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2-2.(終)

ちょっと短いです

 この国では二年に一度、全ての爵位持ちの人を集めた王宮主催の夜会があるらしい。出席者は各家の当主夫妻と直系の十五歳以上の家族たち。当主夫妻の出席が義務で、家族は任意だとか。通称王宮大夜会。

 ちなみに開催されない年は伯爵以上の爵位持ちの人たちを招いた夜会があるので、伯爵以上の人たちにとっては毎年王宮主催の夜会がある、という事らしい。こちらの通称は、王宮夜会。

 明人がもらったのは男爵位なので、隔年での参加となる。

 その私たちが参加する夜会が、約一年後にあるらしい。正確には十カ月後。

「でもまだ先の話でしょう? 気が早すぎない?」

「遅いぐらいだ。よく考えてみろ。全貴族が対象なんだ。対応できる店や人員は取り合いになる」

「あ……そっか」

 こちらの世界は基本オーダーメイドだ。手作りの夜会用衣装一式。……うん、なんの伝手もない私たちが直前で用意出来るものではない。

「俺も今日職場で話題になって焦った。同僚の伝手がある店の紹介状をもらったから今ならどうにかなるらしい。普通は家に来るらしいけれど、それは嫌だと言っておいた」

「あ、うん。ありがとう」

 グッジョブ。顔も名前も知らないけれど、同僚さんありがとう。

「というか、出席すること自体に問題はないのか?」

「だって、義務なんでしょう?」

 あるいは権利。憧れる人は少なくないだろう。

「そうらしいな」

「だったら義務は果たさなきゃ。年金や特権を使わせてもらってるのに義務は果たさないなんて道理が通らないじゃない。予算はあまり多くとれないけれど、まあなんとかなるわ。指輪は来年になっちゃうけど」

 それに興味がないと言ったら嘘になる。

 一応、これでも女なので、憧れというか、見てみたい。うん、参加したいではなく、見物したい、だ。

 ちなみに私が一番ありがたいと思う特権は、図書館の優先利用だ。

「私たちなんて、末端も末端でしょ。出席するだけで壁の花やって帰ればいいし」

 何よりも。

「アキの盛装が見たいの」

 これが大事。絶対、眼福だろう。明人の盛装が見れるなら、多少の事は頑張れる。

 明人の盛装は周囲の目を引くことも、その隣に立つの私だと見劣りする事も、確実だ。

 でも観たい。

 そして隣に立つのを誰にも譲りたくない。

 そう思えるなんて、日本にいた頃を考えると随分遠くまできたものだ。当時は隣に立つなんてとんでもない、どなたか望む方どうぞ、的に逃げていたのに。

 まあ、貴族が集まる場所だから気が楽、というのもある。

 何せ家を継いで栄えさせるのが役目の人たちにとって、明人は『おいしい』人材ではない。渡り人で、皇太子の物好きで催された大会の賞品で爵位を賜っただけの、ぽっと出のなんちゃって貴族だ。これが伯爵とかなら話は違うかもしれないけれど、男爵。見栄えはとてもするけれど、それだけで家は栄えない。接点を持とうと躍起になる相手ではないのだ。独身だったら裕福な商人とかが地位を得るために、とかあるかもしれないけれど既婚だし。出席者は貴族の場だし。その他大勢の賑やかし要員としての出席だ。うん。大丈夫。

