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女神様に物申し隊!(仮タイトル)  作者: カゼハカゼ
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純粋な疑問




 目の前の人間の女の言葉に俺は耳を疑った。頭のネジが足りないただのアホだと認識していた。しかし、この人間の女はなんと言った?

 「何故 人を殺しちゃいけないのか」と言った。その眼に、意地悪や悪意という不純物はなかった。


 幼子が疑問に思ったことを親に向かって何故と疑問を投げ掛けているように、無垢な眼差しで俺を見詰めていた。俺はそれに冷水を浴びたように驚いた。人間の女には(頭のネジが足りないが一応)駄目だと言うことは絶対にしなさそうな一般常識はある。



「わたしの国の法律に………いや、この世界にもあるんだろうけどね、人を殺しちゃ駄目ですよーっていう法律があるんだけどさ 何故殺しちゃいけないのかは書かれてないんだよね。人に尋ねれば 人権侵害とか法律によって定められているとか、命は尊ぶものとか 十人十色であるけれど わたしとしてはピンとくるものがない、」



 難しい。非常に難しい。

 縄がなければ腕を組んでいたであろう人間の女はうんうんと頷く。

 正直、俺は人間の法律は知らないが 街や村等 群れて行動する生き物であるのは知っているし、俺が住んでいた場にもルールがあった。他人に被害を与えぬ為とかではなく、人間に捕まらぬようにするためのルールだったが。

 人間の女は親の受け売りを自慢気に話す子供のように、しかし、明らかに自分の意思を語る。



「そもそも、独自で探せばその考え方が確立して価値観の違いや他人の考え方を偏見と捉える人も生まれてくる。でも、一つに絞っちゃうのもしかり。だから 教科書には理由を書かない。教科書に書かれてないなら、何故殺しちゃいけないのかは様々な書物や人の意見とか知って 自分で研究して探し求めなければならない」



 目を逸らさず、真剣に話す人間の女に 俺は呆気に取られる。

 頭がカスカスの恐れ知らずかと思っていたが どうやら興味があるものはとことん追究するタイプのようだ。

 自分よりも幼く、身なりからして血の臭いを知らずにぬくぬくと生きてきた怖いもの知らず。人殺しは絶対に駄目とぬかす頭がお花畑だというイメージが まんまと打ち壊された。

 俺は舌を巻く。どうやら低評価過ぎたようだ。




「なら、お前は………一体 何が人殺しを駄目だという理由だと考えているんだ」

「わたしが現時点で正解だと思ったのは 平等じゃないから だと思う。才能とか、生まれとか、人間は生まれて死ぬ 以外は本当にバラバラ。大抵のことは出来る人もいれば、努力すれば出来るようになる人もいるし、努力しても報われない人もいる。生きていくと自分を基準にしたものさしを作って 他人と比べて自覚する。隣の花は赤いから 自分は不幸だと嘆く。それが嫉妬とか劣等感とか葛藤とか、そういうのに変わる。





 人間は平等になりたいから、建前上 人殺しは駄目なんだと主張しているんだとわたしは思ってる。」



 その言葉には偉大な国の王様が発言したかのような威力を秘めていた。



「人間って面倒な生き物だよ。自分の行いに罪悪感を抱いて生きる意味やら何やらを追究したがるし、最も悪いのは矛盾だね。小さくても生きている蟻やら蚊やら潰すだけ潰しといて、いざ自分達が愛着をもつ生き物を虐めていると止めなさいとか命は大切にとか説教染みたことをする。ほんと二枚舌だよね。道端で虫を捕まえて遊んでいる子供に母親が 可哀想だから逃がしておやり、とか言ってるのみて どの口がほざくかって毎回突っ込んでるもん。

 ホント面倒」

「お前はその人間の仲間だろ」

「はははー、お前もな」



 ………俺 人間じゃねーんだけどな。そう思いながら米神辺りから生えている耳を少し揺らした。端からしたら窓から入る風で揺れたと思うだろうが、俺のこの姿は人間に近付くよう擬態化した姿だ。人間の女には耳が髪の毛に見えているのだろう。そうじゃなければ、俺を人間だとは言わない。



「わたしは今まで食べてきた牛や豚、殺してきた虫達の怨念や子孫たちに殺されたって何も言えないよ。 まぁ、だからって マジでされるのは困るけど、お前が殺しをしたのは特別酷いとは思わないよ。 それほど苦しまずに死ねたと思うしね。

 だからせめて、わたしも殺されるなら苦しくなく殺してくれ」



 「ホントなら死にたくないけどね!」とひしひしと叫ぶ人間の女に俺は笑った。いくら可笑しな人間といえどやはり子供だった。ぷるぷると目を閉じ「殺すならはよう殺せ~」と言い張る姿は 先程「何故 人殺しをしてはいけないのか」の独自論を述べていた人物とあまりにも掛け離れていた。

 「ちょ、死の覚悟をしている人間を笑うとはお前悪趣味だぞ!」と じたばたする人間の女の頭を掴んだ。



「あずきと言ったな お前」

「なんでわたしの名前を!」

「お前のこと あずき と言ってただろ」

「………………ハッ!」



 自分の名前をさらりと晒してしまっている事に漸く気付いたらしい人間の女こと、あずきは「そう言えばそうだった……」と愕然とした顔をしていた。なんと言うか、基本的にやはり頭のネジが足りないんだな。



「お前には利用価値があるからな そうそう殺さねーよ」

「何をするつもりだ!?」



 「顔がすげぇゲス顔なんすけど!? 何すんの、エロドウジンシみたいに~的なやつすか!??」と言い手足が自由なら身構え数歩後退していたであろう人間の女………あずきは身体を捩らせる。人間なら使い道があるし、何よりとてつもない魔力を秘めているのだ。敵とし殺すより手駒にした方が何倍も利用価値はある。

 悪巧みをする顔をなるべく笑顔へと変換させ俺は



「俺の名は―――だ。お前の命は俺が握っているから 全身全霊で尽くしてくれ」

「……………え、なんて?」



 自らの名を名乗った。名乗れなかったが。

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