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竜の少女  作者: よる
第二章 冒険
25/59

秘密

母親のスフィジェを知っているなら、年数が合わなくなっても当然の話だった。

成長期である子竜が過ごす二十年という時間は、長い寿命の中においてほんの瞬く間であろうと、他の二十年とは全く違う重大で重要、劇的な変化の時だった。

大人になるため成長段階はその先の一生を左右する重要な時期で、その間にいかに滞りなく少しでも大きく強く成長できるかーーー。

竜の人生、竜生がこの時期にほぼ決まってしまうといってもいい。この期間に満足な成長を出来なかった竜がその後、飛躍的な変化を遂げるなどまず望めないだろうから。

人間に比べて竜の寿命は長かった。

個体差があって平均数百年。かつては千年生きた竜が存在したとも言われる。

たとえば人間の五倍の寿命を持った竜がいたとして、人間の時間を単純に五倍したものを持つわけではない。竜であっても成長期は人間と比べると多少遅いという比較的短時間で一気に育ち、そしてそのあと、人間には考えられない長い時間をゆったりと過ごすのだ。

竜とは言え子供の時期が長すぎれば無事に大人となれず死を迎える可能性が高いからだーーーと竜を研究する学者が論じているが、それが正しいかどうかなど竜当人も知らない。

竜から言えば、人間は短命のくせに時間を掛けて大人になる、だったが単に種族の成熟速度の違いだろう。

だからアドリィも、本来であれば亜成体に成長を遂げ、幼く危険が多い子供時代を無事に脱しているはずの時間が経っているはず。

でもなってはいない。スフィジェの子が嘘ではなくても。

それはアドリィが天恵だから。天恵という大きくならない個体だったから。

天恵で、食われて果てているはずなのに、生き残ってしまっているから。

けれど、そこはガーレルに言うなと言われていることだった。

シルドレイルに話すことは出来ない。

黙ってしまったアドリィにシルドレイルは、苛々と腹立たせ、癇癪を破裂させるように声を荒げた。

「黒い鱗はガーレルヴェルグの仕業か!あいつめ、何をやっているっ、見えんっ!ーーー答えよ、おまえの鱗の色だ」

アドリィの体が震えていた。

強い竜から、答えろと命令を与えられていた。

言葉には力が宿り、相手を支配する。

シルドレイルの力がアドリィをぎりぎりと締めつけていたが、答えられなかった。

従って答えなくてはいけないという本能を、必死で押さえつけていた。

ガーレルは、シルドレイルほど強く言わなかったけれど、でも自分は約束したのだから。守りたかった。

「言えない・・・」

「私に逆らうか?」

「約束、したから・・・ごめ、ごめんな、さい・・・お許し、ください・・・」

「ガーレルヴェルグとか」

なら、仕方がないとシルドレイルはすぐに納得した。

先に黒竜からの別の命令が与えられているなら、答えられなくても不思議はない。

でもそうなると、一層、気になる。

ガーレルヴェルグはいったい何を隠そうとしている?

シルドレイルがアドリィの髪に触れようとして、

「駄目!」

アドリィはすり抜けて逃げ出した。シルドレイルの束縛は薄れていたから動くことができたから、このままこの場から逃げてしまいたかった。

でも。

「私の領地で、私から逃げるか?」

シルドレイルの言葉に、足が重くなって止まってしまった。

「こちらにお出で」

アドリィはゆっくりと、シルドレイルに従うしかない。

元の位置まで戻ったアドリィの髪に繊細に長い指が触れた。

一房、手の平に取られ慎重に指の腹で撫でられる。

シルドレイルが撫でた後、一瞬髪から色が消えた。

すぐにガーレルヴェルグの黒に戻ってしまうけれど、確かに別の色合いが存在したが、その色はーーー。

シルドレイルは両手でアドリィの小さな頭を掴み、能力を込める。

今度は髪色全体も、瞳の色も見て取れた。

「珍しい、そういうことかーーー」

アドリィはどうしていいのかわからなくなっている。

知られないように言われていたのに、できなかった。

アドリィにシルドレイルに意に逆らうことなど不可能で、はじめから無理だったけれど、今、アドリィにあるのは、自分がガーレルとの約束を守れなかったことだけだった。

とても悲しかった。

とても、とてもーーー。

「ーーー手を離せよ」

『それは、おれのものだ、手を、離せーーー』

二つの声がほぼ同時に聞こえていた。

耳と脳裏に。

人間の言葉と、竜の、だった。

ガーレルとは思えないほどの怒りのこもった声音で、アドリィとシルドレイルは声の出所に目を向けた。

木立の間に背を丸めたように前傾姿勢で立つガーレルがいた。

「おい・・・なんて顔をしてやがるーーー」

舌打ちをしたシルドレイル低く言った。

金の目は爛々と輝いている。

激しく躍る感情は憎悪だろう。

口の端が裂けて吊り上がり、白い牙がぞろっと並んでいる。

前に垂らされた腕の先で爪が黒く大きく長く伸びていた。

竜に戻ろうとしているガーレルに、その必要性も人格が変わってしまっているような強い怒りの意味だって理解できないアドリィが息を呑んだ。

『返せーーー』

ガーレルの体がどんどん膨れあがっていく。

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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