怒りの荒野
次の日の朝、ぼくは町の広場にやってきていた。
そこには大きな絞首台があり、首に縄を掛けられた罪人たちが並べられていた。
「彼の者は罪を犯した――」
連邦保安官であるグロリアが、つらつらと彼らの罪状を読み上げる。窃盗、暴行、誘拐、殺人、この町で日常的に起きていることばかりだ。
周囲には野次馬に集まったサン・ダディの『善良な市民』たち。
グロリアが罪状を読み終わると、執行人がロープを切った。最後の言葉もなく、罪人の足元で床が開いた。
ゴキリと嫌な音が絞首台から響く、野次馬たちが声を上げた。
ぼくはその様子を少し離れたところから見ていた。公開処刑なんていまどき非人道的だと思う。只でさえ、ぼくの気分は最悪なんだ。
処刑が終わり、野次馬が解散し始めた頃、グロリアが歩いてきた。
「オスカー。どうしたんだ、こんな場所に」
「グロリア……」
綺麗な金髪に、凛とした表情。この暑い荒野で、不思議なほど白く綺麗な肌。いつもと変わらない。
「彼は何をしたの?」
「ん」
一瞬、グロリアは首を傾げた。ぼくの質問が分からなかったのだろう。だが、すぐに理解した。
「ああ、今日の罪人の話か。殺しだ。盗みに入った家の婦人を撃ち殺した」
「グロリアは、いつもこんなことしてるんだ。全然知らなかったよ」
「別に知らなくてもいい。オスカーには」
「関係あるよ」
無いなんて言わせない。
「……オスカー……?」
グロリアは怪訝な様子で眉を寄せた。
「グロリア、ぼくの父さんを殺したのは誰なの?」
彼女の表情が固まった。
「きみが、殺したの?」
昨日のデリンジャーの声、痛みが蘇る。
「誰に聞いた……」
「誰だっていいだろ」
グロリアは一度まぶたを閉じたが、すぐに目を開け、真剣な表情に戻った。
そして、
「彼は罪を犯した。故にここで裁かれた」
あっさりと言い放った。その表情に後悔や悲しみなんて一かけらもなかった。
「手紙に書いたはずだ。酒場で、つまらない諍いがあった。彼はその結果、死んだんだ」
「一体、なにがあったって言うんだよ。父さんは英雄だったんだろ。それなのに」
グロリアは、黙ってぼくを見据えていた。
やがて、軽く首を振ってから、こう答えた。
「町の問題だ。きみには関係ない」
ふざけるな!
ぼくは、コートの下に忍ばしたベルトから銃を抜いた。
「オスカー、それは考え直した方がいい……」
「どうしてだよ。きみは父さんの仇なんだろ」
ぼくの言葉に、彼女は一瞬、すごく辛そうな顔をしたように見えた。
「仕方がない」
そして、彼女はゆっくりとホルスターに手をやった。ぼくの心臓が跳ねる。くるっ、くるのか。
彼女の対魔物用拳銃が、特有の眩しい光を放った。
「……本当のことを知れば、きっとこうなると思っていた」
一瞬のうちに、ぼくの身体は地面に抑え込まれていた。背後から膝を蹴られ、そのまま、地べたに頭を押し付けられ、背中に彼女の膝を当てられ、銃を持っていた右腕も絡め取られてしまった。
一瞬の出来事だ。まったく、手も足も出なかった。
「放せっ」
グロリアの膝の下で思いっきりもがいた。しかし、びくともしないどころか、身体を動かそうとするほど、腕の関節に激痛が走った。
「無理するな。どうあがいても、きみにはどうしようもない。怪我をするだけだ」
気が付くと、ぼくたちの周りに、絞首刑の野次馬たちが集まってきていた。
――見るなっ。
こいつらは、父さんの時も喜んで見物した下衆共なのだ。クソッたれ人殺しだ。
「……保安官に銃を向けた者は、死罪となる」
グロリアが言った。その声は背筋が凍るほど冷たかった。
撃鉄を起す音がした。後頭部に銃砲の感触が――、
ドンドンドンと、三発の銃声が鳴った。
「~~~~」
砂煙が上がる。すべての弾丸は、ぼくの頭を逸れ、地面に突き刺さった。
「冗談だ」
グロリアがそう吐き捨て、銃を仕舞った。
そして、一枚の紙きれをぼくの頭に落とした。
「丁度、今日から馬車の再開が決まったらしい。きみの望んでいたことだ」
そして、背中から彼女の感触が消えた。
「東部へ帰れ。二度と戻るな」
解放されたぼくが身体を起こした時、彼女の姿はすでになかった。
「…………」
ただ、足元には東部へと帰るための切符だけが残されていた。
「お、おい。大丈夫か」
すぐに野次馬のひとりがぼくに声を掛けてきた。
ぼくは、彼を無視して切符を拾い、広場の出口へと向かって歩き出した。
「おいっ」
男がさらに声を掛けてきた。
「この町に残るんじゃないのか」
「…………」
ぼくは黙って足を速める。残るわけないだろ。こんな町。
「どこに行くんだ」
「知らないよ!」
そうだ。知ったことじゃない。町のことも、グロリアも。
付いてくる男を振り払う為、ぼくはついに駆け出した。なにかを叫びたい衝動に駆られたが、言葉が出てこない。代わりに、喉の奥から、嗚咽と、涙がこみ上げてきた。




