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竜の少女  作者: よる
第二章 冒険
26/59

黒竜の狂気

衣類がはち切れそうになっていた。

でもなぜ。

ガーレルは、几帳面で衣服が破れることが嫌で、きちんと脱いでから変身するはずなのに。

それがガーレルなのにーーー。

「ーーーこれがそんなに大事なら」

ガーレルに気を取られていたアドリィは、頭がぎゅっと掴まれ足の裏が地面から離れたのを感じた。

『ふらふらほっつき歩かず、ずっと抱えていろっーーー』

ぎゃっと、悲鳴を上げる暇もなくアドリィの体は投げられて、今にもシルドレイル目がけ突進しようとしていたガーレルが、投じられたアドリィへと体の方向を変えた。

空中に跳んだガーレルがひったくるようにアドリィの体を掴んで止める。

投げられた時よりも受け止められたとき体を打ったガーレルの腕の衝撃の方が強くて、アドリィはしばらく息ができなかった。

苦しさが抜けて呼吸ができるようになったとき、アドリィを心配そうに覗き込んでいるのはいつものガーレルだった。

「大丈夫か?」

「・・・うん、大丈夫・・・」

竜への変身もやめて、すっかり普通の人間に戻っていて、アドリィはほっと安心したのだ。

アドリィの様子を確かめたあと、ガーレルはアドリィをそっと胸に抱いたまま、シルドレイルの方を向いた。

厳しい表情で無言にたたずむ蒼い竜に

「おまえこそ、なんてことをするんだ・・・」

少し顔を顰めて、でもどこか恥ずかしそうないつもより弱い口調で言った。



「バレたか?」

「何が?」

「いや、別に・・・」

「黒竜が弱いもの相手に、力尽くで存在を歪めるような卑劣な真似をしていたことか?」

「むぅ・・・」

「・・・」

ガーレルは口を閉ざし、その横でアドリィも黙っている。

シルドレイルは、怖い性格だなあと思いながら。言葉がきついのだ。

されていたアドリィにはぜんぜん平気なことだったけれど、シルドレイルの言葉には強い非難があった。

でも自分などが口を挟めることじゃないと感じたので、静かに黙っている。

「歪めたいわけじゃないぞ」

ガーレルは言い訳のように言う。

「鱗を消したかっただけだ。足取りを消すために。・・・アドリィは消しきれない・・・」

「おまえのさっきので、もうおまえたちの消息は人間に知れ渡っただろうよ」

怒りのガーレルが変身を解き、黒竜に変わろうとしたことで、巻いていた追っ手を再びすべて惹きつけた。

ガーレルだって悩んだ末だった行為だったけれど、結局、自分で全部無駄にしてしまったことになる。

「そうだな・・・今は、後悔している」

「馬鹿め」

ふんとシルドレイルは不機嫌に鼻を鳴らした。

話は決着を迎えたように途切れ、もう終わったのかと思われたが沈黙の後、不機嫌さを消した静かな声でシルドレイルが再び口を開いた。

「わかっていてやっているなら、止めないが。染まるぞ?」

「染まる?」

意味を理解しかねたガーレルが繰り返した。

「色がないところに、濃い黒を注ぎ込めばあっさりと染まる。そんな弱いものなら与える影響は大きい。染まってしまえばもう取り除こうにも無理だ、残って抜けなくなる。本来の色には二度と戻らない」

染めたいならいいが、私はどうでもーーーと付け加えられたガーレルが、顔色を変えていた。

色の話だけではないことは、言われなくてもわかった。

「そんなつもりはない!」

強い口調のガーレルの横で、黙って座っていたアドリィがぺたんと倒れていた。

空気が急に重くなって、体中の力が抜けてしまったと思った。

草の上に仰向きに寝そべったアドリィの視界の中で二人の竜王が静かな表情で自分を見ている。

ガーレルはなんだか少し悲しそうな表情をしているようにも見えた。

いきなりひっくり返るなど恥ずかしい醜態を晒してしまったとアドリィは急いで起き上がって、それで気がついた。

頬にかかる髪の色が黒じゃなくなっていることを。

目を向けると肌の色も爪も全部変わっていて、元に戻ったんだと思った。

「ーーーやっぱり、この方がいいね・・・」

「ーーー天恵の子か。よく生き残ったな・・・」

「おれが見つけたんだからな」

「何が言いたい」

「いや、べつに・・・」

冷ややかな視線に合ってガーレルは言い淀んだが、これはあまりいい気分ではなかった。

見るな、俺のだ、が本音だがシルドレイルの領地に居候をしようとしているので強くは言えない。

「・・・だから、ゆっくり休ませたい。ひどい食い物しか与えられない劣悪な環境に置かれていた。よい物をたくさん食べさせて、体力をつけさせなくてはいけないんだ」

アドリィを無表情に見つめるシルドレイルに、ガーレルは気を逸らさせるように言葉を並べる。

「だからな。まあ、このまましばらくここで・・・アドリィは鱗が消せないわけだが・・・なあ、どうだ?」

うるさいという顔をガーレルに向けて、シルドレイルが言った。

「今さらだろ。ここにいる限り、人間は来る時にはやって来る。元々四頭もいると涎を垂らしている場所だ」

「今は、六頭になった。ーーーかなりの密集地だな」

「そう思うなら、出て行け」

「いいや、男はおまえ一人では心細いだろう。もう少しいてやる」

「よく言う。おまえが呼び集める人間が、一番厄介なのだろうが、黒竜め!」

ぎっとシルドレイルに睨めつけられて、アドリィから気を逸らすことには成功したがガーレルの分は悪くなっていた。

「そんなことはないはずだーーー」

「おまえを追ってくる奴らは金に目の眩んだ粗野な狩人じゃない。帝国の魔術師だろうが?」


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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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