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イケメンの従兄(夫)と異世界で暮らしています  作者: 水色うさぎ
1. 夫に愛され過ぎて困ってます。
3/19

1-3.


「それで? なんで俺のところに」

 頭を抱えそうになっているのは毎度おなじみの隊長さんだ。

 ティアが向かったのは魔法騎士団の詰所だった。慣れた様子で隊長さんを呼び出してもらうと、逆に執務室に案内されたのだ。

「他に相談出来る人がいなくって」

 悪びれず、ティアは言う。この二人の関係性が分からなくて、挨拶以外どうにも口を開きづらい。

「叔母と結婚したのがこの人なんです」

「なるほど」

 そんな私の困惑を察したのか、ティアが振り返って説明してくれた。

 ティアは叔母の伝手でここで働くようになったと言っていた。その伝手が、つまり隊長さんということか。

「お前は休みでも、俺は勤務中なんだぞ」

「いつもサボってるじゃないですか」

「要領よく仕事をしていると言ってくれないか」

 気軽なやりとりに、二人の仲はいいのだと理解した。

 ちなみに私たちが訪れた時、隊長さんは机の上に足を投げ出して新聞のようなものを読んでいた。大変仕事熱心な姿だと言えるだろう。この人はブレないなぁ。

「それはともかくとして、ミィアさんがお仕事を探しているそうなんです。何かありませんか」

「はあ? 仕事って、別に必要ないだろう」

 やはりそういう認識ですよねー。

「見識を広めようかと」

「あんたさぁ、真面目に物事考えすぎじゃないか。人生、もっと気軽に生きたほうがいいぞ」

「そうですかね?」

 真面目……うん、まあ「大人しくて真面目」は学生時代の私の評価ではあった。それは目立たず何も問題を起こさないという意味であって、優秀という意味ではない。だから言われ慣れている表現ではある。

「放っておくと斡旋所に行きそうだったのでさすがにそれは、と思って連れてきたんです。褒めてくれていいですよ?」

「あー、たしかに駄目だな」

 がしがし、と隊長さんは頭をかいた。

 斡旋所ってそんなに駄目なのか……。だったら何故あるのだろう。彼らから見て『駄目』でも、必要とする人はいるってことかな。職に就くだけでも格差社会なのは、程度の差はあれどここも日本もかわりない。

 椅子をすすめられたので、ありがたく座らせてもらう。

「働くって言ったってなぁ。そもそも何が出来るよ」

 いい人属性発揮りまくりの隊長さんは、なんだかんだで話を聞いてくれるらしい。

 しかし、何が出来るのか。

 それはとても難しい質問だった。パソコン操作やプログラミングなんてこの世界で何のアピールにもなりはしない。料理は家庭料理の域を出ないし、洗浄の魔法具が浸透しているこの世界では皿洗いという仕事もない。

「簡単な計算とか書類整理でしょうか。あとは家事一般なら多少は……」

「……」

 隊長さんは黙りこむ。やはり出来ることのアピールとしては弱いか。計算や書類整理なんて誰にでも出来るしねぇ。

「出来たら、四の鐘から五の鐘ぐらいだけで、毎日じゃないといいな、とか……」

「そりゃあ都合よすぎだろう」

 呆れられて、やはりかとため息をつく。

 何も出来ない小娘(?)が、少しだけ働きたいとか、我が儘だよねぇ。世の中そこまで甘くないか。

「来るのは最低五日の内三日以上。時間はあんたの希望通りでいい。最初は文官見習い扱いだからたいした金は出せないが、かわりに魔法具の現物支給ぐらいなら有る。まずは一月の仮雇用。そんなところでどうだ?」

「はい?」

 どうって、何が?

「あんたの条件はうちにとって都合がいいんだよ。だからここで働かないかと言っている」

 思わず隊長さんを凝視する。

 都合がいいって、そっちの意味?

「要するにな。今、うちはあんたの旦那のおかげで人手不足なんだよ」





 隊長さんの語る理由の一端は、私も関係のない話ではなかった。

 一年ほど前に、ここ魔法騎士団の隊長の一人が犯罪に手をそめていることが分かり、処分された。

 行い自体は以前からのものだったけれど、犯罪をつきつけたのは明人だった。明人は義憤にかられての行動ではなく、私が関係していたからの事だった。

 そこまではいいとして、元隊長一人での行いではなく、隊の半分以上が関わっていたため連帯責任をとらされたという。

 では新しい人材を、となるのだけれども、ここは魔法騎士団という特殊な団体のためそう簡単にはいかないのだそうだ。

「うちに入団出来る条件はある意味シンプルだ。魔法が使えること」

 団名に「魔法」を冠している以上、魔法を使える人材であることは必須なのだろう。ちなみにこの世界で魔法を使える人の大半は貴族と聞いている。

「ただなあ。あんまいないんだよなー。特にイルクートを処分したあとだから、あの家の関係のやつは無理だし。だから今いる団員でどうにか回すしかないんだ」

 イルクートというのが、処分された元隊長だ。

「それは分かりますが……なんで私が? 私は魔法なんて使えませんよ」

「知ってる。渡り人は魔法を使えないのが定石だ。いくらなんでもあんたや、あんたの旦那でも無理だ」

 明人の非常識さを私にまで拡大適用しないでください。

「なかなか人材がいなくても、新しく入ったやつらはいる。そいつらを使いものになるよう鍛えなきゃならん。同時に今までやってきた業務も滞りなくこなす必要がある。元からいる団員はかなり激務なんだ。分かるな?」

