許されざる者
洋服屋の袋を持ってぼくたちは孤児院へと続く通りを歩いていた。時刻は夕刻、すでに日が暮れはじめていた。
「あり得ねえ、あの連中、こんな布っきれでどんだけ金を持っていきやがるんだ。とんだ詐欺師だぜ」
「きみがそんな調子だから、お店の人が怒ったじゃないか」
「あたりめェだ。無駄な装飾を付けて無駄に高く売るなんざ、詐欺じゃなきゃなんだってんだ」
デリンジャーが価格のことで洋服屋の店主と揉めに揉め、ぼくたちは安いドレスを一着だけ持たされて追い出されてしまった。
「はぁ、もっと似合う服がいっぱいあったのに……」
「ああ? なんか言ったか?」
「なんでもないよ! 馬鹿!」
まぁ、一着だけでも無いよりはマシだ。
「いま着てる、その……布きれ。早く捨てなよ」
「なんだとっ」
そんな話をしている間に、孤児院が見えてきた。
楽しい時間もこれまでだ。
「次に会う時は楽しみにしてるよ。ちゃんとその服を着てきてくれるんだろ」
「けっ、誰が着るか。テーブル敷きにでも使ってやる」
そういって彼女はかっかっと笑った。もちろん彼女なりの冗談だ。
孤児院はすぐそこだ。ぼくたちの足が止まる。
「……お茶でも飲んでいきなよ」
「あー?」
デリンジャーが首を傾げた。
「本気かよ。やつが居るんだろ」
「二人とも連邦保安官なんだ。たまには話をしてみてもいいんじゃないかな」
しかし、デリンジャーは「けっ」と舌打ちした。
「行け、行け。『人殺し』が待ってるんだろ。せいぜい殺されねえようにするこったな」
ぼくはデリンジャーのこと、前ほど嫌いではない。仲良くやって行きたいと思ってる。だから、彼女の悪態なんて、聞き流すことができればどれほどいいだろうか。
でも、ぼくはグロリアの恩人だ。黙ってるわけにはいかない。
「その呼び方やめなよ」
「あ?」
「グロリアは人殺しなんかじゃない」
デリンジャーの表情が険しくなった。赤い瞳でぼくを睨む。
「あいつはバッチに背いて人を殺した! 本当ならさらし首になるような罪を犯したんだ」
「人を殺すのが全部罪なら、ぼくも、きみだって悪党だ。だけど、違うだろ」
「クソッたれ悪党はいくら殺しても問題ねェさ! けどな、あいつはこの町で一番殺しちゃいけねえ奴を殺したんだ」
「だったら、きっとその殺された人間に問題があったんだ」
「ンだとっ」
デリンジャーはぼくの胸を突き飛ばした。
痛たた、こんなのずいぶん久しぶりだ。
「何も聞いてねェのか」
「落ち着きなよ。きみはすぐに手を出すから」
敵ばかり作るんだ。それもグロリアのことになると輪をかけてひどくなる。
「ちっ」
デリンジャーの舌打ち、そして、
「あの人殺しめ、ぶっ殺してやる!」
銃を抜き、孤児院の裏口に向かった。
ちょっ、
「ダメダメ、何してんだよ!」
慌ててデリンジャーの前を塞いだ。
「どけ」
「退けないよ!」
「殺すぞ」
殺気を含んだ恐ろしく冷たい声だった。
ぼくは反射的に肩から銃を抜いた。
「――あ?」
デリンジャーは向けられた銃を一瞥した。
「撃つってのか。あたしを」
その問いに首を振るが、銃口は下ろせない。
「わかってよ。ぼくはきみたちが好きなんだ」
デリンジャーは、決して悪党なんかじゃない。
もちろん、グロリアだって。
そうさ、二人は仲良くやっていけるはずなんだ。
「協力すれば、きみたちは最高じゃないか」
この二人が手を取り合えば、怖いものなしだ。それを一番わかってるのは彼女たちのはずだ。だって、二人はもともと仲間だったんだ。
「まったくお前はいつも……」
デリンジャーは自らの銃をホルスターにしまった。ゆっくりと手を伸ばし、ぼくの銃身を優しく掴む。と力強く引き寄せた。
「うわっ」
「ふざけたこと言ってんじゃねェ!」
バランスの崩したぼくの腹部に強烈な拳が叩き込まれた。
その場に膝が落ちた。息が詰まり、刺すような激痛に襲われた。
「あの『人殺し』と協力だと。くっだらねェ、ありえねェ、くそくらえだ!」
ジンジンと、痛みが熱となって全身に伝わる。
頭の上からは、デリンジャーの怒号が降ってくる。
そして、悪魔のような言葉をデリンジャーは口にした。
「知らねェってんなら教えてやる。てめえの親父を殺したのはあいつだ! あたしの目の前であいつはお前の親父を殺しやがったんだ!」




