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夜の山は、昼と違った空気になる。
街灯が無い暗さに対する恐怖だけじゃない。日が落ちた瞬間から急速に下がる気温のせいだけでも。大気の中に、ぬるっとした、まとわりつくような重さがある。……いや、そうしたおぼろげな感覚だけでもないな。
俺と若菜は、もう随分前からアレが見えているんだから。
「大人しく、寝て?」
不安そうな若菜の声がする。
俺は特に気にせずに、テントに背中を向けて地面に座り、空を見上げた。
日が落ちた紫の空に一番星を見つけられれば、後は早い。すぐに数えられないぐらいの星が浮かんで、辺りはいつの間にか自分の手のひらの皺を確認するのも難しいぐらいの闇に囲まれている。
「普段は俺より遅寝なんだろ?」
若菜は、テントの入り口から顔を出し、両手で俺の左肩をつかんだ。
外に出てくる勇気が無いんだろうと思う。テントの入り口を開けていたら、虫除けの効果も半減するのに。
「ねえ、寝ようよ。世間では、女子学生とはお金を払って添い寝したい人が沢山いるんだよ?」
俺は、そんな大人にはなりたくないので無視する。たまに、携帯にそういうサイトのメールも来るけど、わざわざ金払ってまで添い寝ってのもね。っていうか、良く知りもしない相手と密着して怖くないんだろうか? ちょっと伸ばした爪とかでも頚動脈は切れるのに。
返事をしないのは聞き逃したせいだと思ったのか、若菜にしつこく肩を揺さぶられているけど……。
「来たな」
微かな輪郭を目に留めて呟くと、若菜は弾かれたようにギュッと目と口を閉じた。けど、好奇心に負けたのか、一分ぐらい掛けて右目を開き、それからゆっくりと左目も開いた。
若菜の視線を追う。
今日は一匹じゃない。四~五匹の群れだ。
川をゆっくりと遡って山の頂の方へと向かって歩いている。
一メートル五十センチぐらいかな。そのぐらいの長さのやけに細い腕……というか、前足。そして、同じだけの長さの後ろ足。胴体と首は、普通の人間と同じぐらいのサイズに見える。鹿、に見えなくも無いが、まるで別種のなにかだとは分かる。
こんな真っ暗闇の中なのに、その輪郭がはっきりと認識できていた。発光しているわけじゃない。上手い表現方法が無いんだけど、幽霊の色っていうか、これまで見たどんな物の色とも違った、何色でもなくどんなものにも染まらない無の色をしている。
それに――。
透けているわけでもないのに、目を凝らしても、細部の輪郭までははっきりと認識できない。
ちなみに、見かける存在が、須らく今回のような形をしているわけじゃない。手足が細長くて蜘蛛みたいに動く人影のようなモノだったり、マッチ棒みたいな、生物で似たものが思いつかないナニカだったり。人間っぽいシルエットでも、よくよく見れば、大きさが普通の人の倍だったことも。
「っつ~! ……ん――ッ!」
若菜が、限界を超えたのか、テントから抜け出して俺の膝の上に座った。そっと背中を支える。縮こまっている時の若菜は……少しだけ可愛い。
俺と若菜は、勝手にだけどアレを鬼と呼んでる。他に、上手い呼称が思い浮かばなかったし。
幽霊……とは、また少し違うもののような気がする。人のような気配があるんだけど、もっと別の原始的な野生の動物のような気配の方が強い。
多分、俺達とは全く別の次元の存在なんだと思う。ファンタジー過ぎる設定なのかもしれないけど。ただ、向こうからなにかされたことは無かったし、こちらからの攻撃も通じない。近付こうとしても近付けず、打矢を投げてもすり抜ける。そして、攻撃した場合でも、鬼は俺達に見向きもしなかった。
