出会い①
町の端にある小さな礼拝堂は、二十人ほどの参列者でいっぱいになっていた。泥で汚れた靴に、くたびれた服、汚く伸びてぐしゃぐしゃになっている髪の毛と髭、会衆席に座っているほとんどが貧しい農夫たちだろう。
ぼくは若い牧師の案内に従って彼らの間を歩き、祭壇の前に立った。
「きみの父親で、間違いないかね?」
祭壇に掲げられた写真では、四十歳ほどの男が遠くを見つめて立っている。小奇麗に着飾ったその容姿は、農夫たちとは明らかに違った。
かつての父の写真を取り出そうとポケットを探ると、牧師は首を傾げた。
「わからないのか。親父さんだろう」
牧師の言葉に首を振る。
「わかるわけないよ。ぼくが最後に会ったのは、十年近くも前なんだ」
「では、わしが教えてやろう。きみは間違いなく彼の子だ。目元がよく似ている」
「……ありがとうございます」
死んだ人に似てるって言われてもちっとも嬉しくない。
「人の死は傷ましいことだが、絶望すべきではない。すべては主の下で生まれ、主の下に還るのだ」
彼が胸で十字を切ったので、ぼくもそれに倣った。黙とうを済ませ、四つ折りにした写真をポケットにしまう。
牧師を見上げると、彼はまだ固くまぶたを閉じたままだった。
「あの……さ」
躊躇いはあったが、ぼくは声をかけることにした。今後のことについて話がしたかったのだ。町で葬儀を済ませてくれるのは非常にありがたいけど、母の為に、遺体は同じ墓に入れてあげたい。ただ、お金がないからそこは相談だ。
「きみの親父さんは立派な人間だった」
ふと、牧師が目を開き、話を始めた。
「町の発展は親父さんの力によるものが大きい。親父さんはこの町の交易をすべて管理していた。西の山脈から発掘した鉱物や、反対に東部から多くのの牛たちや新鮮な果実。もともと中継地だった町だ。親父さんがいなければ、この町もとっくにゴーストタウンのひとつとなっていたことだろう」
「…………」
うう、居心地が悪いな。いい話なんかをされては、お金の話をしようとしたぼくが薄情みたいじゃないか。
「作物も育たない、山も掘りつくしてしまった、果たしてこの町は、開拓の終焉とともに廃れてゆくだけだった」
牧師の声に熱がこもる。
「ここにいたのは、縄を振り回すだけが能のカウボーイと、土いじりで一生を終える汚い農夫だけ。誰ひとり文字を書くこともできやしないのだ。そこに現れたのが、きみの親父さんだった」
法廷劇のように、かつかつと音を立ててぼくと参列者の前を歩く。
「親父さんは、東部との懸け橋となり、迫りくる時代の波から我々を引き上げてくれた!」
かっと、目を見開く。その黒々とした目には涙が滲んでいた。もう勘弁してほしい。どんどん言い出し難くなるじゃないか。
「きみの哀しみは、この会場の全員が共有している痛みだ。それを覚えておいてくれ」
力強く、暑苦しく、ぼくの肩を握った。すると、背中からずびずびと鼻を啜る音が聞こえた。
まさか。と思って振り返る。参列した農夫たちは布っきれを手に――み、みんな泣いている!
「ぼくは外に……出てるよっ」
耐えられない! 牧師の手を払って、ぼくは出口に足を向けた。
この場でぼくに何ができる? 彼等の悲しみに同調して泣けって言うのか? それが子供の義務だと? そんなのは絶対にゴメンだ!
「お、おい」
牧師が声をかけてきたが足は止めない。ここは息苦しい。早く出たい。ぼくが見たかったのはこんなのじゃない。だって、ぼくは父さんのことなんてこれっぽちも――、
「クソ共! なにやってんだ!」
突然、扉の向こう――外から怒号が聞こえた。すると、手をかけた扉が赤く光り、大きな爆発音と共に破裂した。