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竜の少女  作者: よる
第三章 生きること
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女同士

同族に対する慈愛、憐憫、正義心。でも実は、ただの暇つぶし。

人間の街で暴れるということが闇の竜の本当の目的で、憂さ晴らしのついで。

黒竜の行動についていろいろ考えられたが、本当にそれだけだろうかと、女たちは思っていた。

もっと面白いものが潜んでいると疑っているのだ。それは、女の感だ。

「あの・・・今更ですが、わたしは、アドリィと申します」

「ええ。知ったわ。黒竜さまが口にされていたから。私は、ネーザリンネ」

「キリングよ」

「ディーメイア、よろしくね」

一番背の高いネーザリンネが、改めて聞いた。

「黒竜さまがいなくて、あなた寂しいの?あんなことされて、怒っていないの?」

三対の目がじっとアドリィを見つめていて、言いたくなくても言うまで決して逃しては貰えないと感じた。

「寂しいです・・・」

口に出してみるととても恥ずかしくなった。

でも、さっさと続きを言いなさいなという強い視線におっかなびっくり続けた。

「・・・あのときは・・・・腹が立ったけど・・・今はもう怒っていません・・・」

「つまらないわ!」

アドリィが思わず震えるぐらい強く。

「もう少し、面白く言えないかしら?」

とても不満げにそんなことを言われても、アドリィは困ってしまう。

ガーレル・黒竜の行為に対して、自分ごときがどう感じているかなど考えるだけでも必死だった。

まあまあと、ネーザリンネが二人を取りなしていた。

「こういう感じなのが、いらいらして面白いんじゃない。ぎらつかれていると見てて興奮はするけれど、すぐに醒めてしまうわよ」

アドリィには、言われている意味がよくわからなかったけど、二人は納得したようだ。

「そうね。じっくりがいいわね。急かしては駄目よね」

「黒竜さまもあまり焚きつけて、思いあまってね、で、あっさり死んじゃったって展開はあと味が悪くなるし、つまらないわよね・・・」

笑顔で見つめられて語られていたが、アドリィにはもう本当によくわからないっーーー。

アドリィは姿同様幼くて、されている話が全く理解できなかったことにしてやり過ごすと決めた。

でもこれだけはわかる。三人はアドリィにもガーレルにも悪意はなくて、ただ楽しんでいるのだと感じていた。

考えていることが少し怖くて刺激的だったとしても、あまり聞きたくないとしても、アドリィに彼女たちの口を塞ぐことはできないのだから、仕方がないのだと自分を納得させるアドリィに、うふふと女たちは意味ありげに微笑み合っていた。

そしてそのあと、本当に悪意はなくても震えあがることをアドリィに突きつけていた。

「黒竜さまのお味は、どうだった?」

「あ・・・」

口の中が瞬時に干上がるような、唾液が溢れるような二つの感覚が同時にやってきてアドリィは硬直していた。

意識的に外に追いやって、考えないようにしていたことだった。

それは、とんでもないことだった。

アドリィが望んでやったわけでは無く、ガーレルの意志で強いられただけで被害者だったけど、でも普通に考えるとアドリィが加害者だった。

相手の血肉を食べたのだから。

普通ではありえないことだろう。

弱いアドリィが、大きな黒竜の肉を、食べるだなんてーーー。

くらくらと目眩に見舞われてぺたんと尻餅をついていた。

「あら、大丈夫?」

「思い出して気持ちが悪くなったの?」

「竜の肉ってさすがにわたし、食べたことないのよね。でも、なんていうか、肉の主がさらにあの黒竜さまでしょ、美味しそうなかんじはまるでしないわよね・・・」

心配されているのはわかったけれど、どんな顔をしていいのかわからない。

アドリィは同族を食べた。

一部だったけど、竜を食べたのだ。

食べられるはずのアドリィが、反対に食べた。

味は覚えていなかった。

口に入れられて飲み込み、気を失う直前のような嘔吐感はもうなかったけれど、思い出そうとすると気分は良くなかった。

再び、恐ろしいことをしてしまったという背徳感、恐怖感、罪悪感に体が締めつけられる。

完全にガーレルの意向だ。たとえ、いくらアドリィが強く食べたいと望んだって決して起こりえないこと、しかも相手が黒竜、ガーレルという。今回の場合、アドリィは懸命に拒んだのだが・・・。

ガーレルの恣意でなければ実現されないような大それたことが起こったのだ。

ガーレルを食べたとき、喉が、胃が焼けるように熱くなったと思った。

肉片が体内で溶けるのではなく、アドリィの体が溶かされ出したように感じた。

そうして呑み込まれたどろどろの灼熱のなか、溺れたように意識を無くした。

目を覚ましたとき、そこにはガーレルの姿はなく、アドリィは一人残されていた。

ガーレルの作る黒い境界線はあったから、完全に捨てられたわけではないと感じたけれど、ガーレルは街に出てのらりくらりとやっている。

待っているだけのアドリィにとって、その時間はとても長かった。

「どうかしたの、本当に元気が無いわね」

「・・・嫌われてしまった、かも・・・」

小さくこぼれていた。

思い浮かんだ一つの可能性だった。

ガーレルを食べただけではない。その前にもあった。

ガーレルを怒らせてしまうようなことがあった。やったのだ。

ガーレルは、ガーレルの作った力の壁に触ろうとしたアドリィに怒っていて、それでもアドリィの希望通りに触らせてくれた。

けれど、悪い子に罰を、と言って、ガーレルを食べるという運びになった。

あれが言葉通り罰だとしたら、怒って呆れて、居なくなっていても当然なのかもしれない。

ガーレルは、今、アドリィの顔を見たくないという心地に襲われているという想像はとてもしっくりといった。

「なんで?」

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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