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4-2.



「質問なんだが」

 会議で発言を求めるように、右手を軽くあげて明人は言った。

「……何よ」

 怒ってるんだから、というアピールではないけど。唇をとがらせて応じる。

「おまえが怒っているのは、何に対してなんだ? 今日はちゃんと見えない服だっただろう?」

 最近の私の服はすべて明人が選んでいる。ちなみに評判はものすごくいい。……それはそれで己のファッションセンスとか女子力に思うところはあるけれど今はおいておく。

「普通に立ってたら見えないけど、書類抱えたりしたときに見えちゃうのよ」

「あー……それは気づかなかった。すまん」

 すんまりと謝られると、嫌でも落ち着いてくる。とはいえ……。

「お言葉を返すようだけど。アキのごめんは何に対して? これをつけたことじゃないよね?」

「見られたことだよ」

「……それだけ?」

「そりゃあ、少しは悪いとは思ってるけど」

 でも少しなわけね。そう。ふーん。

「あ、そうそう。これが見えちゃったことがトドメでね。魔法騎士団ではアキはDV男扱いになってるからね」

 別にそこまで言われてないけど、拗ねモードのまま、少し盛って言った。

「…………なんで?」

「ご飯の準備してくるから、着替えてきたら」

 立ちあがって、台所のほうに歩……こうとしたら、引きとめられた。おなか周りに腕をまわされる……腹はやめて……。

「ちょっと」

 ぺしぺしと腕をたたいても効果なし。

「ちゃんと話をさせてくれ」

 耳元で話しかけるとか卑怯だ。私がそれに弱いの知っているでしょう?

「分かった、分かったから離して!」

「ん……」

 離してと言ったのに何故腕に力をこめるのか。

 って、ちょっと待って。

「アキ、あなた熱があるんじゃない?」

 伊達に毎日イチャついていない。うん、間違いない。確実に体温がいつもより高い。それも、かなり。

「そうか?」

「そうよ」

 力が緩んだので振り返っておでこをくっつけた。

「えっと……どうすればいいんだっけ。とりあえず横になって休んで。お腹すいてる? 何か食べれそう?」

 ああ、もう。何故ここにはお米がないのか。お粥が作れない。じゃあリゾット? いやあれもお米だ。落ち着け私。

 薬は……ない。冷却シートもない。体温計もない。

 あれ。本当に、どうしたらいいのだろう。お医者さん? でもどこにいるの? こっちの世界に来てから、体調を崩したことのない健康優良児二人だったので、心当たりがない。それにここの医療って?

「落ち着けよ」

 あれ、えっと、と繰り返す私を見かねたのか、病人のはずの明人に苦笑された。

「ちょっと体がだるいだけだから。水くれるか」

 水。そうか、欲しいよね。何故今まで思いつかなかったんだろう。何か出来ることを提示してもらえてほっとした。

「うん! 待ってて」

 駆け足で台所に行き、コップに水をくむ。足りるかな。でもまずは一杯だけでも。

 ソファに戻ると、明人はぐったりとしていた。

「朝は普通だったんだけどなぁ」

 出来る限り”なんでもない”様子を見せようとしてくれているのが分かる。

 病人に気遣いをさせるなんて、私は一体何をしているのか。

「そうね」

 だから私に出来るのは、少しでも落ち着くこと。逆に心配をかけるなんてとんでもないことだ。

 コップを手渡して、飲む様子をじっと見守る。

「あまり見られると、ゆっくり出来ないんだが?」

 ……全然落ち着けてなかった。




 少しは胃にものをいれたほうがいいだろうから、消化のよさそうなメニューを作った。というかスープだけど。ある材料で、出来るだけ栄養価が高くて消化のよさそうなスープを作って居間に持っていく。私が食事を作っている間に明人は部屋着に着替えていた。