「……そこ?」

「うん。今から凄く楽しみ。まずは買い物の時に試着するかしら? アキのことだから、似合わない訳ないわよね」

「男なんてたいして着飾らないだろ」

 明人はつまらなさそうにため息をついた。本人的にはそうでも、私は楽しみなんだってば。

「でも普段とは違うもの。とにかく楽しみだわ」

 ふふふと笑いがこみあげてくる。髪や目の色にあわせて、基本は黒かしら。黒燕尾とかも似合いそうだし、絶対いいはず。

「……。まあいいけどさ。それより、食事の前に、指フェチかもって言ってただろ」

「え? うん」

 突然の話題変換に戸惑いつつも事実だったから頷く。

「誰のでもいいのか?」

「まさか。貴方だからいいのよ」

「ふぅん? 指だけ?」

「……ち、違うわ」

 その聞き方は卑怯だ。違うとしか答えられないじゃない。

「それって指フェチじゃなくて、ただの俺フェチじゃないか」

 ……。

 一拍おいてから、顔がというか全身が真っ赤になる。

「な、な、何恥ずかしいこと言うのよ!」

 指が素敵。仕種がかっこいい。無駄に色気を垂れ流している表情に目を奪われる。均整のとれた体躯がたまらない。素肌に触れて、触れられるのが好き。着飾った姿も見たい。

 ……自覚なかったけれど、どう考えても明人フェチです。否定なんて出来ません。はい。

「恥ずかしいのは先にお前が言ったんだからな。仕種がいいだのきゅんきゅんするだの。普通に言われてどうしよう……いや、どうしてくれようかと思ったぞ」

 淡々と返されて、ああ、と呻く。

 雑談のなかで本人に告げる内容では決してない。指摘されるまで気付かないとかどれだけ間抜けなの私……!

 顔を見せたくなくて、明人の肩に額を押しつける。

「ご、ごめんなさい……」

 ちょっと待って。さっき明人は『どうしようか』じゃなくて『どうしてくれようか』と言わなかった? なんとなく身の危険を感じる。……どうやって逃げようかな。いや、逃げられるかしら。そもそも私は逃げたいのか。

「まあ俺は美弥フェチだから、いい感じにバランス取れてるんじゃないの」

「どんなバランス……」

「それはそうとマニアじゃなくてフェティシズムってことは、それなりに性よ」

「本来の意味じゃなくて、もっと軽い意味よ!」

 いきなり何を言い出すのか。思わず顔をあげて最後まで言わせてなるものかと叫んでしまう。

 フェティシズムの正しい意味の一つは変態とか異常な性欲。それぐらい知っているけれど、断じてそんな意味で使ったのではない。日本人の使う『フェチ』はもっと軽い意味のはずだ。そんなことぐらい明人だって分かっているはずなのに。

「それは残念」

 至近距離で視線があう。にやりと笑った明人は悪い顔をしていた。顔をあげさせる為にわざととんでも発言をしたのだ。そう分かったところで、遅い。

 顎に指をかけて、うつむけないようにされる。

 視線に物理的な力があるように、絡め取られて動けない。なんだか動悸が激しくなってきた。密着しているのできっとバレている。

「……な、何?」

 そのままじっと見られて、先に白旗をあげたのは私だった。もっとも、最初から勝負にすらなっていないけれど。

「いいな、と思って」

 何が。

「前はお前のこと猫っぽいと思ってたけど、訂正する。猫より犬だ」

 もしもし?

「……そもそも私は人間なんですが……」

「喩えだよ。それだけ無自覚に全身全力で好きって示されると、嬉しいもんだ。そういう再確認」

 上機嫌なのを隠さずに言われても。どうしろと?

「そう……。アキが嬉しいならそれでいい……のかしら?」

 さようでございますか、としか言いようがない。

 明人が言っているのは事実だけど、全力で示しているかと言われても自覚がないので「そうなの?」としか。あ、無自覚って言われたから当然か。

 まあ確かに、愛されてるって実感すると嬉しいものだ。少し面映ゆいけれど、心地いいくすぐったさだし。

「それでいいんだよ」

 そのまま唇をふさがれたので、返事は出来なかった。


読んでくださってありがとうございます。

・せっかく異世界なんだから夜会書こう! → 前フリなしもなんだしな。

・猫じゃなくて犬

を書きたいがためのお話でした。

短いですがここまで。まあ膨らませるようなテーマでもないですし。

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