「オスカー!」
いちばん最初にグロリアが叫んだ。
赤いターバンの男が大きく首を傾げた。
「ぃひひひ、あの子供、お知り合いですかい」
「…………」
グロリアは黙ってぼくを見つめていた。その表情は驚きと失望。言いたいことは痛いほどわかる。
――何故来た?
「二人は友達なんだ。別れの挨拶をしたくてね。それと――」
ぼくは、手を開いて、握っていた銃の銃把を見せる。銀の彫刻がきらりと輝いた。
「悪党退治は、父さんから引き継いだぼくの仕事だからね」
赤いターバンの男の目が大きく見開いた。
「ぃひひひひ、まさかまさか。もう一人連邦保安官がいたなんて。しかもしかも、こんな。ぃひひひ!」
気持ちの悪い話し方は精神攻撃かなにかなのだろうか。だとしたら、大成功だ。今すぐ家に帰って忘れたいほど不快だ。
「んーッ、んーッ」
ああ、デリンジャーの声がしないのは口に布を噛まされているからだ。たぶん、聞く耐えないほどの罵声を吐き続けたのだろう。
「さぁさぁ、ギャラリーもいっぱいだ。楽しみましょう」
赤いターバンの男が絞首台から飛び降りる。人ごみは慌てて彼から離れた。
「待って」
ぼくは手を広げて彼を止めた。そして、肩のホルスターに銃を仕舞う。
「はい?」
赤いターバンの男が首を傾げる。
一息吐いて、呼吸を落ち着ける。
処刑台のグロリアと、デリンジャーに目をやる。
見ててよ、父さん。
証明してやる。ぼくをこの町に連れてこなかったことは間違いだって。
人差し指を空に向けて、突き出す。
すると、濃い霧が徐々に集まってくる。
「なんですか。これ」
赤いターバンの男が首を傾げた。
「お、おい」
人ごみの中には早く気付く人間もいた。恐れながら後ずさり、やがて背中を向けて逃げ出した。
霧は徐々に形を造っていく。そして、
「ブロロロロロォオオオン」
広場のど真ん中に、咆哮と共に魔物が出現した。
「うわぁぁあっ」
あまりの出来事に、叫び声を上げる人たち。当然だろう。いくら不安そうな表情を作っていても、安全圏にいたはずだったのだ。それが、急に襲われる対象となった。広場は一瞬でパニックになった。
「ブロロロォォオオオオ」
「みんな逃げろ!」
グロリアが叫んだ。しかし、これだけの大人数だ。そう簡単に動けやしない。コケて尻をつくか。張って逃げるのが精いっぱいだ。
「まったくまったく、どんな魔法を使ったんですか」
頭を振りまわして吼える魔物。今にも誰かが襲われそうだと言う時、赤いターバンの男が悪態をついた。銃を抜く。赤く光った。一目でわかる、デリンジャーの銃だった。
「ぶち、ぶち壊しですぜ」
破裂音と共に、赤い閃光が走る。
「ブギィィィィイン」
魔物の顔面が潰れ、一撃で勝負はついた。
「ぃひひひ、しかししかし、こいつはたまりませんっ」
巻き上がる砂煙の中で、赤いターバンの男が無邪気に叫んだ。
改めて見ると驚きを通り越して呆れる。あんな銃とやり合おうと言うのだ。自分の無謀さ加減に笑えてくるよ。だけど、
「さぁ、次は……ひ?」
「えーなに? 遠くて聞こえないよー」
赤いターバンの男が目を丸くした。その場にいた誰もが同じ反応だろう。なぜなら、ぼくは、すでに広場の出口近くまで逃げていたのだから。
「さよーならー。この辺で失礼するよ」
遠く離れた赤いターバンの男に向かって叫ぶと、急いで広場を飛び出し、通りへと全力疾走した。
「はぁっ、はぁっ」
通りの真ん中で呼吸を整える。
ついてきてはいない。
よし! これで準備オッケーだ。
ぼくはそこから一目散に逃げだした。