俺と若菜には、見えてしまうというだけ。
「攻撃してこないって言っても、やっぱり怖いよ」
「そう?」
「うん。特に匠は、ふらふら付いて行っちゃいそうな雰囲気もあるし」
「なんだそれ」
軽く笑いながら若菜を見るけど、若菜の顔は真剣だった。……いや、怯えて強張っているだけかも。
初めてアレを見るようになったのは、小三の春休みだったっけ。
二人してパニックになったのも、今では良い思い出だ。慌てて家に帰って家族を引っ張り出しても、両親にはアレが見えなかった。祖父母は……ちょっとよく分からない。思わせぶりな態度を取られることが多かったけど、酒が入った時に喋っていた内容は、眉唾って言うか……どこまでが民間伝承で、どこからが真実なのか判断出来なかった。
「あんなのに付いて行って、どうするのさ」
少し呆れた調子で言う俺だったけど、若菜からは怒ったような声が返って来た。
「分かんないけど……。分かんないんだもん」
「なにが?」
若菜は、上目遣いに俺を見た後――頬を膨らませ、トン、と俺の胸に額をぶつけて顔を隠してしまう。
「匠のそういう所が」
こっちとしては、そういう所がどういう所なのか、全然分からないんだけどな。若菜の発言は、基本的に難解だ。……いや、先人の言に頼るなら、オトメゴコロとはそういう物という見方もあるのかもしれないけどさ。
ん――、とか、鼻を鳴らしながら夜の森を眺めていると、若菜にドンと胸を押された。仰向けに倒れるって程じゃないけど、状態は後ろに若干傾いでしまう。
いきなりなんだ、と、非難の目を向けるけど、若菜は怯えた目で俺の発言を遮って捲くし立ててきた。
「今日はもうテントに入ろう。ほら、寝るの! テントに入って! 入るんだよ? ったく、素直に、来いっての!」
鬼が森のどの辺に消えるのかを見届けたかったのに、今日もまた若菜は邪魔をする気のようだ。兄に甘える妹のような感じは最初だけで、最後は結局キレて俺を引き摺ってテントに入ろうとしているし。
もしかしなくても、俺の狙いが分かっていて邪魔しているのかもな、なんて思いながら――。
「寝るんだよな?」
枕元の、見た目だけは古風な電気式のランプの出力を最大まで上げた若菜に、ジト目で訊いてみる。
「明かりは消さないの! アレを見ちゃったんだから……」
昨日までよりも大袈裟な反応をしているのは、今日は大きさこそ小さいものの数が大きかったからかもしれない。二日前のはキリンのような鬼で、その前は、巨大なクモみたいな見た目だったけど、どっちも一匹だけだったし。
小さい虫が、ワラワラしているのを見てしまったような感覚なのかも。
「俺は真っ暗にした方が、寝付きが良いんだけど」
愚痴だけはこぼして、エアマットに寝転んでタオルケットに包まると、耳聡くそれを拾った若菜に倍返しされてしまった。
「バカ! 不意の夜襲に対応出来るように、豆球は点けとくんだからね! いつでも!」
言うだけ言った後、反論も待たずに、しれっとした顔で横になる若菜が、ちょっと面白くない。
明る過ぎて眠気が降りてこないのも面白くない。
……悪戯心が芽生えるまでの時間は短かった。
「なあ」
寝てないのは息遣いから分かっていたので、呼びかけてみる。若菜が即座に喧嘩腰で返してきた。
「なによ」
「こんな夏の夜の事なんだけどさ」
「うん?」
まだ俺の狙いが分かっていない若菜は、怪訝な顔を俺に向けつつも、話の邪魔をする気がないのか声を潜め、細い目で真っ直ぐに俺を見詰めてきた。
……ああ、怖いから、なにか話していられる方が安心するって心理なのかも。
そういう信頼を裏切ることが出来ると思うと……、若干にやけてしまう。
性根が悪いな、俺も。
