グロリア②
「オスカーっ!」
飛び込んできたのはグロリアの声。
ぼくの頭を掴み、地面にたたきつけた。泥に二度目の接吻をする羽目になった。今度はディープなやつだ。
痛っ!
追って、ドオン、ドオン、と二発の強烈な銃声が耳朶を打つ。
何が起こったのか、さっぱりわからなかった。
顔をあげる。ぼくの顔は泥だらけだ。
魔物はそんなぼくの、頭の上を飛び越して小道の向こうを走り去って行った。
「動くぞ」
彼女が言った。そして、手に持った拳銃が青色に輝く。彼女の対魔物用拳銃がその能力を発動した。
彼女の能力は『高速移動』。どんな場所でも、一瞬で行き来することができる。
着地するまでほんの数秒、まるで天から糸でひかれているかの如く、ぼくたちの身体は重力に逆らって宙を飛んだ。
「大丈夫か?」
水場まで戻って地面に降り立つと、グロリアがぼくに聞いた。
黙って何度もうなずく。思わず、もう一回やってほしい! と言いそうになった。
「ブルルオォォオォオオオオォン」
地響きと雄叫びが木霊した。戻ってくる。
「強い破壊力を持った相手と対峙した時、正面は危険だ。そういう時は、焦ってはいけない。まずは敵と距離をとること、これが大切だ」
グロリアは片目を閉じ、息を吐いた。
「どんな相手でも必ず弱点がある」
大口を開けた魔物が小道から飛び出してきた。
ドォンドォンと数発の銃弾を放った。
口の中を貫かれた魔物はその場で絶命し、黒い霧となってさらさらと宙を流れた。
グロリアは煙を吹いている銃を腰のホルスターにしまった。
「やったの?」
「ああ」
ぼくの問いに、グロリアはなんでもない様子で頷いた。
アンネが駆け寄ってくる。
「死んだかと思ったわよ。馬鹿ね」
グロリアは、ほとんど声を出さずに笑い、振り返って今度はぼくに手を伸ばした。
「立てるか?」
「ありがとう」
彼女の手を掴む。ぼくは今まで自分が尻をついていたことにも気づかなかった。
ぼくの身体を起した後、グロリアが人差し指でぼくの額を小突いた。
「わたしの言うことがわかっただろう。ここには危険が多い」
「……ごめんなさい」
彼女にまた迷惑をかけてしまった。
「オスカーには身を守る術がないのだ。十分以上に用心しろ」
グロリアの言うことは当然だ。ぼくは自分の身を守ることすらできない。だけど、
「だったら、ぼくも戦えるようになりたい。銃のこと、教えてよ……」
しかし、グロリアは困ったような表情をした。
「オスカー、銃と言うものは粗暴で危険な道具だ。オスカーには向いていないし、必要もない」
「…………」
「お父さんも、こんなものに頼ったことなど一度もない。わかるな?」
「……うん」
「そんな顔をするな。わたしが側にいる限り守ってやる。だから、離れるな」
ふと、空の隙間から日の光が差し込んできた。
「さて、もういい時間だ。そろそろ戻るとしよう」
そこに、イルシスも近づいてきた。
「グロリアはいいこと言うナ。そうだゾ、オスカー。君子危うきに近づからズ!」
アンネがイルシスを睨む。
「イルシス……」
「あははー、大物がいいっていったからナ」
イルシスは苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「冗談じゃないわよ!」
「二人が勝手なことばかり言うからだゾ! 狩りは文化! 神聖な行為なんだゾ!」
「あっ、待ちなさい!」
イルシスは飛ぶように逃げ出し、アンネは顔を真っ赤にしてそれを追いかけて行った。
「さ、オスカー。わたしたちも帰ろう」
確かに彼女の言う通りだ。ぼくに鉄砲なんて向いてない。
「…………」
冷たい空気の森の中をぼくたちは並んで歩き出す。目覚めたばかりの鳥たちがさえずりはじめた。
ドォンと大気を切り裂く音が響いた。驚いて見上げると、グロリアの銃から煙が漏れていた。
そして、ぼくたちの目の前に頭を失った鳥が落ちてきた。
「食卓に肉がないというのはマズいだろう」
グロリアが鳥の骸を拾って言った。




