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竜の少女  作者: よる
第四章 夢と希望と、現実
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現実・深淵

ネーザリンネとディーメネイア、キリングすらも、アドリィの告白を黙って聞いた。

茶化すこともなく、無表情に近い静かさでアドリィの嘆きを受けとめた。

言い終えて口を閉ざしたアドリィと黙ってアドリィを囲む三人だから、辺りは風に草や木の葉がそよぐ音と、近くの枝にいるのだろう楽しげな鳥の声だけになった。

静寂ーーー。

上辺はだったが。

内では言葉にならない深い憤りが渦巻いていた。

ーーー黒竜っ、いきなりこそまで言うかっ!少しはこの子の気持ちも考えろっ!ーーー。

ーーー告白したことは見直したのにっ、なんてこらえ性の無いっ!!ーーー。

ーーー信じられないっ、ありえない、今の状況で、それ言うか、馬鹿男ねっ!本当に殺すつもりなのか、馬鹿黒竜めっ!!っていうか、普通だって黒竜に言われたら退くってっっっ!!!ーーー。

話を聞いた結果、心の中では状況判断力の乏しい黒竜に怒り狂って罵詈雑言だったが、表面では女たちはふんわりと笑みを浮かべた。

これは女として、人生の先達としての経験値のなせる技だ。

ガーレルへの悪口が、かえってアドリィを傷付けることになることだとわかるから。

アドリィ本人は十分に理解してわかって苦しんでいるのだから、これ以上、不必要な思いを味わいさせたくなかった。

現実には、出会って間もない自分たちよりずっと、天恵として生きてきたアドリィ本人の方が遥かに深くわかっているはずだ。だったら自分たちが何も言う必要などないのだ。

でもーーー。

確定した未来など無いはずだった。

己の運命など誰にもわかるはずはない。竜であってもだ。

まして、生き残るはずない天恵でありながら、今、こうして生き続けているアドリィの未来など想像もつかないものであるに違いない。

それがどれほどの可能性であることだろうと、理性が無理だと感じることだろうと、可能性が皆無などと誰が言えるだろう。

それは祈りで、願望なのかもしれないと三人は思った。

竜だろうが、夢を見たって悪くないはず。己たちも蒼竜の伴侶の座を射止めようと野望をーーー夢を見ている。

「そこまで黒竜王に言わせるなんて、あなた、さすがね」

「黒竜さまはあなたにぞっこんなのね」

「闇竜の伴侶ってのは、お勧めはできないけど、あんたも嫌いじゃなのよね。だったら覚悟を決めて添い遂げてみなさいよ!他では味わえない濃厚な時間になるでしょうよ」

「違うっ」

アドリィは慌てて言った。

「そういうことじゃない!そうじゃなくてっ・・・」

雌性竜として、ガーレルを求めるなど、できっこない事だ。

ガーレルが言ったのは、求愛、伴侶に望む言葉だとアドリィも何度も心で反芻して理解した。他の意味を考えられなかった。

伴侶。

自分には関係のないことのはずだった。

黒竜・ガーレルの番の相手。

ガーレルのーーー。

アドリィは首を横に振る。ふるふると淡く輝く白い髪が揺れた。

考えれば考えるほど、心が張り裂けそうになる。

番になる雌性竜には大きな役目が生まれると、アドリィは思っていた。

重要で、義務とさえ感じる。

強く美しい雄性竜の伴侶になる者には、その竜の血を引く子孫を残す役目があるはずだ。

その上、竜王の伴侶ともなれば事はもっと重大だ。伴侶だって、竜王に相応しい価値のある存在でなければならないと感じる。

強い個体からさらに強い個を、子を世界に残すためには、伴侶の素質だって問われるはず。

優れた個から優れた個が生まれる。

優れないものだって生まれるだろうけど、劣ったところから優れた個が生まれることなどまずない。

よしんば、最良に巣穴で兄弟の中で頂点にたつ子だろうと、血統からして違う竜王の血脈の並みの子に勝るとは思えなかった。

だから、もしも自分に将来、抱卵ーーー成体の雌性として体の奧に卵を抱けることになろうと竜王に相応しいわけがない。

それだって、もしも、だ。そんなことなど絶対ない類の、もしもの話だった。

それなのに、ガーレルは目茶苦茶だった。

優しすぎておかしいのだ。自分に伴侶を望むなんてーーー。

ガーレルのが望むことなら全力で叶えたい。でも、こんなことは無理だ。どんなに足掻こうと、天恵ではなくなって、ガーレルに見合う強くて美しい竜になんてなれるはずがない。

もし望みが力を喚び、叶うなら。

アドリィは見世物小屋の狭い檻の中で何度も何度も夢想した。

天恵の自分の立場を全うする夢だ。仲間の一部になり、アドリィは果て、アドリィを取り込んだ兄弟は大きく強い竜になって空を飛ぶのだ。

望みが叶うなら、アドリィは今、ここにいたりしないのだ。

願いなんて叶わないから、アドリィはここにいるのに。

苦しくて、圧し潰されそうだった。

もう涙は出ない。呼吸も出来なくなりそうだった。

自分が天恵であることは、苦しい気がした。だから避けて、あまり深く考えないようにしていた。

でもそんなことよりずっとずっと苦しい。

苦しいけれど、考えることを避けることも出来なかった。

なぜって、ガーレルに言われたから。

考えないといけない。真剣に考えなくちゃーーー。

でも考えたって、どうにもならなかった。アドリィには解決なんて出来ない問題だった。

ーーー消えてなくなりたい、と思った。

何も出来ないから。

苦しいから。

応えられないことが苦しいから。

悲しいから。

今、心から思う。わたしは悲しい。悲しい。かなしい。

くるしい。

かなしい。

ーーーくやしい。

わたしは、かなしくて、くやしい。てんけい(天恵)であることが、いきていることが、くやしくて、くやしくて、くやしくて・・・くるしいーーー。

何も見えない。真っ暗だった。

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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