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ぼくの苦難。銃と魔物とときどき女性  作者: 東京タワーⅡ
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ヤングガン

 次の日、ぼくとデリンジャーは商店街の通りを歩いていた。壊れてしまった銃の代わりに新しい銃を手に入れるのだ。


「きみとは毎日顔を合わせてたけど、こうやってちゃんと町中を歩くのは初めてだね」


「はぁ? 嬉しそうに、何言ってんだ。馬鹿か」


「別に。ちょっと思っただけだよ」


「洒落た服を買うわけじゃあるめェし」


 デリンジャーは呆れたように呟いた。


「欲しいの?」


「何がだよ」


「綺麗な洋服」


「欲しかねェよ!」


「そこに仕立て屋があるよ。行ってみる?」


「行くわけねーだろ!」


「きみの服はいつも同じだからね。少しはまともになる様に、ぼくが見立ててあげてもいいよ」


「…………」


「冗談に決まってるだろ」


 デリンジャーが顔を真っ赤にして黙り込んでしまったので、ぼくもそれっきりにする。彼女をからかうのは痛快だけど、あんまり怒らせると殺されてしまう。


「こっちだ」


 しばらく通りを歩くと、急に路地に入った。


 道幅は狭く、普段なら人が通るような道じゃない。この町にはこんな小道がたくさんあった。元々は小さな町のはずだったのに、無理に大きくした結果だろう。おかげで、ぼくのような余所者はすぐに迷子になってしまう。


「……こんなところにお店なんて」


 デリンジャーは構わず進むが、どんどん通りから離れていく。


 やがて、わきにあるひとつの扉の前で立ち止まった。この建物の裏口らしい。


「ここ?」


「そうだ」


 デリンジャーは扉を開けて中に入る。ぼくも後ろに続いた。


 カーテンを閉め切った店内は真昼だと言うのに薄暗かった。


「勝手に入っちゃっていいの?」


 ずかずかと奥に進むデリンジャーに聞いた。


 人の気配はない。もしここの人間に用があるなら出直す必要があるだろう。


「自分の家だ。構いやしねェよ」


「えっ」


 思わぬ言葉に耳を疑う。


「ここって、きみの家なの?」


「まぁな」


 改めて辺りを見渡してみる。壁には大量の銃器が飾られていた。どれもずいぶん昔のモデルに見える。椅子で囲んだ丸テーブルの上には大きなライフルと薬きょうの山。床にはごろごろと空の缶詰が転がっていた。


 どう見ても、女の子の部屋じゃない。


「家族は?」


「誰も。一人で住んでる」


 あっさりと言った。


「危なくないの?」


「誰に言ってんだ。連邦保安官様だぞ」


 彼女は、ぼくを小馬鹿にするように軽く笑った。


「座ってろ。てめェの銃を持ってくるからよ」


 そう言って、デリンジャーが丸テーブルを指差してから、奥の部屋に行った。


 言われた通り、ぼくは椅子に腰を掛ける。ライフルと薬きょうの側に一つのリボルバー銃が無造作に置かれていた。


 艶のある銃身に白い銃把。外見はずいぶん変わっているけど、間違いない。それはいつかぼくから彼女が奪った銃、つまり、父さんの形見の銃だ。


「…………デリンジャー」


 小さな声で彼女を呼ぶ。返事はない。


「デリンジャー!」


 たぶん、彼女が捜しているのはこの銃のことだろう。


「なんだよ。おっ」


 やってきたデリンジャーは、テーブルの上にある銃を見て声を上げた。


「なんだ。ここにあったのか」


「これって……」


「ああ、てめェのモンだ」


 掴みあげると、ずっしりした重さをこの手に感じた。


 汚いグリップの代わりに彫刻の刻まれた重厚な象牙が差し替えられており、錆びついた銃身は見事に研磨され、白く輝いていた。さらにシリンダーが以前は考えられないほど滑らかに回転し、引き金が糸のように軽かった。これなら、


「てめェ用にギリギリまで軽くしてある。それなら、てめェの親指でも起せるだろ」


 彼女の言う通り、この撃鉄ならぼくでも十分に片手で早撃ちが可能だ。


「これからはそいつを使え。もう壊れる心配はいらねえよ」


 顔を上げると、デリンジャーはにやりと笑った。


「知ってるだろうが、そいつは」


「これ、父さんが使ってたんだよね」


「ああ、連邦保安官専用の銃だ。てことは、特別な力がある」


 そうだ、ぼくは一番大切なことを聞いていない。連邦保安官として父さんはどんな力だったのか。


「全部教えてやる。明日からはその特訓だな」


「うん」


 強く頷く。そして、立ち上がって、その銃を肩に掛けたホルスターにしまってみた。


「ぴったりだ」


「抜いてみろよ」


 デリンジャーは嬉しそうに言った。


 ぼくはまた頷いて、練習通りの動作をする。


 一、二、三。


「「バンッ」」


 ぼくとデリンジャーは同時に声を上げた。


 ぼくらの口から、思わず笑いが漏れる。


「あはは、変だね。こんなの」


「へっへ、悪くないぜ。もう一回やってみろ」


 散らかる部屋で、ぼくたちはこんなやり取りを繰り返し、その度に笑い続けていた。


◇ ◇ ◇


「お、もうこんな時間か。そろそろ出ねえとな」


 ぼくが銃を仕舞うと、デリンジャーが言った。


「あ、待って」


 出口に向かう彼女を、慌てて追いかける。


「どこに行くの」


「早くしねえと閉まっちまうだろうが」


 彼女は早口に言った。


「えっ? なにが?」


 これからまたどこかに行くなんて聞いてないぞ。まさか、祝砲代わりにまたどこかの酒場を襲撃するとでも言うのか。


「ああ? 仕立て屋に行くんだろ」



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