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竜の少女  作者: よる
第三章 生きること
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アドリィの冒険

振り返って女たちを見たガーレルはもっと苦々しい顔になっている。

「早とちりだったみたい、ごめんなさい」

「シルドレイルさまのお客さまを傷つける気はないわ、ごめんなさい」

「黒竜さまのものに手を出すつもりもないわ、ごめんなさい」

実際には、彼女たちはわけのわからない事態に直面させられ、自分が傷ついただけで謝らなくてはならないことなどしていなかったけれど。

「わかった。もういい」

許されてぱっと笑顔になって女たちは逃げるように木立の奧に消えていった。

「向こうはもういいがーーーこっちだ、問題はーーー」

アドリィに視線を戻したガーレルは

「触りたかったか?」

静かに訊かれて、アドリィは素直に答えていた。

ガーレルの表情は幾分和らいでいる。

「うん。触りたいなと思った・・・」

「怪我をしたぞ?」

うん、と頷いた。怪我をするだろうとちゃんと思っていた。

「ーーー触ってみるか?」

ガーレルがアドリィの前に掌を向けていた。

大きな掌。

人間の形のそれには黒い薄膜のようなものが張り付いていた。

影でなく薄いものが渦巻くように動いている。それはガーレルの力の一部で、さっきの檻と同じものを出してくれたのだと気がついた。

両手を伸ばそうとしたアドリィに、片手だけだ、とガーレルは低く言った。

アドリィは利き手ではない左の手を伸ばす。

「いいの?」

「自分に聞け。聞いて、いいと言ったら触ってみるといい・・・」

アドリィの中に返事はすぐ返った。

ガーレルは、さっきの檻とは違って十分威力を落としていたつもりだった。

これぐらいなら、なんとかーーーと思ったけれど、まだ甘かったと苦渋を舐めることになる。

アドリィが掌を寄せて、カッと黒い火花が散った。

嫌な匂いがすぐに鼻孔に届く。

少し違う、血の甘いいい匂いだった。

小さな体は衝撃に後ろに弾かれて草の上に、とさっと落ちた。

「ーーー満足したか?」

「うん。した・・・ありがとう」

手首の上から、皮がめくれてあがって肉が剥き出しになっている。

桃色にきれいな肉だ。赤の色がどんどん浸みあがってきている。

「痛いだろ」

痛くないはずはなく、アドリィの表情は強張っていたけど、無理矢理一度笑顔が浮かんだ。

「大丈夫・・・平気」

意地なのだろうと思った。

ただ、ガーレルの方がかなり痛かった。

痛くてたまらない。目にして、自分の方が悲鳴を上げたいくらいだった。

触るに触れない腕を抱えるようにして、反対の手でガーレルの視線から隠すようにして立ち上がったアドリィは、

「向こうに行っているね」

ガーレルに背を向けて離れてゆこうとしたけれど、肩を捕まれていた。

「向こうに行く・・・」

「向こうに行ったって、治らないよ」

わかっているけど、向こうに行けば、痛いと呻くことができるはずだ。

一人になったら平気じゃない顔をしても責められないだろう。

「きみは治りが遅いだろうね。ただでさえ食べなくて弱いのに、こんな傷を作ってどうするつもりだ。傷が癒えず、腐り出したらどうなるか、考えないのか?」

答えないアドリィにガーレルは、淡々と続けた。

怒ってはいなかった。

横で、シルドレイルは冷たい表情で、ガーレルとアドリィのやりとり黙って見ている。

「答えないのか?」

「・・・考えなかった・・・思いつかなかったの・・・」

ガーレルは嘘だと思った。

たぶん、考えた上でそれでもやったのだろう。

どこか、儚く危なっかしい思考をしていると心に触れた時、感じていたから。

大きな竜が横暴で不遜なら、小さな竜は自虐的で空虚???。

理にかなっていることかなと深く考えなかったが、こんな風に表面化してこられると、ガーレルも笑っていられなかった。

「考え無しの悪い子には、お仕置きがいるよ」

お仕置きをいう言葉がもう一度口にされていた。

さっきとは違って、今はお仕置きにどきどき感はしなかった。

いらない。

それどころじゃないくらい、痛いから。

肩を引かれた。

「いや・・・」

思わず身を捩って逃げようとしたけれど、ガーレルの手が簡単に外れることはない。

「嫌は、駄目ーーー」

怖くなっていた。

嫌、怖い。とても怖い。とてもとても。

これ以上痛いのは嫌。いや、だった。

灼けるように手の先が痛んでいて、涙が滲みそうだったけれど、必死に押さえている。

自分でやりたいとやったことだったから。

自分でやって、泣いていたら呆れられるだろう。

今は少し後悔しているけど、やってみたかったのだ。

でも、それ以上のこれは、痛みは無理だ。

「嫌、いや・・・離してっーーー」

少しぐらい自分が暴れても全くガーレルに通じないことぐらいわかっていても、じっとしていられないほど怖いと感じた。

はじめてガーレルが心の底から怖いと感じていた。

大きな黒竜。

自分をどうするんだろう。

お仕置きとは、何をするんだろう。

痛いことは嫌、いや、いやっ!

「こら、暴れるなーーー折っちまいそうだっ」

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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