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ぼくの苦難。銃と魔物とときどき女性  作者: 東京タワーⅡ
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殺しが静かにやってくる

・・

・・・

ぼくは、孤児院へ寄らずに、真っ直ぐ駅へと向かうことにした。涙は収まったが、今更戻ってアンネたちと話すことなんてないし、グロリアに会うのも最悪だ。幸い財布は持ち歩いているし、父さんの銃もある。服や鞄はあとで送ってもらうことにしよう。


「もし、もし、すみません、すみません」


 ぼんやりとした気持ちで歩いていると、ふいに声を掛けられた。


目をやると、見たことのない大柄の男が立っていた。


大きな鞄を持ち、頭には赤いターバンを被っている。その風貌は明らかにこの町の人間ではなかった。


 赤いターバンの男は首を振って周囲を見渡してから、ぼくに聞いた。


「この、この町の連邦保安官さんを捜しているのですが……」


 町に連邦保安官は二人いる。しかし、わざわざ訪ねられるようなのはグロリアだろう。


「番所は向こうにあったんですが……あいにく、あいにく留守でしてね」


 この町の人間で、グロリアのことを知らないことは考えにくい。やはり他所の町から流れてきた者だろう。馬車が再開したというのは本当らしい。


「孤児院にいると思う。ここから三つ離れた通りにある一番大きな建物だよ」


 そう言って、ぼくは孤児院のある方向を指差した。


「いひ。ぃひひひ。ありがとうございます」


 赤いターバンの男は肩を震わせて笑うと、指差した方向に去って行った。


「……変な人」


 彼がいなくなってから、ぼくはそう呟いていた。


 ・

・・

・・・

 でこぼこの道をゆったりと走る馬車の中で、ぼくは身体を揺られながら、サン・シティを眺めていた。


 大きな煙突を中心に見事な曲線で構成された町は徐々にその姿を小さくしていく。


ぼんやりと孤児院のアンネとイルシスの様子を想像してみた。暗い食堂の中で、ぼくが去ったことを聞き、二人は肩を落とし悲嘆に暮れる。せっかく作った四人分の食事も、寂しげに残ったままだ。その時、グロリアは――、


 はっ、そんなわけない。


 そもそも、ぼくはあの町の人間じゃない。ぼくが帰ったと聞いても、彼女たちは気にもかけないだろう。明日からまた狩りに行ったり、あの小さな学校に行くだけだ。


すべて忘れてしまうべき思い出だ。ぼくの人生には何の関係もない。


 関係ない。


 ふと、デリンジャーのことが頭によぎった。彼女は、怒るだろうか。


「…………」


「お客さん、この前はすみませんでしたね」


 突然、外から馬車を運転している御者が話しかけてきた。客はぼくの他に誰もいない。


「六日前ですよ。サン・ダディに向かう途中で魔物に襲われて、荷台ごと置いていっちまった。お客さん、あの時の人ですよね」


 そう言われて思い出した。この御者はあの時と同じ人だったのだ。


「平気だよ。あの町の保安官に助けてもらったから」


 あの時、初めてグロリアに出会い、初めて助けてもらった。


「聞いてますよ。サン・ダディの連邦保安官が駆けつけてくれたんですよね。いやぁ、よかった、よかった」


 御者は軽い調子で笑った。


「あれ? でも、あの町の連邦保安官って死んじまったんじゃなかったですっけ」


「彼女はたぶん二代目だよ。前任は……」


 ぼくの父親だから……。


「しかし、その保安官も今頃どうなっているのか。お客さん、町を出て正解ですよ」


「どういう意味?」


 ぼくが聞くと、彼は話を続けた。

「いやね。今朝、サン・ダディに向かう男を一人乗せたんですが、そいつがおしゃべりなやつでね」


 なぜか、すぐにあの赤いターバンの男の姿を思い出していた。


「あの町で、いろいろやらかす気ですよ」


 御者の軽口は、本来聞くべきじゃない。信頼できる情報じゃないし、下世話な内容ばかりだ。しかし、その時は、なぜか気になった。


「悪党なの?」


 ぼくが聞くと、御者は軽く笑った。


「悪いことする気なのは間違いないですね」


「馬鹿だよ。返り討ちに遭うに決まってる」


 サン・ダディには連邦保安官が二人もいるんだ。きっと、グロリアに捕まるか、デリンジャーに殺される。


「それが、そうとも言えないんですよ。そいつ、鞄いっぱいに対魔物用の拳銃を持ってましたからね」


 彼の言葉に、ぎゅんと心臓が跳ねあがったのを感じた。


「嘘だ。無理だよ」


「本当ですよ。エンブレムも見ましたからね。それでどうやって手に入れたのか聞いたんですよ。そしたら、各地の連邦保安官を襲って奪っているらしいんです」


「だから無理だよ。決まってる。それに、そんなことをすれば、逮捕されるはずだろ」


 御者は、今度は声を上げて笑った。


「はは、お客さん、東部の人ですもんね。そいつは平気そうに言ってましたよ。こんなところに法や常識なんて無意味だってね。確かに言う通りだ。連邦保安官を殺して廻っているような奴、倒せるやつなんているわけねえ。賞金稼ぎみたいなモンなんでしょうが。狙うのは悪党じゃねえっていうからタチが悪い」


 彼はべらべらと話を続ける。その最悪としか言いようがない話をやめようとはしない。


「それでね。これからがまた面白い。そんなに強い銃を持ってるんだ。負けるわけがない。でも、その場では殺さないんですって。決まって、町の往来で公開処刑みせしめですよ」


 あー、物騒だ物騒だ。と御者は付け加えた。


「嘘に決まってる……」


 その後も御者の話は続いたが、ぼくの頭にはほとんど入ってこなかった。


 どうしても、嫌な予感が胸にしがみついて離れない。


 対魔物用拳銃をたくさん? 保安官を公開処刑? それじゃ、グロリアとデリンジャーは……。


 考えている間も馬車は容赦なく道を進む。すでにサン・シティは見えなくなっていた。


「お客さん、少し休憩しますぜ」


 しばらくして、御者が馬車を止めた。そこは


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