「部活の後片付けに手間取って帰りが遅くなった生徒が、俺の学校に居たんだ。深夜ってわけじゃないけど日は完全に落ちていたし、家に帰って怒られるのも嫌だったから、その生徒は、普段使わない近道を通って帰ろうとしたらしいんだ」
「…………」
「遅刻しそうな朝はたまに使っている道だったらしいんだけど、不意に違和感を覚えて携帯のライトで辺りを照らすと、見覚えの無い木の塀で囲まれたような細い路地で『あれ? こんな道じゃなかったよな?』って首を傾げたんだって。それで――ッグ⁉」
唐突に若菜に脇腹を抓られた。しかも、話の切りが非情に悪い場面で。
目を細めて睨みつけると、若菜は目を見開いて怒ってきた。
「誰が! 怪談を話せっつった!」
若菜に抓られた部分を撫でてから――爪は立てられていないけど、恐怖もあってか万力みたいな力で抓られてた――、溜息を吐いて口を噤む。文句を言っても、言い返されるだけだ。今は。
だけど、一分もしないうちに若菜の方から話し掛けてきた。
「ちょっと」
「ん? って、な! なんだ⁉」
若菜が、エアマットをぴったりとくっつけて、俺の寝床の方に若干進入してきた。いや、若干で止まらなかった。自分のタオルケットを蹴飛ばし、俺のタオルケットを横にして、半分分捕って、自分の腹の上にも掛けている。
まあ、足を出して寝ても爪先が冷えるような気温じゃないし、それはいいけどさ。う、うろたえるだろ? 年頃の男子としては。
いや、相手が若菜だけどさ。許婚だけどさ! 小さい頃からずっと一緒の幼馴染だけどさぁ!
なにをする気だ、と、期待一割不安九割で若菜の様子を窺う。若菜は、俺の枕を引っ張って、枕の左端に頭を乗せたので、その影響で俺の頭は枕の右端まで追い遣られてしまう。
「途中で止められると、色々想像しちゃって余計に怖くなる。いつもなら、意地悪く全部話すんだから、言いなさいよ」
膨れっ面の若菜は、話さなかったら今度は俺の頬を抓るような勢いというか……目の前に突き出してきた指先の動きで威嚇してきたので、俺は再び溜息を吐いてから口を開いた。
「その生徒は、不安に思いながらも引き返そうとまでは思わずに、見慣れない道を進んでいたんだって。でも、しばらく歩くと、路地の先に今時珍しい木の電柱が見え、そこに備え付けられた電灯が、チカチカしながらだったけど見覚えのある道を照らしていたらしいんだ。そこで、その生徒は、安心したからか『なんだ、不気味だったけどなにも起こらなかったんじゃないかよ』とか呟きながら、路地を抜けたんだけど――」
若菜は素と言っていいのか分からないけど、ニュートラルな表情で、呆然と話を聞いている。怯えている素振りぐらい見せてくれても良いような気がするんだが……。ややつまらなく思いながらも俺は喋り続けた。
「チカ、チカチカと、明滅していた電灯が、いよいよ本当に寿命を向かえたらしく、バチッと切れて、あたりが真っ暗になったんだって」
話の流れに合わせてさり気なく枕元のライトに手を伸ばそうとするけど、それを敏感に察知した若菜に手の甲を叩かれた。油断しているように見えて、しっかりと気は張っていたらしい。
折角の演出が出来ない、と、不貞腐れた顔を向けてみるが、若菜の目はどこか虚ろで、怒り返してくる余裕さえも無さそうだった。
若菜が突っかかってこないと、こっちとしてもなんだか張り合いが無い。
「つ、続きは?」
そうしおらしく訊かれてしまうと、大人しく話すのもやぶさかじゃない。
演出できなかった分も込めて、感情たっぷりに俺は続きを口にした。
「翌日になって、いつまでも家に帰らない生徒を心配した両親が警察に相談したんだけど、未だに行方が分からない」
