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竜の少女  作者: よる
第三章 生きること
32/59

怒れる黒竜

アドリィはこう答えた。

反発心でも、怒りの炎に油を注ぎたいわけでもなく、ただ本当に思いつかなかった。

言い訳をと言われても、アドリィは怒られている意味がわからなく、だから言い訳の方向性だってわからなくて、無いと答えるしかない。

そのためにガーレルの機嫌がより悪くなったとしても。

ガーレルは反抗的態度だと頬をぴくりと引き攣らせたけれど、すぐに再び笑顔に戻した。

「じゃあ、なぜおれの言ったことを守ろうとしない?」

「守ろうとしてなくない」

「守らなかっただろ?」

「そんなことない・・・」

アドリィは首をくるくると横に振った。

話が噛み合わない。

「じゃあ、何をしようとしていた?」

いらいらするガーレルは大きく深呼吸をして気持ちを静めたあと、できるだけ優しく訊いた。

すると

「・・・触ろうとしていた・・・」

「はん?」

「触ろうとしていた、だけだもの・・・」

「触る?」

「触るなと言われなかったよ?」

アドリィは真剣な顔だったけれど、ガーレルは限界だった。

ぱっと両の掌でアドリィの頬を捕まえると、額を寄せた。

ぐりぐりと押し当てる。

かなり感情控えめな対応をしたつもりだったけれど、離したときアドリィの白いおでこが赤くなっていた。

身長が足りないので倒れた太い木の幹の上に立たせて、アドリィから事情を聞いている最中だ。

シルドレイルと話をしている中、ガーレルは自分の作った力の檻に異変を感じて跳んで帰ってきたのだ。

何かがアドリィを襲おうとしているのかと思った。

半分は当たっていた。

檻の外に三頭の竜。

怪我をしていたから檻を越えて、アドリィに接触しようとしたのだろう。

怖い思いをしているといけないと戻っただけで、ガーレルには自分の作った檻の強度への絶対的な自信がある。簡単に壊されたりしない。

檻を無視し、不遜にもガーレルのものに手を出そうとする弱い生き物などは一瞬で絶命するだろう。

ただし、そこに重大な見落としがあった。

弱いものーーーアドリィ、だ。

自分の意図しないところに潜んでいた、思ってもいない危険に、黒竜はげんなりしている。

それでも一応、竜だったが、アドリィ。

自分が一瞬でアドリィを絶命させてしまっていたら、と考えたらまるで笑えない。

想定外だった。

聞き分けのいい子なので、おとなしくしていると思った。

アドリィが檻に触ろうとすることなどこれっぽっちも考えていなかったのだ。

う゛ーんと、ガーレルが呻る。

少し離れて、一緒に駆けつけたシルドレイルと、シルドレイルの後ろに人間の姿に戻った三頭の竜たちが傷口を押さえながら、でも興味津々とガーレルとアドリィの様子を眺めている。

「あいつらが、あれだけ怪我をしたのを見て触ったら危険だとは思わなかったか?」

「思った。それで、怒って体当たりしたら、大変なことになると思ったから・・・。だからわたしも触ったら、本当に無理だってことがわかるかなって・・・」

「どうゆう理屈だ!あいつらの身を案じたと言うことか!?」

「三人と一人だから、わたしだけで済ませられた方が被害が軽いし」

「いや、間違いなく、おまえの方が重くなるぞっ!」

同じ衝撃でより重体になるのは、間違いなく、アドリィだ。

ガーレルに噛みつくように怒鳴られて、アドリィは身を竦めた。

「その小さな頭はそんなことも判断できなかったか!?」

「・・・それに」

「それに、なんだ、言えっ」

「触ってみたいと思った・・・」

「は!?」

「触ったらどうなるかなって。・・・わたしだと、どうなるかなって・・・少し面白いかなって」

ガーレルは絶句した。

面白いとか、面白くないとか。

言葉が無くなった。

そういう気持ちはわからなくはないのだ。

駄目だと言われていることを敢えてやる、やりたくなる。

やってみる。

はっきり言って、ガーレルにはよくあることだった。

でもそれは、余力のあるものが許されることだ!

アドリィのように食わなくて、死ぬかもしれないと、心配して相談をされているようなものがやっていいことじゃないはずだろうてーーー。

さすがに、ガーレルもアドリィ本人にこれを口にすることはしなかったが、腹の中で押さえたものは溜息となって出てきた。

三度目の溜息。

怒りは溜息になって吐きだしたので、消えてしまったのだとガーレルも感じた。

心に負った衝撃はまだ鮮明に残っているというのに。

向き合ったまま会話が途絶えているガーレルとアドリィのところに、シルドレイルが近づいてきた。

「おまえが悪い。内側に攻撃性を備える必要性はなかったーーー」

「ああーーー。そのようだ、おれの不備だな」

冷ややかに断ぜられて、ガーレルは苦々しく答えた。

アドリィは驚いて、それは違う、悪かったのはたぶん、自分ーーーと言いたかったけれど目の前の二人の厳しい顔の前には口を開けられない。

「あいつら言い分だ、聞いてやってくれ」

シルドレイルは顎で示すと女の竜たちはその場から大きな声で言った。

「恋敵と思ったの!」

「シルドレイルさまの新しい候補かと思ったの!」

「なら、はやく決着をつけた方がお互いのためだわ!」

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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