その授業 魔物について
朝食はまた食堂でみんなが集まった。もちろん、魔物のことをみんなに話したが、「よくあること」その一言で終わりだった。
食事が終わると、彼女たちの通う学校に、ぼくもついて行くことになった。
グロリアが見学を勧めるし、どうせやることもなかったからね。
ぼくたちが入ったとき、大きな教室にはすでに十数人の子供たちが退屈そうに座っていた。朝早いせいか、みんな眠そうにしている。ぼくたちは、入ってすぐの最後尾の席に座った。
「変わってるわね。わざわざ学校についてくるなんて」
ぼくの隣に座ったアンネが言った。
「そうかな。勉強は好きだよ」
「信じられないわ」
アンネは口をとがらせた。
先生の教えてくれる様々な知恵は、ぼくにとって唯一の武器だった。どんな腕力や兵器も、知性に勝ることはない。でかい顔をしている馬鹿で間抜けな連中を、たった一言の正論で黙らせることができるのだ。これほど痛快なことはない。……まぁ、決まってあとから殴られたりするんだけどね。
アンネの向こうに座ったイルシスは驚くべき速さで「ぐー、ぐー」と舟をこきはじめた。何をしにきたんだ。
ぼくたちは三人で並んで座った。グロリアだけが居ない。
「グロリアは来なくていいの?」
「忙しいんですって。あれでも一応保安官だからね」
先生がやってくると、いよいよ授業が始まった。
屈強な身体つきのその男は、会衆席を見渡して、ぼくと目が合うと嬉しそうに顎を撫でた。
「おおっ、お前がオスカーか!」
彼も父の知り合いらしい。わざわざ大声で言った。
他の子供たちが一斉にぼくの方に振り返った。
「魔物に襲われたそうだな。尻を噛まれなかったか?」
一体何が面白いのか。がははと大口で笑う。
「お前が来てくれて本当に助かった。これで町も安泰だな!」
何やら勝手なことを言っている。
「いや、先生。ぼくは――」
「よし! せっかくだ。今日はオスカーの歓迎会にしよう。前にきてくれ、みんな拍手。拍手!」
ぼくの言葉は、先生の大声と拍手の音にかき消された。
さらに、彼に習うように子供たちも拍手を始めた。みんな、ぼくが前に出て行くのを待っている。
「アンネ、助けて……」
どうしようもなくなって、ぼくは隣のアンネに助けを求めた。
「さっさと行って、言ってきなさいよ。ぼくはこの町に居る気有りませーんって」
「意地悪なこと言うなよ」
「なによ。だったらこの町に住む気なの?」
「無理だし、嫌だよ。絶対やだよ!」
「無理なのか嫌なのか……」
ため息をつくと、アンネは教科書で机を叩いた。
一瞬で拍手が止まり、みんな固まった。
「先生、そんなくだらないことに時間を使わないでくれる」
「いや、しかしだな、アンネ。オスカーを歓迎しようと……」
「わたしはこんなグズのこと、どーでもいいの! ハッキリ言って嫌いなのよ!」
アンネの言葉に、先生はビクッと肩をすくめた。子供たちもゆっくりと前を向き直す。
教室は凍り付き、空気が止まったかのような錯覚を覚えた。
唯一、アンネはすっきりしたような表情をしていた。助かったけど、もう少しスマートなやり方が嬉しかったな。
「あー、すまんな。それじゃあ、今日は魔物について話をしよう。きっとオスカーにも新鮮で面白いはずだ」
先生が咳払いひとつして襟を正す。太い指でチョークを掴んだ。
黒板に毛玉の怪獣を描く。
「魔物だ。みんなはこいつをよく知っているな?」
先生は子供たちに聞いた。彼らは「はーい」と元気よく答えた。
「見たことは?」
「なーい」と答える。
「よしよし、わしはあるぞ」
子供たちがぱっと目を輝かせた。
「なんと噛まれたこともある」
そう言って腕をめくった。そこには大きな傷跡が残っていた。
子供たちは、わあっと歓声を上げた。
「噛んだこともな!」
くわっと大げさに口をあけ、その歯を見せた。
「ふふふ、まぁわしも若かったからな。あいつらはまずい。腐った馬の肉のような味がする。それにちっとも腹が膨れないんだ」
軽く話すには壮絶過ぎる昔話をしながら、先生はまた顎髭を撫でた。
「えーっと、かつてわしらが西部進出した時に、原住民たちと戦いがあったことは知っているな」
魔物の隣に棒を持った原住民の姿を描く。こちらもひどい出来だった。
「もちろんわしらの方が圧倒的に強かった。敵わんと察した原住民は、この土地に呪いをかけた。バケモノを呼び寄せやがった」
先生は原住民と魔物を○で囲んだ。
「まあ、わしらも悪いと言えば悪いのだろうな。開拓でずいぶん無茶をやった。原住民も追い込んじまった」
そして、原住民の上に×を書いた。
「結果、先住民は滅んだが、バケモノが残る厄介な土地になっちまった。わしらがここで生きていく限り、原住民の呪いは続く。やつらは常にわしらの命を狙っているのだ」
先生が声のトーンを落として言うので、子供たちはすっかり怖がってしまった。
「その時の原住民の言葉は今でも残っている。『お前らに業がある限り、この土地に平穏はない。お前らは自らに食われて死ぬのだ』ってな」




