明日に向って
「どうしてここに」
外を見てはっとする。見覚えがあるどころじゃない。デリンジャーと訓練したあの場所だった。
「馬も休ませなきゃ」
御者は馬の手綱を小屋の手すりに結び始めた。
「コーヒーを沸かすんで出てきてください」
御者の言葉が飛んでくる。
ぼくは、すこしためらったが、馬車から降りることにした。
硬い地面の感触が足に伝わった。日差しは強く、しっかりと目を開けることができない。視界がゆらゆらと揺れ、いきなり気温が上がったような錯覚を覚える。
自然とデリンジャーと訓練した場所へ足が動いた。
穴が空いた樽も、気にぶら下げた板もそのまま残っている。
デリンジャーなら、その男に勝てるだろうか。無理だろうという直感に似た確信があった。彼女がやることはただ弾薬が尽きるまで打ち込む。それだけだ。
「だけど、ぼくに……」
ひとつの石が目に留まり、思わず立ち止まった。
「どうしたんですか?」
後ろから御者が声を掛けてきた。
「墓があるんだ。ここに」
その墓標を指差した。名前は、ただ『男たち』。
「ああ、ここいらで死んだ人間は多いですからね。こうやって弔ってやることしかできないんでしょう」
そして、「あー物騒だ、物騒だ」と胸で十字を切った。
彼らはこうやって死ぬことが正しいと思っていたのだろうか。たとえ、墓を作ってもらえなくても。たとえ、故郷に子供を残していたとしても。
「本当、ここの連中って馬鹿なことをするよ」
思わず、笑いが漏れてしまった。そうだ。きっと、彼らも同じ気持ちだったのだろう。
ぼくが振り返ると、御者が不思議そうに首を傾げた。ぼくの手には銃が握られていたからだ。
「お客さん?」
攻撃はできるだけ不意に。デリンジャーの教えだ。
御者の鼻先を銃の柄で殴った。
「うえっ」
「ごめん!」
倒れた御者を飛び越え、繋がれている馬まで駆ける。ここに来たときには結び方も知らなかったが、いまでは眼を瞑っていても解くことができる。
簡単だ。こんなもの。
「ちょ!」
声を上げ、御者が慌てて立ち上がった。
「ゴメン、必ず戻ってくるから」
馬に飛び乗り、後ろの馬車を切り離した。
手綱を引くと、馬が力強く嘶いた。今度は腹を蹴る。馬の前足が浮いた。
「行くよ、父さん」
ぼくはその場に御者を残し、『サン・ダディ』へ駆けだした。