 帰宅直後より表情が柔らかくなっているので、やはり家は寛げる場所なんだろう。

「あーん、ってする?」

「いらん。それは健康な時にやってくれ」

 悩む余地なく却下されてしまった。健康な時にはしません。

「じゃあ、」

「あのな、美弥。知ってるだろうけど、渡り人は病気にならない。今日のは少し疲労が出ただけで、休めば治る。だからそこまで心配しなくていいんだ」

 余程挙動不審だったのだろう。隣に座る私の頭をぽんと軽く叩きながら明人は言った。

 そんなこと、知っている。

 渡り人に関することは、私が勤めている魔法騎士団の管轄だ。だから業務知識でもある。

 私たちがかつて居た日本と、今いるここは、違う世界だ。国が違うでもなければ、SF小説みたいに違う惑星に人がいた、的なことでもない。日本がどの地図にも存在しない世界だ。暮らす人々は、一部の人が魔法を使える以外は何も変わりない、同じ人類でもある。

 けれど言語が違う、文化が違う、気候も違う、生態系も違う、風土病だって違う。

 それらの違いを、世界を渡ってくる時にクリアするそうだ。単に言葉が自動翻訳されるだけではなく、こちらの世界の病原菌に対する抗体をもつようになったと思われる、らしい。

 渡り人の保護や監視を含めて長年携わってきた魔法騎士団が、そう考えるのが妥当であると結論づけたのだ。おそらく間違ってはいない。でなければ初めての土地で二人揃って一年以上も病気一つしたことがないなんて考えられない。逆に、元の世界の病原菌も持ち込まれないそうだ。そうでなければ、とんだバイオテロになってしまう。

 言葉の翻訳ほど実感はしづらいけれど、かなりありがたい恩恵だろう。

 でも、怪我はする。老いもする。……いつかは死ぬのだ。

 人はいずれ死ぬものだ。それは分かっている。でも若返った……つまり何事もなければあと二十年近くは生きた経験があるから、まだ遠い未来のこととしか捉えていなかった。根拠もなく、四十手前のあの年までは生きられるのだと。けれど、そんなことはない。

 不意に、なんの前触れもなく、大切な人の命が失われることを私は経験している。本人に落ち度はなくてももたらされることがあることを。

 両親の命を奪ったトラック(よくよく考えると私たちもそれが原因だったので……嫌な一致だな)は、この世界にはない。でも剣と魔法の世界だ。身分制度もある。日本ほど平等に命を法律で保障されていない。

 心臓をぎゅっとつかまれたような恐怖を覚えた。

「……ええ、そうね」

 だからといって恐怖をそのまま伝えたりはしない。万全の体調の明人になら言えたかもしれないけれど、少なくとも今の明人には無理だ。

 第一、この恐怖は明人のほうがずっと先に感じている。まだ何がどうなるか全然見当もつかなかった頃、こちらの世界にきたばかりの頃に倒れたのは私だったのだから。

「ところでさぁ」

 いつもより温度の高い吐息で囁かれると、心配半分、トキメキ半分だ。

「何? お水のおかわりいる?」

「なんで俺がDV男になってるんだ?」

 そういえばその話、していたよね。明人の体調不良のせいですっかり忘れていたけれど、当の本人は忘れてなんかいなかった。

「あー……それは、まぁ……ちょっとした言葉の綾といいますか、ね? 忘れてちょうだい」

「一度聞いた以上、忘れるのは無理」

 デスヨネー……。

「じゃあ元気になったら」

 思い返せば、微妙な言い回しは体調不良のせいだっただろう。普段の明人ならあんなこと言わない。気付いていなかったとはいえ、DVは言い過ぎだと反省しておく。

「今聞きたい」

「ちょっ、重……っ」

 押し倒すというには色気のない感じで、のしかかられた。

「美弥の体、冷たくて気持ちいいのな」

「アキの体温が高いだけでしょう!?」

 反論はない……ていうか……

「寝てる?」

 え、このまま? 余計体調悪くなりそうな……それに私が重いし大変だし……ああでも明人がすやすやと寝てるのを起こすのもなんだよなぁ……。どうしよう?





更新遅くなったのは某怪獣映画……いや会議映画? を見た所為です。まだ三回しか見れてません。もっと見たい……。

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