オチがいまいちだよな、とは俺もここまでの話を聞いた時に思った。
長い間一緒に過ごして来た若菜も、この話を聞いて俺と同じことを思ったらしく、急に表情が活き活きとし始めた。
「ふ、ふふん。バッカだよね、匠も。その生徒が行方不明なのに、どうしてその状況がはっきりと分かるのさ。子供だましの作り話に――」
調子に乗った若菜の顔を満足そうに眺めてから、俺は若菜の声に被せて後半を話し始める。
「その生徒が行方不明になって、ひと月ぐらい経った頃かな。その生徒の一番の親友のところに、行方不明の生徒からのメールが届いたんだって。帰り道、辿った道順。心の声をそのまま書いたようなメールが、一日おきに届いて……最後は、電灯の明滅のメールで終わっていたらしいんだ」
「ヒッ……」
若菜が息を飲む音が、テントに響いた。
若菜にもそれがわかったらしく――、外の鬼に聞こえるとでも思ったのか、自分の口を両手で覆っている。
……そういえば、今更だけど、こういう話をしていると寄ってくるんじゃなかったっけ? まあ、今更だけどさ。
「勿論、そのメールは警察や行方不明の生徒の両親にも伝えられて、ソレを元にその路地が探されたんだけど、そんな場所はどこにも見当たらなかったらしい。だから、悪戯としてそのメールも忘れ去られていったんだけど……」
「だけど?」
「最初の生徒が行方不明になった一年後、その親友もある夏の夜に忽然と姿を消したんだ。そして、最初の生徒と同じように、いなくなった道順のメールが更にその友達に送られてきて……。だから、俺の中学では、毎年夏に何人か生徒が消えているらしいんだ。常態化しちゃってるし、警察の捜査でも原因不明だから、町の偉い人の保身のため、事件そのものも無かったこととして処理されているんだって」
若菜の目尻が若干怪しい。歯を食いしばっているのか、頬が若干強張ってる。
クスリと俺は笑い――。
「もし、だよ? このランプが消えた時、俺達はこの場所にまだ居れるのか、ナッ⁉」
話をまとめにかかった途端、今度は首を絞められた。
しかし、急所である首を触られたので、反射的に肘を極めてしまい、一瞬で若菜の腕は引っ込んだけど……。
「キャ」
「キャー、か?」
悲鳴にしては短いし伸びもない声に首を傾げてみせると、若菜は勢い良く立ち上がって、拳を握って宣言した。
「キャンプファイヤーする。朝まで、煌々と!」
「寝ろ」
若菜の肩を掴んで――、まあ、成り行きとして、さっきと同じ位置に若菜を寝せる。
「寝れるか! バーカ、バーカ! あっ! 懐中電灯は? 手元に置いといてよ!」
荷物を漁ったり、打矢を枕元まで持ってきたりと、テントの中を忙しなく動き回る若菜。
しくじったな、ちょっと脅かすだけのつもりだったのに、非常にめんどくさいことになってしまった。
それから十五分後。
一頻り騒いだ後、俺の右腕をしっかりと掴んだ若菜は、ようやくタオルケットの中で大人しくなった。
が、やっと寝れるか、と、目を瞑ろうとしたところで、耳元で若菜に囁かれてしまう。
「っていうかさ。匠は、誰からそんな話を聞いたの? 男子がするような話とは思えないんだけど?」
怪談を聞いていた時とはまったく別の、冷え切った視線を俺に向ける若菜。
しかし――。
「そうなのか? 普通にクラスの口数の多い男が、自習かなんかの時に大声で喋ってたんだけど」
期待を裏切る? と、いうと語弊がある気がするが、若菜の予想に反し、俺にそんな怪談を聞かせる異性の友人はいない。
っていうか、必要以上にクラスメイトと仲良くする気もないんだよな。体育会系の男は、格闘技をやっているって知ると、ふざけ半分で殴りかかってきたり、勝負だとか騒いだりするので大嫌いだったし、女子は女子で俺を怖いと思っているのか、必要以上の会話をしたことも無い。
