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夜に穿つ縁の行方  作者: 一条 灯夜
真夜中の木曜日
31/39

2

 意外と言うべきか否か、夕飯は意外なほどあっけなく終わった。五十嵐についての追求は家族の誰からもされなかったし、若菜が『匠と同じ中学の友達』と言っただけで全てが片付いてしまった。

 後は普通に飯の話とか、どうでも良さそうな雑談だけ。

 まあ、両親祖父母にここまで信用されるのもどうかと思うな。

 ……いや、もちろん悪い意味で。

 俺が絶対にモテないと思っていやがるぞ、家の連中。


 釈然としないまま食事を終え、そのまま俺の部屋に――。

「はい、ストップ」

 これまでみたいに、俺の部屋で二十時ごろまで時間を潰すのかと思っていたが、部屋の襖を開けようとしたところで若菜に止められた。

「なんだ?」

「ただの後輩は、部屋に入れないの」

 いつの間に順番が入れ替わっていたのか、俺の後ろにいた五十嵐の肩を掴んで、俺に続いて部屋へ入る気でいた五十嵐の足を止めた若菜。

 五十嵐は……、ちょっと表情から心情を読むのが難しいが、残念そうにはしているように見えた。若菜は、調子に乗った感じと言うと語弊があるかもしれないけど、やっぱりな、みたいな顔で、私は正しいことをしたって感じの得意そうな顔をしている。

「じゃあ、どうすんだ?」

「道場で待機。座布団あるし、大丈夫でしょ」

 まあ、五十嵐が来るようになってから、見学のために座布団を持ち込んでいたので、尻が痛くなるようなことは無いかもしれない。でも――。

 それなら、居間から直に向かえばよかったんじゃないか?

 そう小首を傾げる俺に、若菜は含みがあるような視線で迎え撃ち、五十嵐は若菜にヘッドロック気味にじゃれ付かれ、苦笑いを浮べていた。


 どうも女同士の駆け引きって言うか、なにかはあるらしい。

 ……めんどくせぇ。

 って、そういうの顔や態度に出すと余計にめんどくさくなるか……ったく。

 そもそも、五十嵐だって、こんなの――とか、自分で言うと若干へこむが――に、惹かれはしないだろうに。五十嵐が来るようになって分かったが、若菜は変なところに独占欲のスイッチがあるみたいだな。


「なら、回れ右だろ。ほれ」

 部屋に背中を向けた俺に、五十嵐がちょっと不思議そうに聞き返してきた。

「匠先輩は、部屋に寄らなくていいんっすか?」

 そういえば、学校や道場に来るまでの道なんかでは五十嵐は俺を師匠と呼ぶが、若菜の前では匠先輩になってるな。まあ、師匠と先輩じゃどちらが上の表現か微妙なところではあるが、そういう部分で若菜に気を遣っているのかも。

 ふむ、と、一拍だけ間を空け、答えようとしたところで五十嵐が俺に背中を向けた。というか、若菜が回転したのでそれにつられて五十嵐も回れ右したんだが。

「いーの、たいしたモノ、無い部屋なんだから」

 と、若菜が言いながら俺を置いて歩き始めた。


 言おうとした言葉を飲み込んだので、ちょっと口を詰まらせて二人の背中を見る。

 はたして、この二人は仲が良いんだろうか?

 ……あまりそういう心の機微に疎い俺には察しきれない部分はあるけど、女同士の友情は男のそれとは別種の物であるということだけはなんとなく分かり始めてはいたので、口出しせずに俺は二人の背中を追いかけた。

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