「……そうでしょうね」

 隊長さんの言っていることは納得できる。素直に頷けないのは、ここを訪れた時の態度があれだったからだ。

「そういうしわ寄せが、全部事務仕事に押し寄せてくるんだ」

 隊長さんは特大のため息をつく。

「魔法や魔術、渡り人関連の出来事は全部うちなんだぞ。それらはこっちがどれだけ忙しかろうとおかまいなしにやってくるんだ」

「こちらから予定をたてられないということですね」

「そうだ。今日は一日、たまった書類を片付けようと思ったところで、すぐに問題が起きただのなんだのと呼びだされて一向に片付きやしない」

 うん。分かる。

 保守とかヘルプデスクとかやってると、予定通りに進められるシステム更改はいいのだけれど、問い合わせなんかは来るときは来るし、来ない時はこない。そういうお仕事だから当然なのだけれど、予定をたてるという一点においては非常に難しいのだ。ここも同じらしい。

「だから事務仕事専門が欲しい。他の仕事に引っ張られないやつがいいんだ」

「専門の役職を設ければいいじゃないですか」

「やったに決まってるだろう。でも出来る以上は他の問題に引っ張られていくんだよ」

 舌打ちしながら隊長さんは言った。ああ、これは相当ストレス抱えてるなぁ。

「ティアたちに手伝ってもらうとか?」

 隣でティアが慌てて首を横にふっているのが見えた。

「無理だ。こいつらは団員ではない。見せていい書類なんて殆どないんだ。こいつらの仕事は、ここを快適な環境に整えることだけ」

 なるほど……。隊長さんやシェイラは、魔法騎士団の一員。ティアは魔法騎士団に雇われている人。同じ場所で働いていても違いはあるのか。

「大変な事情は分かりましたが、でも私では入団資格を満たしていないことに変わりはありませんよね?」

「入団条件には一つ例外があってな。渡り人であること、ってのがある。なんでかというと、渡り人や招き人の管轄がうちだからだ。元からこの世界に生きている俺達では分からないこともあるだろうってことだ」

 なるほど。

「というのは建前で、使えそうな渡り人は囲っておこうって仕組みだな」

「ぶっちゃけ過ぎですよ!」

 分かるけどさぁ。

「まあ規則は規則だ。本音がどこであれ適用できる。つまり渡り人扱いのあんたなら、入団資格はあるんだ。そしてどこからどうみても現場向きでないあんたなら、裏方専門でよそに引っ張られない」

 本音過ぎる……。

「そんなに大変なら、毎日朝から晩まででなくていいんですか?」

「最初は教えなきゃいかんだろ。ずっと張りつかせるだけの人員なんざいねーよ。いたら困ってない」

 納得しました。はい。

「まあ入ってもらって使えないと判断したらそこまでだが。だからこその仮雇用だな」

 それは当然だろう。一カ月ほどこちらでお世話になっていたので団側は私のスペックはおおむね把握している。それでもいざ働いてみると想定外のことがあるかもしれない。

「夫に相談してみます。返事はいつまでにすればいいでしょうか」

「五日以内だな」

「分かりました。ティアも、ありがとう」





 鍵があく音に続いて「ただいま」という声が聞こえた。

 明人が帰ってきたのだ。

 ただ、今朝のことがあるからかいつもより声は低い。正直なところいつも通りの時間に帰ってきただけでも驚いた。ほら、やっぱり帰りづらいじゃない。

 とはいえ、私までテンションが低いのにつきあうつもりはない。

 リビングとして使っている部屋に明人が姿を見せたので、ことさら明るく振る舞った。

「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも、」

 いきなり何を言い出すんだ的な視線をスルーしながら言葉を続ける。

「私の話を聞いてくれる?」

 明人の鳩が豆鉄砲をくらったような顔、という貴重なものがみれた。

 吹き出しそうになるのを必死でこらえる。ここで笑ったら、明人は確実に拗ねる。こんな顔でもかっこいいのだから、ずるいと拗ねたいのはこっちだというのに。

「……なんでそうなるんだよ」

「何故って、そりゃあ今朝の話の続きしなきゃいけないからよ」

 明人が言いたいことは分かっていたけれど、気づかないフリをしておいた。

「そうじゃなくて。この流れだったらラストは違うだろ。俺としては、日本の古きよき伝統は守ってほしいところだな」

 帰宅当初の様子はどこへやら、明人も普段の調子で返してくる。お互い気詰まりな雰囲気は遠慮したいのだ。それにしても古きよき伝統って。

「多少のアレンジは必要でしょう?」

「これに関しては不要かな。……おいで」

 ソファに座った明人に手招きされたので、隣に座る。すると、すぐに抱きしめられた。

「どんな顔して帰ればいいんだとか考えてたんだけどなぁ……参った」

 表情は見えないけれど苦笑しているのが分かった。

「私の勝ちね?」

「はいはい」

 はいは一回にしましょう。

「勝利給はどうする? 美弥の希望を一つ叶えるとか?」

 遠回しに、今朝喧嘩した案件の譲歩を提案される。

 これが明人が今日一日考えた結論か。


読んでくださってありがとうございます。

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