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竜の少女  作者: よる
第三章 生きること
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消化不良

「おい、言っていることがかなり怖いぞ?」

迫力に気圧されて一歩引いたガーレルに、弱々しい、でも無視できない大切な声が届いた。

「・・・きもちわるいーーー」

「アドリィ?」

竜たちがそろって、地面の小さな少女に視線を向けた。

「・・・ぎもち、・・・わるい・・・」

仰臥していたはずの体が、横を向いて小さく丸まっていた。

血相を変えたガーレルが跪いて、震える体を両腕に抱きかかえて覗き込んだ時、アドリィは目を開けたまま失神していた。




「普通ね、弱っている者に消化の悪そうなものは無理よね」

「アクが強そうだもの、消化できないわよねぇ」

「無理矢理食べさせられちゃって、体がびっくりして、拒絶したんだね」

口々に言われたガーレルが唸り声を上げる。

「おまえらっーーー」

「だって、そうとしか考えられないわ」

「他にどんな理由があるの?」

「嫌で、気を失うほど、嫌いだった、ぷぷぷぅっ」

掴みかかろうとするガーレルに、シルドレイルの声が冷水となって降り注ぐ。

「ほとんど食料も入れない、消化機能も落ち込んでいるところに、いきなり高栄養源だ。おまえの肉が強すぎたのだろうよ」

厳かな言葉は説得力があり納得したが、

「???あいつらの言う通り、気を失うほどおまえのことを嫌ってもいたのかもしれんが、な」

「なっ、言っていいことと悪いことがあるぞっ!」

後に続いた言葉には力一杯目を剥いてガーレルは反論したが、シルドレイルにとってただの騒音だったろう。

無視されてしまったので仕方なくガーレルは言い訳をぼやく。

「ちょびっとしか食べない。だったら、そこらへんの物じゃなくて、うんといい物を食わせればいいんじゃないかと考えたんだがな・・・」

とんでもなくいい考えが浮かんだと思っていたのにと、とガーレルは溜息をつく。

栄養価もよい強い生命体の肉を食べさせれば。

アドリィが、食われる存在の竜だと選ばれた弱い個体で死にかけているなら、強い頂点と選ばれたガーレルの肉を食べさせればーーー。

アドリィは食べられるだけで、食べてはいけないなどということはあるまい。

仲間を食べた竜は通常より大きく強く育つ、と言われる。

食べたあと成長がよくなるのだ。

兄弟の中で強くて大きかった子竜は、小さな仲間を取り入れてさらに大きく飛躍的な成長をする。その原理だ。

食べられるはずの存在である小さなアドリィに、逆に大きな竜を食わせたら、どうなるのかと考えた。

アドリィよりも強く大きな竜を食べる。

丸ごとは小さなアドリィに物理的に無理だしガーレルも遠慮したいので、とりあえず少し。

弱者が強者をなど、自然にいてはなかなか食べる機会には恵まれないうえ、酔狂なほどに自虐的な行為だと自分でも笑えてくるのだが、ガーレルは与えてもいいと思ったのだ。

ただし、アドリィは嫌がるだろうと想像はついた。

仲間を食べるという発想は、実際現実にあることだけれど、あまり大っぴらにできるものでもないだろう。後ろめたさは拭えないのだから。

だから食べられて生き残っていないはずの天恵の子がこうして、生きて自我を持ち目の前に現れていることに、竜たちは少なからず動揺する。

当然の世界の理と受け入れていたことについて、いろいろ考えさせられてしまう。

天恵を食うのは成長期も始まったばかりの自我のない子供の頃の話だ。

だから成体になったガーレルは、もう今さら、たとえ食べればまだまだ成長できるかもと言われても、食べたいとも食べようとも思わない。

そういうことだから、アドリィが自分の宿命で食べられることは平気だと受け入れられていようと、自分が他の竜を食べることはきっと無理だと感じた。

とても繊細な子だった。

控えめな性格で、自分の運命も静かに受け入れている。

死ぬことも、きっと。

けれど、ガーレルは死なせたくないのだ。

まだ失いたくない。

それで、あんまり食べないものだから非常に困っていると言っている最中に、怪我までしてしまった。

ガーレルが敢えて怪我を負わせたともいう状況とも言えたが。

傷を負ってしまってさらに回復力が必要になった、となれば、もう問答無用!

怪我に後押しされて、これしかないだろうと、ガーレルは少々乱暴な方法を実行した。迷っていたことを踏み切ったのだ。

アドリィのよくわからない、壁に触りたいという望みを広い心で叶えてやった。

その引き替えなので、一方的でもない。

だから、まあ、許されるでしょうと、ガーレルは考え、その結果はーーー。

許すも、許さないもアドリィは答えなかった。

昏々と眠り続けていた。

眼球が乾いてしまうと心配したガーレルは瞼をそっと閉じてやっていた。

顔に付いた赤い血もきれいに拭っていた。

だから、もう何ごともなかったよう、ただ眠っているように見えるけれど、起きる気配は無かった。身じろぎもしない。

苦しそうでもないというところが救いだったが、ガーレルは心配でたまらなかった。

「胃を押さえて吐かせた方がいいか?」

「自分でやれよ。内臓を破ったら本当に死ぬだろう、私は関わらん」

シルドレイルは氷の声で言った。

「むぅ・・・」

力の強いことを自負する黒竜は、力加減をする自信など皆無に近い。

仕方なくガーレルは自分より力の弱そうな女の竜たちに目を向けたが、触らせたくないことがありありと見える顔つきだった。

「まあ、もう少し様子を見ていていいのではないのか。病んでいる様子はないんだ」

シルドレイルの意見に賛成する他はなさそうだった。

「無事消化し終えて落ち着いたら、目が覚めるだろう」

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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