ダンス・ウィズ・ウルブズ
テーブルを囲んでぼくたちの言葉が飛び交う。
「グロリアとデリンジャーは?」
「負けたわ」
「捕まったゾ」
「やっぱり」
「手も足も出なかったナー」
「大変なときに居ないんだから」
「それはごめん」
「処刑する気らしいわ」
「宣伝を聞いたゾ」
「いつ?」
「午後三時。あと一時間ね」
「どこで」
「広場よ。あそこにしか絞首台はないわ」
「どうするの」
「戦うゾ」
「もちろん」
「勝算あるカ?」
「ないけど」
「ある」
「本当に?」
「あるよ。絶対」
ぼくの言葉にふたりの目が見開いた。
「狩りと同じだよ。作戦さえ立てればきっと勝てる」
どんな相手でも、距離を置いて考えれば必ず勝機はある。これは、グロリアの教えだ。
「グロリアとデリンジャーの銃はどうなったの?」
ぼくが聞くと、アンネが首を振った。
つまり、彼女たちの能力も使えるということだ。グロリアとデリンジャーを同時に相手するようなもの。ぼくの夢見た光景がこんな形で実現するなんて。本当に意地悪な神さまだ。
「本当に勝算あるの?」
改めてアンネが聞いた。
「…………あるよ」
「なんか声が小さくなってない」
「うるさいなぁ。あるって言ってるだろ」
実際はグロリアについ先ほど軽くあしらわれたばかりだ。デリンジャーにはいつもコテンパンにされてるし……。
「なによ。その言い方。あたしはただ――」
アンネが不愉快そうに口をとがらせた。
「よシ!」
アンネが怒り出すよりも先にイルシスが立ち上がった。
「どうしたのよ」
「絶対に内緒だゾ」
なんだろう。ぼくとアンネは二人して首を傾げた。
するとイルシスは眼を瞑り、深呼吸した。
「ハツ・ドイエル・オン・イエン・チン・ツィーゾン…ダンカ」
おもむろに聞いたことのない言葉をつぶやき始めた。
ぼくたちはさらに首を傾げるばかりだったが、すぐに疑問は驚きに変わることになった。
徐々に部屋に青白い霧が立ち込め、濃くなっていく。ただならぬ空気に背中がぞっとした。そして、
「ブロ、ブロロロロロォン!」
赤く光る瞳に、巨大な牙、真っ黒の毛皮で覆われた四肢が姿を現す。
ぼくたちの目の前に魔物が出現したのだ。
「うわぁああああ」
慌てて、肩に掛けた銃に手を伸ばした。
しかし、イルシスのトマホークの方が速かった。後頭部を一瞬で一刺し。魔物は霧となって消えた。
「ななななな」
隣にいたアンネは舌が回らないほど動揺したらしい。
ぼくだって言葉もない。イルシスが意味不明な呪文を唱えると、魔物が発生した。
つまり、イルシスが魔物を呼んだのだ!
「一体、何をしたの」
とりあえず、勇気を持って聞こう。どんな答えが返ってきても納得できる気はしないが……。
イルシスは黙ったまま、トマホークについた魔物の血をゆっくりと拭いた。
「…………ナ!?」
そして、顔を上げたイルシスの表情は、輝くような笑顔だった。
「見ての通り、魔物を呼ぶ呪術! すごいだロ!」
「すごいだろって……」
すご過ぎるよ。どのくらいすごいのか、きっと彼女には想像も付いていないのだろう。
「先生が授業で言ってただロ」
あはは、とイルシスは冗談っぽく笑う。その無邪気な顔にぼくも少し笑いそうになってしまった。
本当は、笑いごとではないのだ。こんなことを東部の知識人たちが聞いたら、馬鹿にするだろう。しかし、もし実際に見せたら、その場でひっくり返るだろう。かつて否定されたはずの古い迷信が真実だったのだ。
「いや、あの、イルシス?」
アンネは未だに脳の処理が追いついていない。いつかのぼくと同じ反応だ。
そりゃ、突然目の前に魔物が現われたのだ。あの時はぼくだって相当……、
ん? 待てよ、それじゃあ。
「それじゃ、ぼくが寝ている時に襲ってきたあの魔物って」
「あははー、未だに寝言で呼んじゃうことがあるんだゾ」
最悪だ! しかも全然制御できないんじゃないか。
「…………はは」
本当にここの連中はむちゃくちゃだ。ため息が出るよ。
「でも、教えてくれてありがとう。頼りにするよ」
これで、ぼくたちもやつに負けないほどの武器を得た。多少のことには目を瞑る。
……今後、寝ている時のイルシスの口は縛っておくけどね。
「任せとケ!」
彼女はドンとその大きな胸を叩いた。
「それとアンネ、荷物のことだけど」
「な、なによ」
ぼくの言葉でかっと赤くなった。
「悪いっていうの? でもしょうがないじゃない。あんたはもう帰ったって聞いてたんだし、居ないひとも物を置いておくスペースなんてこの家にはないんだし」
「いまから他のものも全部捨てるよ」
「だいたいあんたが何にも言わずに飛び出すなんて馬鹿なことするから……は?」
「頼んだよ」
ぼくの言葉にアンネはきょとんとした表情で首を傾げた。これが今回の戦いで一番大切なことだ。




