少年よ銃をとれ
赤く燃える夕陽を背に、ぼくたちは真横に並ぶ。
視線の先にはいつもの大樽が二つ。
「一」
同時にデリンジャーが銃把に手をかける。
「二、三」
数字で所作を区切りながらゆっくりと銃を抜いた。
「バン」
放たれた弾丸が直撃し、大樽が微かに揺れた。
「やってみろ」
いよいよぼくの番だ。グロリアのフォームを思い出す。
「一、二、三」
ドォンっと、リボルバーが火を噴いた。
「おっとと」
思わず後ろにのけ反る。が、弾は思った通りのところに行った。
「ちげえ!」
デリンジャーが怒鳴った。
「よく見てよ。大樽に当たったじゃないか!」
初めてでこれなら上出来だろう。
しかし、彼女は気に食わないらしい。
「銃口を肩まで上げる必要はねえ。腰の位置で、抜いたらソッコー撃っちまえ」
「でも、それじゃ的を狙えないじゃないか」
ぼくは、森で見たグロリアの様子を思い浮かべる。彼女はじっくり構えて撃っていた。
「的なんてモンは、どうでもいいんだよ。クソッたれ撃ち合いなんて早く撃った方の勝ちだ」
デリンジャーは乱暴に言う。
「もう一回やってみろ」
「腕が痛い。少し休憩するよ」
「ダメだ。早くしろ」
「…………」
ぼくは黙って銃を抜き、ちゃんと構えて撃った。
樽に命中。二回連続だ。素晴らしい。ぼくって天才だ。
「ダメダメだ! 誰がそんな撃ち方教えた」
デリンジャーが言う。
「だって」
グロリアはこうやって……、
「こっちだって暇じゃねェんだぞ」
「……悪かったよ」
どうやら本当に怒っているようだ。仕方がない。言われた通りにしよう。ぼくは銃をホルスターに戻す。
「きみのフォーム、もう一度見せてよ」
「さっき見せただろ」
「見てなかった」
「…………」
デリンジャーは無言で樽に向き直り、
「……っ」
腰に手を伸ばした。瞬間、彼女の銃が赤く輝く。
連邦保安官としての能力が発動した。
彼女の樽は脆く弾け、木片がぱらぱらと宙に舞った。
後には樽の底だけが残った。
背筋が冷たくなる。凄まじい早撃ち、凄まじい威力だった。彼女はあまり怒らせないほうがよさそうだ。
「やってみろ」
デリンジャーが言ったので、ぼくは唾を飲み込んで銃に手を伸ばした。抜いた瞬間すぐに引き金を弾く。
ドォンっと、弾は明後日の方向に飛んで行った。
「悪くねェ」
どこが……。
「ただ、力みすぎだ。もっと普通に、楽にしろ」
「無理だよ。急ぐと方向が狂うんだ。ぼくはキミよりも繊細なんだ」
「……そのまま力抜いてろ」
デリンジャーはぼくの後ろに回り、
「え? なにを――うわっ」
がっちりと両手を掴んだ。
「な、なにすんだよ」
「口答えばっかりしやがって。身体に教えた方が早そうだ。力抜け」
彼女が耳元で言った。肩越しの彼女の髪がぼくの耳にかかるほど近くだった。
「……ひどい、ひどい辱めだよ」
「あ?」
「まるできみにダンスを教わってるみたいだ」
「ピッタリじゃねえか、ほれ」
「ちょっ」
彼女は強引にぼくの腕を振る。
「手首だけ使えばいいんだよ。二」
ぼくの右手を掴んで、腰まで持ってくる。
「三、掴め」
言われた通り、グリップを握る。
「そのまま握ってろよ」
くるりと、手首の角度を傾けた。銃はするりとホルスターから滑り出た。
「バン。このタイミングで撃てばいい」
ぼくから手を放す。手首にはべっとりとした彼女の汗が残っていた。いや、ひょっとしたらぼくの汗かもしれない。
「馬鹿みたいに引き抜こうとするな。力なんていらねえんだよ」
「でも、ちゃんと構えないと反動が抑えられないよ」
「だったらしっかり握ってろ」
「言ってること、滅茶苦茶だ」
「的外れなんだよ。言われたことだけ意識してりゃいいんだ」
彼女が人にものを教えるなんて無理だ。いい加減なことばかり言う。
「さぁ、やってみろ!」
「痛いっ」
彼女は、ぼくのお尻をドンと叩いた。
「~~~~ッ」
信じられないっ! デリカシー無さを問い詰めてやりたいところだけど、
「ふぅー」
深呼吸。ひとまず全てを忘れよう。
「忘れんな! 常にあたしが後ろにいると思え」
うるさいな。わかってるよ。
ぼくは背中に彼女の存在を意識した。透明の彼女の手がぼくの手首、汗の位置に重なる。導かれるように銃を引き抜き、撃鉄を起す、流れる様に引き金を引いた。
ドォン、銃声が響き。樽に直撃した。
「やった!」
すごい! いまのはすごくなめらかだった気がする!
「やったな。これで樽相手なら勝てるぜ」
本っ当に嫌な奴だ。成功した時くらい褒めればいいのに。
「別に褒められたくなんてないけどね」
一応言っておく。
「もう一回だ」
「言われずとも」
ぼくは銃をしまう。
「ふぅー」
深呼吸。
するりと銃を抜いて、引き金を弾く。カチリッと乾いた音がした。
「もう弾がないよ」
デリンジャーに振り向く、
「ンなことまでいちいち知るか。さっさと入れろ」
言って、彼女はポーチから弾のケースを取り出して乱暴に投げつけた。




