1-1.
前作にたくさんのブックマーク、評価ありがとうございました。その後の二人……ですがまだ明人は名前だけです。
夫に愛され過ぎて困ってます。
そんなこと聞いたら「あ、そう」と流すか、「何いってんのこの人」的視線を向けるか、「惚気を聞くつもりはないですよ」と返すか。
これまでの私なら、いずれかをしていた。
でも今の私なら「それは大変ですね」と心の底から同情して、そして同意するだろう。
惚気と言われようが、なんと言われようが、度を越した愛は、重い。
さすがにウザイとは言わないけれど、でも重いのです。
「はあ……そうですか」
正面に座る女の子が呟く。引いたのを隠そうとして、でも隠しきれずにいる
彼女はティアといって、私が魔法騎士団にお世話になっている時によく話しかけてくれた心優しい娘さんだ。
私が一般人(?)になってからも、時々会ってお茶をするぐらいには、人懐っこい。そんな彼女が引く気持ちはとてもよく分かる。私だって、言われた立場だったら失笑して聞かなかったことにしてしまいたいのだから。
今日は彼女が休みなので、お茶しませんかと誘われて街中にある最近人気の(ティア調べ)喫茶店に来ていた。
先ほど『魔法騎士団』なんてやたらファンタジーな名前が出たように、ここは日本ではない。日本どころか地球上、私たちの知る宇宙のどこかですらない。
要するに『異世界』だ。それも剣も魔法もあるファンタジー全開な世界。しかもその異世界では、違う世界から人がやってくるのは知られているらしい。珍しくはあるけれど、そんな現象が発生しうるのは聞いたことがある程度だとか。渡り人、なんて呼称すらついている。
その異世界の、スウォル帝国という国にやってきて保護されたりなんだかんだして、そろそろ一年が過ぎようとしている。
この一年、特に最初の二カ月ぐらいは色々あった。
異世界にやってきたのは私、工藤美弥だけではない。今は夫となった従兄の工藤明人も一緒だった。従兄といいつつ、一緒に育ってきたので家族同然の相手だ。
明人というのは、一言でいえばハイスペックなイケメンさんである。顔よし、頭よし、運動よしと、神様が二物どころじゃなく与えた人だ。どこをどうとっても平凡な私と何故従兄妹なのか、理解に困るほどだ。
嫉妬というか劣等感をどうしても抱いてしまう明人と訳の分からない場所に一緒にいるのが不思議で複雑だったけれど一人ではなくて助かったのは事実だった。頼れるという点では、明人以上に信頼出来て力になってくれる人を、当時も今も、私は知らない。
そんな明人に実はずっと昔から好きだったとか言われて、最終的には落とされた。家族から恋人にクラスチェンジだ。いや、恋人通り越して、夫婦になっている。正直なところ、これだけでもう許容量オーバー気味だった。その時点で私のスペックについては察していただきたい。
元々『家族』としては大切な相手だったので、一度恋愛対象に切り替わると、我ながら馬鹿だなぁと思うぐらい明人大好き人間になっていた。私って単純。傍から見たら単なる馬鹿っぷるになっていただろう。自覚はあります。はい。
それはさておき、最初に私たちがいたのは人が誰もいない場所で、途方にくれた。
とりあえず人を探して移動を始めたところで、シェイラという女性とマガトという男性の二人に会った。
彼らに会ってからは怒涛だった。
どうも私は『招き人』というこの世界の精霊に招かれた存在で、不思議な力がオマケとしてついていた。明人は『渡り人』として事故でやってきた存在だった。
オマケには祝福なんて名前はついていたけれど私には持て余すもので……要するにいらないものだった。だから手放すことにした。
手放すための方法はなかったので、見つけて、どうにか実行出来る程度に場を整えてくれたのは全部明人だった。私はシェイラに保護されて、待つだけだった。(ティアとはこの時に知り合った。シェイラの所属する魔法騎士団のメイドさんなのだ。)
明人ばかり動いていておかしいのだけど、明人だからで全て納得できる。私の夫は素晴らしいのです、なんて惚気るつもりはないけれど事実だ。時々素晴らしいを通り越して変だと思う時もあるのは余談か。
でも、手放す方法を見つける中で、何故か日本人の顔見知りに遭遇したり(ここは異世界です)、皇太子とお知り合いになったり、ほぼ名前だけとはいえ爵位を手に入れてくる人は、おかしいと思う。
そんな明人が見つけてきた方法は無事に実行できて、私は持て余す力とさようなら出来た。ついでに手放したものを皇太子が欲しいといって、買い取ってくれたので住むところが手に入ったので、私と明人はそこで夫婦として暮らすことになったのだ。
……うん、素晴らしくご都合主義的な展開だ。
御都合主義といえば、もうひとつ。私と明人の年齢だ。日本では、私たちは三五歳だった。四捨五入すれば四十になるアラフォーだ。だけれどこの世界にきたときに、体が約半分の年齢である十七歳(明人は十八歳)になっていた。
本来私だけがこの世界にやってくる(招かれた)ところに、明人が割り込んだので、一人分の枠を分けあったから若返ったのだろう、というのが明人の考えだ。
それが正しいのかどうかは分からないけれど、現実として、今の私は若い。メンタルは別だけど。
若いので、人生やりなおしがてら、こうやって若い女の子とお茶したりしている。
「ごめん、そんなの言われても困るよね。忘れて頂戴」
自覚はなかったが、お茶をする中でため息が多かったらしい。理由を問われたので正直に話したのだけれど、言うべきではなかった 適当にごまかせば良かったのだ。こんな反応に悩むことを素直に告げたところで、誰も得しない。こういうところ、私のコミュニケーション能力が低いなぁと実感する。
「いえ、大丈夫です。むしろどう愛され過ぎてるのか、教えてください!」
「……無理しないで?」
姿勢を正して言われても、苦笑するしかない。
「今後の参考にぜひ。あ、そうだ、職場で話してもいいですか?」
「え……さすがにそれはちょっと……」
ティアの職場、すなわち魔法騎士団には、今でも時折会う知り合いがいるので、話されたくはない。
「名前は伏せます」
「いやいや、そういう問題じゃなくてね?」
「メイド仲間にしか言いませんから大丈夫ですよ」
にこにこと笑顔で圧力をかけられる。
「こんなおもしろ……いえ、気になること、触りだけ言って後はお預けなんてひどいですよ! 話したいから言ったんですよね。聞きますから、さあどうぞ!」
「今、本音が……」
後半はその通りでございます、なのだけど。
「気のせいです」
すごくいい笑顔で断言されたけれど、確かに『おもしろそう』と言いかけていた。
「さあ、もったいぶらずにさくっと話してみましょうよ。ね?」
「お願いだから、誰のことかわからないようにしてね」
話したいから言ったのだろう、というティアの言葉は正しい。誰かに相談というか話したい気持ちは間違いなくあった。でなければ、うっかりとはいえ言ったりしない。
面白半分とはいえ、聞いてくれるというのなら語ってしまおう。うん。