腰抜け二挺拳銃
デリンジャーは大きな樽に座って、ぼくに自分の銃を見せた。
「いいか、銃には二種類ある。シングルアクションとダブルアクションってやつだ。てめえのは?」
自分の銃を確認してみるが、よくわからない。
「知らないよ」
「てめえのシルングルアクションだ。ほとんどの銃はシングル。つまり、発射する前に撃鉄を起こす必要がある。普通なら親指で簡単にできるが、てめえの手じゃ、もたついちまう可能性がある」
確かに。この銃の撃鉄は固くて、ぼくの小さな手では親指で満足に動かすことができそうにない。
「もたついてたら間違いなく死ぬ。だったらどうする?」
「撃たれるようなことをしない」
ボカッと頭を叩かれた。
「常に左手を添えてろ。両手で撃つんだ。わかったな」
デリンジャーがぼくを力強く見据えて言った。
◇ ◇ ◇
「おやすみ。オスカー」
「うん。また明日」
食堂でグロリアたちと別れて、ぼくは自分の部屋に戻った。
扉を閉めると、すぐにガンベルトを巻く。
父さんの使っていた鏡を向かいにして立つ。
「一」
肩の力を抜く。
「二」
ホルスターに手を伸ばす。
「三」
銃を掴んだ。
「バンッ」
素早く抜いて、鏡の向こうのぼくに引き金を引く。
「…………」
なんだか、しっくりしないな。デリンジャーの方がよっぽど速い。筋力の問題だろうか。
何度か、同じ練習をしてみた。
「あっ、銃の形にホルスターが合っていないじゃないか」
通りでなんだかぎこちないハズだ。ベルトを外して、ホルスター部をやすりで削る。ついでにぼくの腕と丁度良くなるように長さも調節する。これでオッケーだ。
明日、デリンジャーの顔が楽しみだ。上手くなっているぼくの姿を見て驚くことだろう。
「もう少し、練習しようかな」
◇ ◇ ◇
「ちょろちょろ動く相手と戦う時は。相手の行先を読むんだ」
デリンジャーが吊るした的を手で押した。
的がぶらぶらと動く。
「まずはこれを狙ってみろ。テキトーに撃つなよ。弾の速さと、標的の動きを頭のなかでイメージするんだ」
動きはゆっくりだ。距離もない。さすがに、こんな的を外したりしない。
ぼくの放った弾が的に直撃した。
「へへっ、悪くねえな」
「これなら、そのロープにだって当てられるよ」
「どんどん速くするぞ」
「こんなの意味あるの? 実際の相手だと、どこにいくかなんてわからないし」
「心配ねェ。動きは単調だ。敵の足元を見ろ。一番拓けてる方向に行くはずさ」
「そんなのわかんないじゃないか」
「誘導するんだよ」
「どうやって」
「そんなのはその場で考えろ。この間、狩りの話してただろ。同じ要領でやればいい」
あれは、相手が動物だったから……。
「人間だって一緒さ。奴の動きが速ければ速いほど、視界は狭くなる。奴はチキンだ。怖がることねえ」
そう言ってまた的を押した。
弾を入れ替えながら、ぼくは首を傾げた。
「……やつって誰のこと言ってる?」
◇ ◇ ◇
「うし、じゃあ今日はここまで。わしは本業に行かにゃならん」
「ヤッター!!」
教師がチョークを置くと同時にイルシスが立ち上がった。きみはさっきまで寝てただろう。
「オスカー! 狩りに行こウ!」
飛び跳ねてぼくの方にやってきた。
「駄目よ。今日は牧場掃除の手伝いでしょ」
すかさず、隣のアンネがイルシスを捕まえだ。
「狩りの方が大事ダ!」
「いつもそう言って逃げる。あたし一人でやることになるんだかんね!」
「狩りは儀式。神聖な文化。アンネは私たちからそれを奪うのカ?」
「ううっ」
大仰な物言いに少し揺らぐが、ぶんぶんと首を振った。
「だ、駄目だったら! そっちが首狩りなら、こっちの掃除だって大事な文化よ!」
「やだ、遊ぶゾ!」
「遊ぶってなによ! 文化はどうしたの!」
二人が騒いでいるのを背にして、ぼくはいそいそとノートを鞄にしまった。
「イルシスが手伝っても、早くなるとは思えないが」
グロリアの声が加わった。
「じゃあ、保安官様が手伝ってくれるのかしら」
「わたしには公務がある」
まずいパターンだ。
「じゃあ、ぼくは先に」
アンネがぼくの服を掴んだ。
「みんなで好き勝手言って困ってるの。どう思う?」
「頑張ってね。としか」
「あんたは?」
「なにが?」
「…………」
アンネの目つきが鋭くなる。困ったな……。
「悪いけど、用事があるんだよ」
「あんたに用事? なによ」
「危険なことじゃないだろうな。わたしも行こうか」
「公務はどうしたのよ」
「オスカーを守るのも立派な仕事だ」
ぼくはアンネの手から逃れて、出口に向かう。
「電報を送るだけだし、危ないところには行かないから。それじゃあね」
学校を飛び出した後、人の多い通りを避けて裏道から北門に向かう。誰かに見られたら面倒だ。
北門の短いトンネルを抜けると、すでにデリンジャーは馬の準備をして待っていた。繋がれた馬の上で横になっている(器用なやつだ!)デリンジャーはぼくが近づくとむくりと体を起こした。
「どんだけ、待たせる気だよ」
彼女は齧っていた草を吐き捨てて言った。
「思ったより学校が長引いちゃったんだ」
「あの学校が?」
デリンジャーはにやりと笑った。
「それで、人数は増えたのか?」
「えっ、いや知らないけど」
「いま何人くらいだ」
「十人とちょっとぐらいかな」
「意外と増えたな。始めたころは四人だけだったのによ」
デリンジャーがあの学校にこれほど食いついてくるとは意外だ。
「なんだか嬉しそうだね」
「冗談じゃねえ。今更あんなことしたって、無駄だってのによ」
そう言ってまた笑った。やっぱり嬉しそうじゃないか。
「へへ、じゃあ行くか。落っこちるなよ」
ぼくが後ろに乗ったことを確認して馬を蹴った。
「銃の方は、まあまあになってきた。そろそろ馬くらい乗ってみるか」
デリンジャーは手綱を叩きながら言った。
「うん……でも、できるかな」
後ろに乗っているだけでも精一杯なのだ。自分で操るなんて想像もできない。
「心配いらねえ。やろうと思えばできねえやつなんて――」
デリンジャーは自信たっぷりに――。




