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ぼくの苦難。銃と魔物とときどき女性  作者: 東京タワーⅡ
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決断の時

 電報の確認に向かっている途中にまた嫌なやつをみつけてしまった。


 デリンジャーだ。大通りから少し脇に入った狭くて暗い路地(彼女にはピッタリの場所)で、二人の大人たちとなにやら話をしている。


 別に興味があったわけではないさ。なんとなくだ。


こっそりと様子を覗う。


 大人たちは険しい表情で何かを怒鳴った。あっ、デリンジャーが一人の腹を殴った。彼は悶絶の表情で膝をつく。


 もう一人がデリンジャーの腕を掴んだ。振り払って、デリンジャーは言い放った。一言。「クソッたれ!」違うな、「死ね」か。


 相変わらずひどい態度だ。


 まったく。彼女はいつかきっと痛い目をみることだろう。


 腹を殴られた大人が棒を掴み、デリンジャーの後頭部を殴った。


 ――えっ、


 デリンジャーが倒れそうになる――なんとか踏ん張った。彼女の頭から血しぶきが飛ぶ。


 今度は、先ほど腕を掴んだ大人が銃を取り出し――。


「やめなよ!」


 見ていられない。ぼくは彼らに叫んだ。


 デリンジャーのことはもちろん嫌いだ。助ける義理なんてないさ。でも、私刑をするような連中も下衆だ。放っておけるわけがない。


 ふらついているデリンジャーの手を引っ張って、ぼくの後ろにやる。


「大人の癖になんてことするんだ!」


「あぁ?」


 顔の右側が不自然に歪んだ不細工な大人が首をかしげた。


 誰だ? と。


 もちろんこんなやつらに名乗ってやるつもりはない。


「てめえ、何してやがる……」


 背後でデリンジャーが呻いた。後頭部から血が流れ、顔の半分が真っ赤に染まっていた。


「別に、きみを助けてるわけじゃないよ」


 勘違いされても困るし、一応伝えておこう。


「馬鹿野郎。さっさと撃て」


「えっ」


 チャキリと、撃鉄を起す音がした。


 二人の男たちに振り返ると、


「クッソ」


 これはデリンジャーの悪態だ。


「友達か?」


 顔の歪んだ男がぼくに銃砲を向けていた。


「そんな脅し」


 ドォンッと、


「ひぃあっ」


 鼓膜が破れるかと思うほどの爆音に、体が飛び跳ねた。


 弾丸はぼくの足元に突き刺さった。


 往来での発砲。しかも罪のない青少年に対して。疑いようもなく犯罪だ。


「こ、こんなことして」


「あ?」


 顔の歪んだ男の目はひどく冷淡で、背中に冷たい物を感じた。


「おいおい」


 もう一人の男が慌てた様子で彼に耳打ちする。


「こいつ、例の……東部の……」


 それを聞いた顔の歪んだ男はうれしそうな目線をぼくに向けた。


「いいじゃねーか。俺は昔からあの気取った東部野郎が大嫌いだったんだ」


 彼の舌舐めずりに、怖気が走った。


「ちっとは楽しませろ」


「お、大人が子供相手に発砲なんて、明日の朝刊の見出しは決まりだね――」


 ドォン、とまた空気が揺れた。反射的に身体が縮こまる。バカバカ撃つのは反則だ。


「餓鬼めっ」


 彼は乱暴に言って、ぼくの顔を掴んだ。


 顔を寄せてくる。心臓が跳ねた。


「この顔がわかるか。どうしてこんな顔になったと思う? お前らみたいなクソ東部の連中に炭鉱でコキ使われた結果だ。わかるか!?」


 その恐ろしく見にくい顔がひくひくと痙攣した。


「なにが発展だ。何が黄金だ。謝礼金だと? 馬鹿にしやがって!」


 顔の歪んだ男の拳がぼくに突き刺さる。腹部に強烈な痛みが響いた。


「うぐっ」


 呻きと同時に鉄の味が口にひろがる。


「自分を利口と思ってるツラだ。むかつくぜ」


 顔の歪んだ男が言う。さらに、ぼくの顔を掴んだ手に力がこもった。


「放して……」


「げっひっひっひ」


 彼の笑いが頭に響く。


「ひひひひ、こいつ泣いてやがるぜ!」


 言われて気が付いた。いつの間にかぼくは目の端に涙を溜めていたのだ。なんて情けない。


 そこにもう一人の男が声をあげた。


「おい、よせよ。黙ってねえって、グロリアが!」


 グロリアの名前が出た途端に顔の歪んだ男の表情が青くなった。ぼくを突き飛ばして舌打ちした。


「『人殺し』か、あいつはマジでイカれてやがる」


 殴られたせいか、恐怖のせいなのか、立つこともの出来ない、こんな尻もちをついた状態で、だけど、口は動く。口だけが動いた。だから、


「冗談じゃ……ないよ……」


 二人の大人は同時に振り向いた。


「きみたちの方がずっとずっと気違いだ。保障する」


 彼らは驚いたというより、唖然とした顔だった。


「きみたちは正真正銘の屑野郎だよ。社会の癌だ。きっと死んでも治らないね。その顔は、神さまにだって嫌われてる証拠なんだ――」


 顔の歪んだ男の蹴りが、ぼくの顔面を強打した。


「こいつっ、こいつっ」


 がつがつと、ブーツの先がお腹に突き刺さる。口の端から粘ついた血がこぼれた。


 すごく痛い。痛いけど、


「ごほっ、げぼっ、はぁはぁ」


 ありったけの力を目に込めて彼らを睨む。


「きみたちなんかっ」


 許せない。こんな連中。こんな理不尽なことがあってたまるか!


「こいつもイカれてる……」


 薄れていく意識のなかで、彼らの言葉が頭に響く。


「なんだ、その眼は!? 怒らせたいか!」


「お、おいもうやめよう――ぐぇ」


 その時、デリンジャーが飛び出し、背の高い男を殴り飛ばした。さらに、勢いのまま、体を捻じり、顔の歪んだ男の脇腹を蹴り飛ばす。彼の手から拳銃が零れ落ちた。


「くそっ」


 慌てて手を伸ばす。


 しかし、デリンジャーの方が速かった。落ちた銃を踏みつけ、彼らの鼻先に自らの銃口を突きつけた。


「死ねっ」


 躊躇いなく引き金を弾く。


 間一髪、男は首を捻じり、弾丸を躱した。鼻の先、すれすれを通過した。


 大人たちはすぐに背を向け、駆け出した。


「逃げんな!」


 デリンジャーは何度か引き金を引いたが、やつらの逃げ足は速く、あっという間に路地から消えてしまった。


「クソッたれ腰抜け野郎! 死ね!」


 思いっきり地面の砂を蹴り上げて喚いた。


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