若菜と違って、俺はそんなに社交的じゃない。若菜以上に俺を知っている人間は居ない。
「真っ暗じゃないから……近付けば、嘘吐いてる顔なのか、分かるんだからね」
不貞たような声の後、若菜の顔が、十センチぐらいの距離まで迫ってきた。息が、少し掛かる。ランプの色が橙のせいか、若菜の顔色までははっきりと分からないけど、どこか作り物のような不機嫌が若菜の顔に浮かんでいる。
若菜は、長い時間俺を見つめていたけど、俺が嘘を吐いているかどうか、口にしなかった。
嘘じゃないと理解してくれたのかどうかは、分からない。
でも、別に、どっちと受け取られても良いか……。
「若菜は、さ」
「ん?」
まさか反撃されると思っていないのか、無防備な表情が目の前に迫る。
「男子がなにを話すか、分かるんだ?」
皮肉っぽい笑みを口の端に乗せ、冷めた目を向ける。
男子がしそうに無い話と推理したってことは、こういう話をしない男子が若菜の身近にいるんだろう。
そんなのは、別に、俺がとやかく口出しするようなことでもないけどさ。若菜が誰と仲良くするか、なんて。
「……悪いの?」
「別に。若菜の自由だよ」
俺達は、従姉妹で――ただの許婚だ。昔からずっと一緒にいる幼馴染だけど……恋人なんかじゃない。
「なんか、ムカつく。その言い方」
咎めるような目で俺を睨み、本気で怒っている時の声を出す若菜。
「そう?」
正面から受けてたっても、無駄な労力が掛かるだけなので、俺は適当にはぐらかした。
若菜は、軽くあしらわれたことには気付いているみたいだったけど、寝る前だったし言い争う気分でもなかったのか、案外あっさりと引き下がっていった。
「そうなの! だから、もう言わないでよ。私に、……関心がないみたいなことは」
ふん、と、鼻で答えて、若菜に背中を向けようと寝返りをうとうとしたが、若菜に肩を強く捕まえられた。ほっそりとした若菜の指が、骨に食い込みそうなほど強く俺の肩を握っている。
「私は、ね。ただの許婚だけど、匠が、他の女の子と仲良くしてたら嫌なんだ。自分がされて嫌なことを、私が匠にするわけ無いじゃない」
若菜の額が、俺の額とぶつかる。顔と顔の距離は十センチ未満だ。もっとも、『私が』にアクセントを置いておく辺り、若干悪意があるようにも感じてしまうけど。
「……悪かったよ」
意地を張ることでもなかったし、俺は折れた。
うん、と、頷いた若菜は握っていた俺の右手を一度離し、次の瞬間、指を絡めて恋人繋ぎに握りなおしてきた。素直に、指を絡めて握り返す。
「ソクラテスも言ってたじゃない。悪法も法なり、って。勝手に破ったら、ダメなんだから、ね」
ちょっと眠くなってきているのか、若菜の声が少しぐずっているような調子になっている。いや、繋いでいる手もかなり暖かいし、この話も明日には覚えていないんだろう。
起きてようとする時ほど、ちょっとした睡魔に引き摺られる。まったく、アレだけ騒いだくせに、結局先に寝付くとは、ずるいヤツだ。
息を潜め……若菜が眠りに落ちていくのを静かに見守る。薄く開けられていた目が閉じ、タオルケットのふくらみが規則正しく上下し、握られている手に掛かる力が抜けやや重みが増す。
若菜が完全に寝入ったと確信したから、更に呼吸三つ分の間を空け、俺は小さく囁いた。
「若菜、本当は、ソクラテスはそんなことを言わなかったって知ってた? 悪法も法なりは、教師が生徒に命令するための方便さ。日本以外の国じゃ通じない。ソクラテスは、ただ生きるのではなく、善く生きると言って、自分の哲学に従ったのさ。……だから、俺は――」




